2020年02月24日

ねむい


「ねむい」は、

眠い、

と当てる。形容詞である。「ねむい」は、

ねむりたい気持ちである、
ねむたい、

という主観表現の意味と同時に、

眠りたくなっている状況、

という状態表現の意である。「ねむい」の同義語、

ねむたい、

は、古く、

ねぶたし、

であり、

「ねぶ(眠)りいた(甚)し」の変化した語、

とある(学研全訳古語辞典、岩波古語辞典)。とすると、

ねぶたし→ねむたし→ねむし、

と転訛したとも考えられるが、もうひとつ、憶説だが、「むむい」の文語、

ねむし、

は、

ねむりたし、

が、

ねむし、

に転訛したのではないかという気もする。「たし」は、

鎌倉時代に入ってから多く文献に現れ、希求の意を表す、

とあり、動詞の連用形につく、とある(岩波古語辞典)。そして、

「まほし」と同様に、話し手の希望を表すだけでなく、客観的に第三者の希望をも表すことができる、

とある。

ところで、「ねむる」(眠る・寝る・睡る)自体、

ねぶるの転、

であり、かつて、

ねぶる、

であった。

この「ねぶる」(寝る・眠る)は、

寝経るの転かと云ふ、いかがか、

と大言海は、いささか疑問符を付けている。日本語源広辞典は、

ネブル(寝+経る)、寝た後次第に時間がたつ意、

と共に、

ネニブル(寝+鈍る)、寐た後、いつしか感覚が鈍くなる意、

を挙げる。語源は、理屈だっているものは大概、語呂合わせと決まっている。「いつしか感覚が鈍くなる」というのは、いかがなものだろうか。この他、

ネフル(寝振)の義か(和句解)、
ネム得るの意。ネは収まり静まる意(国語本義)、
夢の国に遊ぶ意のネミ(寝見)を活用させた語(日本古語大辞典=松岡静雄)、

があるが、

寝経る、

が順当か。ところで、「ねる」の、

ね、

自体が、

寝、

と当て、

横になる、
臥す、
寝る、

といった意味であり、これは、

ぬ、

ともいい、

つれもなく人をやねたく白露の起くとは歎き寝(ぬ)とは忍ばむ(古今集)、

という用例がある(大言海)。さらに、

なし(寝し)、

の「な(寝)」ともいい、

寝(ね)の尊敬語、

とあり(岩波古語辞典)、

門に立ち夕占(ゆふけ)問ひつつ吾(あ)を待つとな(寝)しすらむ妹(いも)を逢ひて早見む(万葉集)、

という用例がある。さらに、

いぬ(寝ぬ)、

の「い」も、

寝、

と当て、

イは睡眠、ヌは横になる意(岩波古語辞典)、
寝(イ)を寐(ス)る意(大言海)、

と解釈が分かれるが、「い」は「寝」の意であり、

大原の古りにし里に妹をおきて我寝(い)ねかねつ夢に見えこそ(万葉集)、

という用例がある。

つまり、「ねる」の「ね」は、

い、
ぬ、
な、

と転訛をしつつ、「ね」に落ち着いたと見える。確かに、「ね」と「ぬ」「な」は、転訛しやすいと考えると、古形は、

い(寝)、

ではないかと思ったが、「い」と「ね」は使い分けられていたらしいのである。「い(寝)」は、

人間の生理的な睡眠。類義語ネ(寝)は体を横たえること。ネブル(眠)は時・所・形にかまわずする居眠り、

とあり(岩波古語辞典)、

朝寝(あさい)、熟寝(うまい)、安寝(やすい)などの熟語になるか「い(寝)をぬ(寝)」「い(寝)も寝ず」など句として使っている、

とある(仝上)。

股(もも)長にイは寝(な)さむを(記紀歌謡)、
妹を思ひイ(寐)の寝らえぬに秋の野にさを鹿鳴きつ妻思ひかねて(万葉集)、

いつの間にか、

い(寝)、眠る、
ね(寝)、横になる、

の区別は消えてしまったらしい。

居眠り.jpg

(居眠り 鳥居清長 https://ja.ukiyo-e.org/image/ritsumei/Z0167-001より)


参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 05:04| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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