「したたる」は、
滴る、瀝る、
等々と当てる。「しずく」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/475606337.html?1592072466)で触れたように、「滴」(漢音テキ、呉音チャク)は、
会意兼形声。啇は、啻(一つにまとまる)の変形した字。滴はもと「水+音符啇(テキ)」。しずくはひと所に水が集まり、たまったときぽとりと垂れる。ひと所にまとまる意を含んだ言葉である、
とある(漢字源)。「したたる」「ひと所に集まったしずくが垂れ落ちる」意である。「瀝」(漢音レキ、呉音リャク)は、
会意兼形声。歴の上部はもと「厂(やね)+禾(いね)二つ」の会意文字で、稲をつらねて納屋にならべたさま。歴は、それに止(足)を加え、つぎつぎとつづいて各地を歩くこと。いずれもじゅずつなぎに続く意を含む。瀝は「水+音符歴」で、水のしずくがじゅずつなぎに続いて垂れること、
とある(仝上)。「したたる」「しずくが続いて垂れる」意である。同じく、「しずく」の意をもつ、「零」(漢音レイ、呉音リョウ)、「涓」(ケン)を当てないのは、原意をくみ取っていたと見ることが出来る。
「したたる」は、
下垂るの意、
とされる(広辞苑・大言海他)。
近世中期ごろまでシタダルと濁音、シタはシタム(湑・釃)のシタと同根、
とある(岩波古語辞典)。「したむ」は、
しずくをしたたらす、特に酒などを漉したり、一滴も残さず絞り出したりするのにいう、
とある(仝上)。
したみ酒、
という言葉があり、
枡やじょうごからしたたって溜まった酒、
の意で、
転じて、飲み残しや燗(かん)ざましの酒、
の意となる(精選版日本国語大辞典)、とあり、
したみ、
とも言う(仝上)。この「したむ」は、酒の例から見ても、確かに、
下(した)の活用、
とある(大言海)のが納得いくが、
シタ(下垂)ムの義(日本語源=賀茂百樹)、
液をシタ(下)に垂らす義(国語の語根とその分類=大島正健)、
と、「したたる」と絡ませる説がある。
「したたる」は、本来、
水などがしずくとなって垂れ落ちる、
意である。「したむ」は、それを、
酒に特化した用例、
とみられるのかもしれない。ただ、「しずく」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/475606337.html?1592072466)で触れたように、「下枝」を、
シヅエ、
と呼ぶように、「下」を、
シヅ、
と呼ぶ可能性があり、とするなら、「しず(づ)く」の「しづ」は、垂れる意の、
しづ(垂)、
と関わるけれども、
しづ(垂)+垂る、
では重複するし、「しづ」を、
下の活用、
とするなら、「したたる」は、
しづ(下)+垂る、
となり、
「下がる」+「垂れる」
と、下垂る語源説だと、どこか重複感があるような気がしてならない。確かに、
下+垂る、
と考えるのが、無難なのだろうが。
ところで、「したたる」の意味に、
緑したたる候、
というように、
美しさやみずみずしさがあふれるほどである、
の意味に使われるが、さらに、それをメタファに、
水もしたたるいい男、
といった使い方をするのは、岩波古語辞典、大言海には載らず、結構最近になって使われる用例のようである。
(しずくが落ちる https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%BB%B4より)
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95