2020年06月21日

あられ酒


「あられ酒」は、

霰酒、

と当てる。

みぞれ酒、

ともいう。

奈良名産の混成酒、蒸米と米の麹とを入れた味醂、麹が霰のように浮いて見えるのでいう、

とある(岩波古語辞典)が、

糯米(もちごめ)の麹または霰餅を入れて密封し、熟成させた混成酒(広辞苑)、
あられ餅を、焼酎につけて干すことを数回繰り返してから、味醂の中に入れて密封・熟成させた酒(デジタル大辞泉)、
糯米の粕、溶化せずして交(まじ)る(大言海)、

ともあり、結局、酒のなかに、

糯米の麹、
か、
あられ餅、
か、

を浮かしたもの、

ということになるが、

奈良特産のみりんの名。白いかすが混じっているのを、あられに見立てていう(精選版日本国語大辞典)、
もろみが白く残るのでこの名がある(世界大百科事典)、

ということなのではないか。もろみ(醪・諸味)とは、醤油・酒などを作るために醸造した液体の中に入っている、原料が発酵した柔らかい固形物のことである。とすると、敢えて、浮くようにして、妙趣を出そうとした、ということもあるかもしれない。たべもの語源辞典は、

小さく砕いたかき餅を焼酎につけては引き上げて乾かし、これを繰り返して霰をつくり、味醂に入れて密封醸成させた、

という説と、

酒の中に糯米の糀(こうじ)を浮かべたもの、のし餅をつくってから、細かく刻んで焼酎につけ、乾燥することを繰り返し、霰をつくり、酒に加える、

の二説あるとする。どちらも、自然に出た浮遊物ではなく、意識的に「あられ」を浮かべた、ということになる。その由来は、

慶長年間(1596~1615)に、奈良在住の町医者糸屋宗仙(一説には酒造家浅田某という)が、猿沢の池面にあられが降るようすを見て創案したという。製法は、のし餅を細かく刻み、それを焼酎に浸し漬けては乾燥させ、これを繰り返してできるあられ様のものを酒に加える、

とある(日本大百科全書・たべもの語源辞典)。ただ、たべもの語源辞典は、その時期を、

寛永年間(1624~44)、

とし、

猿沢池畔の酒造家浅田某が、池の水に霰が落ちて浮遊するのを見て思いつき、それを真似て作った酒に、霰酒という名を付け、明正天皇に献じた、

とする別説も載せる。明正天皇は、元和九年(1624)~元禄九年(1696)の在位なので、寛永年間ということになる。しかし、多聞院日記の天正三年(1575)一二月一八日に、

十後よりあられ酒樽一つ可二調下一之由被二申上一了、

とあり、あるいは、「あられ酒」は、その由来よりもっと古くからあった可能性はぬぐえない(精選版日本国語大辞典)。その「あられ」は、

糯米の粕、溶化せずして交(まじ)る、

であったのではないか。それに「あられ」を意識的に混ぜた手柄はあるにしても。

あられ酒.jpg


現在も奈良で売られている「南都霰酒(あられ酒)」は、

かき餅、またはもち米を薄く伸ばしてからあられのように切ったものを、焼酎に漬けては引き上げて日に干し、これを数回くり返した後、上みりんとともに瓶に入れ、密封して20日ほど熟成させたもの、

とあるhttp://www.kitora.com/harusika-araresake.htm。その由来には、

起源は慶長時代(1610ごろ)の師走半ば、漢方医絲屋宗仙という人が春日大社へ参詣の帰路、猿沢池の水面に俄(にわか)に降ってきた霰(あられ)がポツポツと落ちて沈んで行く様子を見て、この面白さを風流人であった彼は、医師の立場からも、百薬の長である酒に、この風情を生かせないものかと工夫したのが始まりであるという説が伝えられえています、

とあるhttp://nara-shokubunka.jp/yamato/16-02.html、とか。

「あられ」が文献に名が見られるのは江戸時代のはじめごろからであるが,日本料理ではこまかいさいの目に切ったものをあられと呼んだらしく(世界大百科事典)、のし餅や海鼠(なまこ)餅を切って作ったので,井原西鶴の「武道伝来記」(1687)には、

搔餅(かきもち),霰餅(あられ)をきざみゐしが、

という表現が見られる(仝上)、とある。「犬子集」(寛永)に、

玉よりもさけになしたき霰かな、

という句があり(大言海)、

爐びらきや 雪中庵のあられ酒(蕪村)、
旬のゑらぶみぞれふる夜のあられ酒(其角)、

の句もあり、「あられ酒」は、冬の季語である。

「あられ酒」は、みりん酒の一種なので、料理用のイメージが強いが、江戸時代の人々は薬用として、また高級な甘美酒として愛飲していたらしく、みりんと焼酎を混ぜたものを、上方では「柳陰(やなぎかげ)」、江戸では「本直し」と呼び、井戸で冷やして暑気払いとして飲む習慣があったhttps://nara.jr-central.co.jp/kankou/article/0179、という。

なお、米菓の「あられ」については、「煎餅」http://ppnetwork.seesaa.net/article/468559673.htmlで触れた。

参考文献;
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル:あられ酒 霰酒
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