2020年03月01日
すさぶ
「すさぶ」は、
荒ぶ、
進ぶ、
遊ぶ、
と当てる。「荒」「進」「遊」の漢字は、「すさぶ」の持つ意味の幅を当て分けたように見える。
「すさぶ」は、
すさむ、
ともいう。「すさむ」も、
荒む、
進む、
遊む、
と当てる。「すさむ」と「すさぶ」のどちらが先かは判然とせず、「すさむ」は、
すさぶの転、
とする(岩波古語辞典)のと、
すさむの音韻変化、
とする(日本語源広辞典)のと、分かれる。「すさぶ」は、
おのずと湧いてくる勢いの赴くままにふるまう意。また、気の向くままに何かをする意。奈良時代には上二段活用、平安時代から多く四段活用、
とある(岩波古語辞典、広辞苑)。意味の幅は、
勢いのままに盛んに~する、勢いのままに荒れる(「朝露に咲きすさびたるつき草の日くたつなへに、消(け)ぬべく思ほゆ」万葉集)、
気の向くままに~する、興にまかせて~する(「もろともに物など参る。いとはかなげにすさびて」源氏)、
もてあそぶ(「窓近き竹の葉すさぶ風の音にいとど短きうたた寝の夢」新古今)
勢いのままに進みはてて衰える(「雲間なく降りもすさびぬ五月雨筑摩の沼の水草なみよる」堀河百首)
といった感じだが(岩波古語辞典)、古い、「すさぶ」(上二段)は、
荒、
進、
と当て、
動き出す(動作の発作)、
その方へのみ頻りに進む、
荒るる、
迷い耽る(酒食にすさぶ)、
の意とし(大言海)、「すさぶ」「すさむ」の用途の幅について、
進、
荒、
と当てる「すさぶ」(四段)は、
愈々、進む、
荒(すさ)び行きて闌(すが)るる、衰え止む、
とし、
遊、
と当てる「すさぶ」(四段)は、
心に入れず、何となく、はかなく物はす、遊び慰む、
の意とし、
進、
荒、
と当てる「すさむ」(四段)は、
愈々進む、甚だしくなり行く、
迷い耽る、
の意とし、
進、
荒、
と当てる「すさむ」(下二段、他動詞)は、
荒ましめ、闌(すが)れしむ、棄つ、
意であり、
賞、
翫、
と当てる「すさむ」(下二段)は、
心の荒みに賞翫ス、遊(すさび)のものとす、
意とし(以上、大言海)、「すさぶ」「すさむ」が活用などを変えつつも、そんなに意味を変えていないことがわかる。
大言海は、「すさぶ」を、
進み荒(さ)ぶるの約、
とするが、
おのずと湧いてくる勢いの赴くままにふるまう、
意とするなら、元々は、
すすむ、
の意に、
愈々進む、
の意を持たせたのではあるまいか、とすると、日本語源広辞典のいうように、
すすむ→すさむ→すさぶ、
と音韻変化した、という見方も頷けてくる。
「すすむ」について、
ススは、ススシキホヒ・ススノミのススと同根。おのずと湧いてくる勢いに乗って進行・行動する意、
とする考え(岩波古語辞典)が、「すさぶ」の、
おのずと湧いてくる勢いの赴くままにふるまう、
意とほぼ重なるのである。ちなみに、「すすしきほひ」は、
すすし競ひ(「すすし競ひ 相よばひ しける時は 焼太刀の」万葉集)、
と当て、
進んで競り合う、
意であり(岩波古語辞典)、「すすのみ」は、
荒れ狂う、
意で、勢いのままに動く意、とある(仝上)。「すさぶ」は、「すすむ」の意が強まり、別語へと変化したもの、とみられる。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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