2020年04月05日
ははこぐさ
「ははこぐさ」は、
母子草、
と当てる。
ヒキヨモギ、
とも言う、春の七草のひとつ、
ごぎょう(御形)、
のことである。
春の七草については、「七草粥」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/474392568.html?1585940926)で触れたし、
「すずしろ」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/465194822.html)、
「すずな」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/465179244.html)、
「ほとけのざ」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/464898986.html)、
「なずな」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/464883576.html)、
「はこべ」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/464851193.html)、
でも触れた。「ごぎょう」は、
御形、
の他に、
五行、
とも当てる。四辻善成が、「源氏物語」の注釈書「河海抄(かかいしょう)」の中で、平安時代の「若菜まいる」の中で、
薺(なずな)、繁縷(はこへら)、芹(せり)、菁(すずな)、御形(ごぎょう)、須々代(すずしろ)、佛座(ほとけのざ)、
の七種を挙げたのが、七種の嚆矢とされている(http://chusan.info/kobore3/46nanakusa.htm)。その一つである。
「ごぎょう」は、
おぎょう、
とも訓ませ、
厄除けのために御形とよばれる人形(ひとがた)を川に流した、雛祭りの古い風習が関係している、
と考えられている(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%8F%E3%82%B3%E3%82%B0%E3%82%B5)、とある。地方によって、
アワゴメ(粟米)、ウサギノミミ(兎の耳)、ホーコ、マワタソウ(真綿草)、キャーロツリクサ(蛙釣草)、コウジバナ(麹花)、モチグサ(餅草)、
等々方言名がある(仝上)、らしい。大言海は、
天兒(アマガツ)の類のはうこ(這兒)は、母子(ははこ)の音便にて、母子人形なり、これに供ふる母子餅を裂くる、因りて、其草を母子草と云ふなり、御形(オギャウ)は、人形(ヒトガタ 人形(ニンギョウ))に由ある語なるべし、
とする。「天兒」(http://ppnetwork.seesaa.net/search?keyword=%E5%A4%A9%E5%85%92)で触れたように、「天兒」は、
祓(はらえ)に子供の傍に置き,形代(かたしろ)として凶事をうつし負せるために用いた人形、
で、似たものに、
這子(ほうこ)、
があり、文字通り,
小児の祓いの人形、
で、
古代,祓(はらえ)に際して幼児のかたわらに置き,形代(かたしろ)として凶事を移し負わせた人形、
であった「天児」が,
後世は練絹(ねりぎぬ)で縫い綿を入れて,幼児のはうような形に作り,幼児の枕頭においてお守りとした這子(ほうこ)をいうようになった、
のである。「御形」は、
鼠麴草(ほうこぐさ)、
とも言い、薬名では、
ソキクソウ、
と訓む。全草を鎮咳・去痰などに用いるらしい。本草綱目には、
鼠麴草、母子草と書く、今はホウコグサと云ふ、おぎゃう、御形と書く、後世誤り唱へて、ゴギャウとす、古書には皆、オギャウと云へり、
とある。
ただ、這子は、母子象ではなく、首と胴は綿詰めの白絹、頭髪は黒糸、這う子にかたどってある、
這っている人形,
幼児の這い歩く姿をかたどった人形,
である(https://www.weblio.jp/content/%E9%80%99%E5%AD%90%E5%A9%A2%E5%AD%90)。
ほうこ(這子)→ははこ(母子)、
という転訛ならともかく、この人形そのものは、母子の像ではない。
御形とよばれる人形(ひとがた)を川に流した、
というのは、「天兒」「這子」が、
幼児のかたわらに置き,形代(かたしろ)として凶事を移し負わせた人形、
であるなら、「形代」は、
人の身についた穢れや厄を託して,海や川に流すもの。神霊の依代 (よりしろ) の一種と考えられている。多くは紙の小さな人形 (ひとがた) であるが,ところによってはわら人形や,食物に託すこともある。鳥取県の流し雛も形代の一種で,川に流したり,氏神様の境内に納めたりする、
のである(ブリタニカ国際大百科事典)。とすれば、
ほうこ(這子)→ははこ(母子)、
の転訛はあり得る。大言海は、「母子草」の項では、
母子餅を製する草の義ならむ、又、此草を御形と云ふも母子の形代の義ならむ、
と母子像とする。「母子草」は、
古へ、上巳(旧暦の3月3日)に、此の葉にて母子餅を製せり、故にモチヨモギの名もあり、後世は艾(よもぎ)に代ふ、
とあり(仝上)、「母子餅」は、
母子(ははご)(這子)に供ふる餅のぎならむ。後世、この餅を雛に供す、
とあり(仝上)、
後に艾餅のクサモチとなる、
とある(仝上)。倭名抄には、
菴蘆子、波波古、
とあり、本草和名には、
菴蘆子、比岐與毛岐、波波古、
とある(大言海)。
ただ、「母子草」の語源を「天兒」と絡めず、その草の特徴、
茎の白毛、頭花の冠毛がほほけ立っていることから、旧仮名遣いでハハケルと書いたことから「母子」の当て字が生じた(牧野新日本植物図鑑)、
和名抄小説などに見える白嵩の説明がハハコグサの実体に近いので、異名として記された「蘩・皤嵩」を、一語と誤認してハンハッコウと読んだものから転じた(和訓栞・植物和名語源新考=深津正)
白い綿毛をつける草なので乳児の舌をおもわせることから(名言通・日本語源広辞典)、
等々から「母子草」の由来を見ようとする説がある。
しかし、ホウコグサ、ホウケグサ、と言われたのは、江戸時代とする説もあり(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%8F%E3%82%B3%E3%82%B0%E3%82%B5)、いにしえからの、幼児、子供の形代から玩具になった、
天兒、
這子、
の転訛と見たい。「御形」という名も、川へ流す「形代」の含意があると見た。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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