2020年04月11日
柏
「柏」は、
槲、
栢、
とも当てる。葉は食物を包むため、
モチガシワ、
炊葉(かいば)、
とも言う(広辞苑)。
誤りて、「ははそ」ともいう、
とある(仝上)。大言海は、
轉じて、は(ほ)うそ、
とする。「柏餅」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/474498638.html?1586459233)で触れたことと重なるが、「柏(栢)」(漢音ハク、呉音ヒャク)は、
会意兼形声。白の原字はどんぐり状の小さい実の形を描いた象形文字。柏は「木+音符白」。円く小さい実のなる木、
とあり(漢字源)、「ひのき」「このてかしわなど、ひのき類の常緑樹の総称」である。わが国では、
かしわ、ブナ科の落葉高木、
に当てる。「槲」(漢音コク、呉音ゴク)は、
会意兼形声。「木+音符斛(コク ます、ます型)」で、実が、ます型の台座の上にのった姿をした木」
で(仝上)、「かしわ」「ブナ科の落葉高木」の意である。
くぬぎに似て、葉が大きいので、おおばくぬぎともいう、
とある。本来は、
柏(栢)、
ではなく、
槲、
の字である。
漢字では「柏」と書くことが多いが、漢字の語源から言うと、柏の字の旁の「白」は色の「しろ」ではなく、球果(松かさ状の果実)をかたどった象形文字で、「柏」はヒノキ科およびスギ科のさまざまな針葉樹を意味する。コノテガシワのこと、あるいはシダレイトスギ、いぶき・さわら・あすなろなど、松以外の針葉樹の総称である、
とおりである(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%82%B7%E3%83%AF)。現代中国語ではヒノキ科を柏科という、ともある(仝上)。
倭名抄には、
櫟、柏、加之波、
としている(大言海)。広辞苑には、
柏(ハク)、
を、
ヒノキ・サワラ・コノテガシワなど常緑樹を古来「かしわ」と訓みならわす、
とある。万葉集にも、
秋柏(あきかしは)潤和川辺(うるわかはへ)の細竹目(しののめ)の人には忍び君にあへなく、
と歌われている。
「かしわ」には、樹木の葉の意味の他に、
食物や酒を盛った木の葉、また、食器、
の意がある。
多くカシワの葉を使ったからいう、
とある(広辞苑)。
大御酒のかしはを握(と)らしめて、
と古事記にある。
くぼて(葉碗)
ひらで(葉盤)、
等々がこれに当たる。「くぼて」は、
窪手、
とも当て、
柏の葉などを幾枚も合わせ、竹のひごなどでさし綴って、中央を窪んだ形に作ったもの、
で、その対が、
ひらで(葉盤)、
で、
枚手、
とも当て、
数枚の柏の葉を併せて作った皿、
をいう(岩波古語辞典)。
仁徳紀に、
葉、此れをば箇始婆(かしは)といふ、
とある。で、「葉」を、
かしわ、
とも訓ます。
さて、「かしわ」の語源は何か。大言海は、「食器」の「かしわ」は、
堅し葉の約(雄略紀七年八月「堅磐、此云柯陀之波」)、葉の厚く堅きを擇びて用ゐる意なり、
とし、「木の葉」の「かしわ」は、
かしは木の略(本草和名「槲、加之波岐)、かしはは(「葉」と訓んだかしはの)語なり、此樹葉、しなやかにして、食を盛るに最も好ければ、その名を専らにせしならむ、天治字鏡「槲、万加志波」
とする。
「かしわ」の葉を使ったから、その葉で作った食器を「かしわ」といったのか、
あるいは、
その葉で作った食器を「かしわ」といったから、その葉を「かしわ」といったのか、
両者は深くつながる。
たとえば、木の葉「かしわ」の語原を、
上古、食物を盛ったり、覆ったりするのに用いた葉をカシキ(炊葉)といい、これに多く柏を用いたから(東雅・古事記伝・松屋筆記)、
ケシキハ(食敷葉)の義(茅窓漫録奥・日本語原学=林甕臣)、
飯食の器に用いたから、またその形を誉めていうクハシハ(麗葉)の義(天野政徳随筆・碩鼠漫筆)、
神膳の御食を盛る葉であるところからいうカシコ葉の略(関秘録)、
食物を盛った木の葉(食敷葉・炊葉)(日本語源広辞典)
とするのは、
その葉で作った食器を「かしわ」といったから、その葉を「かしわ」といった、
とする説である。逆に、
食物を盛る古習からカシハ(炊葉)の義(国語学通論=金沢庄三郎)、
カシハ(槲・柏)の葉に食物を盛ったから(類聚名物考・本朝辞源=宇田甘冥)、
ケシキハ(食敷盤)の義(言元梯)、
とするのは、
「かしわ」の葉を使ったから、その葉で作った食器を「かしわ」といった、
とする説である。
カタシハ(堅葉)の義(関秘録・雅言考・言元梯・和訓栞・本朝辞源=宇田甘冥)、
も、その堅さは、用途を意識していたとするなら、「食器」として使ったから、そのはを「かしわ」といったに入るだろう。
もし、葉の命名が先なら、
風にあたるとかしがましい音を立てる葉の意(和句解)、
カシは「角」の別音katが転じたもので、きれこみがあってかとかどしいこと。ハは「牙」の別音haで、葉の義(日本語原学=与謝野寛)、
という説もあるが、何れが先かは、判別不能ながら、
「かしわ」の葉を使ったから、その葉で作った食器を「かしわ」といったのか、
か、
その葉で作った食器を「かしわ」といったから、その葉を「かしわ」といったのか、
か、いずれかになるのではないか。
膳、
を、
かしわで、
と訓ますのは、
柏を食器に用いたから、
であることは、「膳」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/471403391.html)で触れた。また、「かしわ」の木は、
柏木、
と書くが、
柏木は葉守の神が宿るという伝説から、皇居を守る兵衛、および衛門、
の意でもある(岩波古語辞典)。「葉守の神」とは、
樹木を守護すると云ふ神、
である(大言海)。「兵衛」(ひょうえ)とは、
律令制で、兵衛府に属し、宮門の守衛・宮内の宿直・行幸の供奉などにあたった武官。左右兵衛府に四〇〇人ずつ分属し、宮門の守衛・宮内の宿直・行幸の供奉など、天皇の身辺を護衛する親衛隊としての役割を果たした、
とあり(大辞林)、和名を、
つわもののとねり、
という。因みに、
黄鶏、
と当てる、「かしわ」は、
柏の葉の色に似ているのでいう、
のだが、本来は、
鶏肉、
を指すのではなく、
羽毛が茶色の鶏、またはその肉、
の意。特に雌鶏の肉を美味としたが、天保(1830~44)以降、鶏肉の総称に変化した(日本語源大辞典)、とある。
参考文献;
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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