2020年04月02日

三献


「三献(さんこん)」は、

さんごん、

とも訓み、

式三献、

とも言う。

酒飯論絵巻.jpg

(土佐光元「酒飯論絵巻」(室町後期) https://tvc-15.hatenablog.com/entry/2019/08/10/053544より)


正式な饗応の膳で、酒肴を出し三つの盃で一杯ずつ飲ませて膳を下げることを一献といい、それを三回繰り返すこと、

とある(広辞苑)。

一献二献三献と、肴を三度変えた膳で、その都度酒を三杯ずつ飲ませるもてなし方、

ともある(岩波古語辞典)。

一献・二献・三献と酒肴(しゅこう)の膳を三度変え、そのたびに大・中・小の杯で1杯ずつ繰り返し、9杯の酒をすすめるもの、

という説明(デジタル大辞泉)の方が具体的である。今日の、

駆けつけ三杯、

もここから由来している、とされる(故事ことわざの辞典)。室町時代に「式三献」の語が用いられるようになった(世界の料理がわかる辞典)とあり、

平安後期以来,公家文化の影響を受けながら武家社会の中で育成された室町時代の酒宴には一定の形式が作られていた、

という(室町期における公家・武家衆の酒宴)、

室町時代以後,武家社会の礼法の固定化が進むに伴って整えられた饗膳(きようぜん)形式、

である(世界大百科事典)。室町時代にはすでに種々の伝統に分かれ、

伊勢流、
小笠原流、

等々諸家の流派があった、とされる。今日の、

三々九度の盃、

は、これに始まる。「献」(コン)は、

獻(ケン)の呉音、コン(權(ケン)、ゴン)、たてまつるにて、盃をさすの敬語。獻酬、

とある(大言海)。四季草(伊勢貞丈)には、

肴、酒を出し、三杯勧めて、膳、戻り入る、是れ、一こんなり、幾こん勧むるも、皆同じことなり、

とある。

固めの盃.jpg


「三々九度」は、

出陣・帰陣・祝言などの際の献杯の礼。三つの組の盃で三度ずつ三回酒杯を献酬すること、

と説明がある(広辞苑)が、伊勢流の「宗五大草紙」には、「三々九度の儀」について、

一ツ盃にて三度ヅツ三ツにて、三々九度入るなり。総別盃一ツの時、もちと祝言がましき時は、盃に入る時、そと二度入て三度めに酒を入、二度めに、そと二度入て三度めに酒を入れ、さて三度めに、又そと二度入て三度めに酒を入て、三々九度の数を如此あわするものなり。三さか つきは盃一ツにて三度ツツ入るとおほゆへし(三酒盃酌事)

とある、とか(仝上)。つまり、盃に酒を注ぎ入れるさいには,銚子を盃に2回ほどそっと当、3回目に酒を注ぎ入れる。これが初献の作法。第二献・第三献も同じ手順で酒を盃に注ぎ入れる。これが、
三酒盃酌の方式、

であり(仝上)、いわゆる、

三献の儀、

となる。小笠原流の礼道では、その膳は、

引渡といって昆布・勝栗・のしが一台、梅干・水母(くらげ)・生薑(しょうが)・塩が一台、次に打躬(うちみ)といって鯛・生姜・塩が一台、鯣(するめ)・生姜・数の子・塩・塩引が一台、さらに腸煎(わたいり)といって水母(くらげ)・梅干・鯛が一台、鯣・生姜・鯛・塩辛が一台、

で、これを、

式三献、

といった(日本食生活史)、とある。室町将軍の御成記や武家故実書によれば、

式三献は主殿(寝殿)で行われ、その後、会所に移り、ここで改めて初献から三献までの三献が出された後、五の膳もしくは七の膳までが据えられる膳部となり、さらに四献以下の献部となることがわかる。主殿での式三献と会所に席を移しての初献から三献までの三献とは、全く別のものである。式三献では、初献に海月・梅干・打鮑、二献に鯉のうちみ(刺身)、三献にはわたいり(腸煎り~鯉の内臓の味噌煎り煮)が出されることが通例であるが、これらには箸をつけず、実際に食されることはない、

とありhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%AC%E8%86%B3%E6%96%99%E7%90%86、将軍義晴祇園会見物のために、下津屋三郎左衛門方へ立寄ったときの献立は、

初献 鳥、ざうに、五しゆ、
二献 ひや麦、御そへ物、なまとり、
三献 きそく金、こざし、たい、くらげ、

とある(祇園会御見物御成記)し、同じ義輝が、三好義長邸に行ったときは、

初献 龜のから、
二献 のし鮑・つべた貝・鯛、
三献 するめ・たこ・醤煎(ひしおいり)、

の献立という(三好筑前守義長朝臣亭之御成之記)。式三献の酒肴は実際に食べてはならない仕来りになっていたらしいが、実際食べられないものもある。
なお、「かちぐり」http://ppnetwork.seesaa.net/article/471158742.htmlについては触れた。

参考文献;
渡辺実『日本食生活史』(吉川弘文館)
加藤百一「室町期における公家・武家衆の酒宴」https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan1988/98/10/98_10_716/_pdf

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:34| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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