「すはま」
洲浜、
州浜、
等々と当て、
州が海へ突き出た浜辺、
を指す(岩波古語辞典)。これだと、「洲浜」の含意が伝わらないが、
洲が大きくなり、海岸線に曲線的な出入りのある浜辺、
だと(広辞苑)、よりイメージができる。さらに、
洲浜は河口にできた三角洲など、水辺にできる島形の洲をいう。いわゆる河と海などの接するところで、曲面の入り組んだ洲の様子を表す 言葉である。水の流れでいろんな姿に変わる、それを柔軟なフォルムで捉えたまるみをおびたラインが特徴、
とある(http://www.harimaya.com/kamon/column/suhama.html)。なお、
洲浜形、
とは、
海上に浮かぶ島が干潮のとき砂洲を三方にあらわした姿のこと、
である。
「すはま」は、
すさき、
ともいい、陸地になりたるを、
片洲、
といい、また、
泉水の称、
でもある(大言海)。「泉水」とは、
山水、
前水、
とも当て(岩波古語辞典)、
庭に築山をし、泉水を掘り作ること、池を泉水(センスイ)と云ふは山水(サンスイ)より移りたるなるべし、池は泉には限らず、
とあり(大言海)、
仮山水(かさんすい)、
ともある(仝上)。池とは限らずとは、
泉水を作るに、松を植うべき所に岩を立て、池を掘り水をまかすべき地には山を築(つ)き、眺望をなすが如くに、
とある(無名抄)、意味である。これも自然を模し、象っている。ここまでくると、
枯山水、
である。
「洲浜」という浜辺の風景が日本人に好まれたのは、
波がよせては返す、優しい音。その中に小さな小島が連なる、
という日本の風景(http://kyoto-wagasi.com/teiban/suhama.html)のイメージのようである。
この洲の出入りのある「柔軟なフォルム」を図案化した意匠に、
洲浜紋、
である。代表的なのは、
洲浜、
だが、その他に、
違洲浜、
割洲浜、
洲浜木瓜、
花洲浜、
中陰洲浜、
三つ盛洲浜、
等々種々ある。
また「洲浜」のイメージをかたどった、
洲浜台、
の意味で、略して、「洲浜」という。
(婚礼での島台 『絵本江戸紫』 https://karuchibe.jp/read/4476/より)
洲浜の形に似せて作れる物の台、
とあり(大言海)、
これに岩木・花鳥・瑞祥のものなど種々の景物を設けたもの、もと、饗宴の飾り物としたが、のち正月の蓬莱・婚姻儀式の島台として肴を盛るのに用いた、
とある(広辞苑)。
(婚礼での島台 精選版日本国語大辞典より)
「洲浜台」を、
島台もこれなり、
と(大言海)の言う「島台」とは、
州浜形、
とも言い、略して、
しま、
ともいい、
洲浜(すはま)形の台に松竹梅を立て、足元に鶴亀、翁と媼の人形などを飾る置物で古来より不老不死の仙山として信仰される蓬莱山を写し、慶事の祝儀として用いられてきたものだ。特に近世以降は「婚礼」の席に欠かせない調度品として飾られてきたものだという、
とあり(https://karuchibe.jp/read/4476/)、貞丈雑記に、
洲濱形に、臺の板を作る、海中の島のすその、海へさし出たる形なるを、洲濱と云ふなり、されば島形とも、洲濱形とも云ふ、其上に肴を盛る也、飾のには、岩木、花鳥などを置く也、
とあり、松屋筆記にも、
島臺は、蓬莱島の造物の臺なれば、サ(島臺と)云ふ也、洲濱など同物成り、
とある(大言海)。ただ、守貞謾稿には、
蓬莱、貴人の宴には、唯、臨時風流に製之、今も貴人の家には、蓬莱の島臺と云、島臺と云は、洲濱形の臺を云也、……今俗は、島臺と、蓬莱は二物とし、島臺は婚席の飾とし、蓬莱は、正月の具とし、其製も別也」
と、蓬莱と島臺が別扱いになっている経緯を欠いている。
この「洲浜」に準えた和菓子がある。
黄粉と米の粉とを和して、竹の皮に包みて蒸し、竪に數條の渠(すじ)を押しつけ、解きて輪切にし、縁(へり)、凹凸形をなしたるもの、
である(大言海)。まわりがでこぼこしている形が、
すはま、
のイメージである(たべもの語源辞典)。
京都の松壽軒が、弘安年間(1278~1288)に、有職の「洲浜臺」の形からとって、初めて州浜を作った、
とある(仝上)。なお、
今日では、京都の御洲浜司植村義次のものが、1657年(明暦3)以来の仕法を伝え、もっとも古いのれんである、
とある(日本大百科全書)。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95