2020年06月08日

まごまご


「まごまご」は、

まごつく状に云ふ語、

とあり(大言海)、

方法・方向・なすべきことなどがわからず当惑して、適切な行動ができないでいるさま、

の意である(広辞苑)。

何をしていいかわからず右往左往している様子、

という状態表現が、

決断することができずに、無駄に時間を過ごす様子、

と、価値表現へと意味が広がった(擬音語・擬態語辞典)と見ることが出来る。

まごつく、

という動詞は、

迷ってさまよう、
まごまごする、
うろうろする、

意味で使う(江戸語大辞典)が、「つく」は、

へたつく、
いらつく、
むかつく、
もたつく、

等々のように、他の語について、

その様子になる、
なりかかる、

意で使う。「まごまご」の、

「まご」+「つく」

という感じであろうか。「まごまご」は、載らないが、「まごつく」は、江戸語大辞典に載る。岩波古語辞典には載らないので、確かなことは言えないが、

角から隅まで徘徊往来(まごつき)て(安永六年「中洲雀」)、

と用例があるところをみると、江戸の末には使われていたとみられる。そのためか大言海には、「まごまご」「まごつく」は載る。この由来ははっきりしないが、迷っているさまをそう言い表したとみるほかはない。

ひとつの憶説だが、「まごつく」の「まご」は、

まごう(紛)、

の「まご」ではないか。「まごう」は、

まがう(紛)、

の音便である(広辞苑)。「まがう(ふ)」は、

マ(眼)カヒ(交)の意か、

とある(岩波古語辞典)。

眼がちらちらするほどに入り乱れている、
まじりあって見えなくなっている、

の意である。ある意味で、

眼がちらちらする、

という状態表現が、

心が入り乱れる、

意に転じたとしても不自然ではない。憶説ではあるが。

この「まごまご」に類似の言葉として、

うろうろ、
おろおろ、

がある。「うろうろ」は、今日、

方向が定まらず、または、どうしたらよいかわからず、落ち着きなくうろつくさま、

の意で使う(広辞苑)が、もともとは、

力が抜けて、一転に定まらないさま、
落ち着かないさま、

の意(岩波古語辞典)で、室町時代頃から見えるが、

病中の眼なれば、うろうろとして、燈火がいくつにも見ゆるぞ(四河入海)、

というように、

古くは特に目または心が揺れ動くさまに言い、身体全体の動きに言う語ではなかった、

とある(擬音語・擬態語辞典)。江戸時代にも、

うろうろまなこ(落着かない目つき)、

というように、

「きょろきょろ」に当たる眼の動きに「うろうろ」を使う、

例がみられる(仝上)。しかし、

うろうろ茶船(江戸時代両国の船遊びなどに、船の意だを漕ぎめぐって飲食物を売る小船)、

の用例では、

うろつく、

意になっている。「まごまご」と「うろうろ」の使い分けは、今日、

「まごまご」は、どうしたらよいかわからず、困惑しているようすを表し、「突然、スピーチの指名を受け、まごまごしてしまった」「財布が見つからず、まごまごした」「まごまごしていると、また留年だぞ」など、いろいろな状態に使える。「うろうろ」は動き回ったり歩き回ったりするさまを表す。「変な男が家のまわりをうろうろしている」「時間があったので、盛り場をうろうろした」のように用いる、

としている(デジタル大辞泉)。「まごまご」は、心理状態にウエイトがあり、「うろうろ」は、その振舞いの方にシフトしている、という感じであろうか。

大言海は、「うろうろ」を、

うろたへるの、うろを重ねたるなり、

としている。それと似たものに、

ウロタフのウロを重ねた語(志布可起)、

があるが、「うろうろ」の元の意が、

目または心が揺れ動くさま、

を言っていたとすると、

ウロ(空虚・ウツロ)の繰り返し、

とする説(日本語源広辞典)も捨てがたい。ただ、「うろうろ」が、

きょろきょろ、

の含意だとすると、「うろたふ(狼狽)」が、心理の動きも含めて妥当かもしれない。

「おろおろ」は、今日、

事態に対処できず取り乱すさま、

の意で使う(広辞苑)が、古くは、

どうしてよいかわからずあわてる、

意はなく、

大ざっぱに、ざっと(「弟が謡ひ候しはおろおろ覚え候ふを、未だ習ひ候はず」梁塵秘抄)、
ところどころ(「髪もはげて、白きとてもおろおろある頭に」宇治拾遺)、
ぼつぼつ、少しずつ(「諸子百家のことおろおろ語り出で」雨月物語)、

といった感じで(学研全訳古語辞典)、今日の、

うろ覚え、

と近く、

おろ覚え、

といった。「おろおろ」に、

不安で為す所を知らない、じっとしていられない、
泣いて目や声がうるんださま、

の意で使うようになるのは、江戸時代で、うろたえた意で、

おろおろ目、
おろおろ顔、

と使ったり、泣いて取り乱した、

おろおろ声、

といった使い方をする(擬音語・擬態語辞典)。

「おろおろ」は、動転したさまだが、「うろうろ」は、動き回るところにウエイトがある。しかし、江戸時代には、

「うろうろ」は一時期「おろおろ」と同じ意味で使われていた、

ともある(仝上)。

「おろおろ」は、

疎(おろ)かの語根を重ねて云ふ語、

とある(大言海)。

オロソカの語根のくりかえし、

も同趣である(日本語源広辞典)。当初の、

おろ覚え、

の使い方からすると、「疎(おろ)か」の、

かんげきが多く、おおざっぱ、いい加減、
おろそか、
至らないさま、手抜かり、

意味と重なる気がする(岩波古語辞典)。「おろそか(疎か)」が、

オロはアラ(粗)の母音交替形。ものごとが密でないこと、隙間の多いこと、粗略なこと、ソカはオゴソカのソカと同じ、

とあり(仝上)、その「おろ」からきていると見ていい。

おろぬき(粗抜き)、
おろねぶり(粗眠り)、

という言葉もある(仝上)。

参考文献;
山口仲美編『擬音語・擬態語辞典』(講談社学術文庫)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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posted by Toshi at 03:32| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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