がんもどき
「がんもどき」は、
雁擬き、
と当てるが、
雁賽、
とも記す(大言海)、とある。
がんも、
とも呼ぶ(広辞苑)。京阪地方では、
飛竜頭(ひりゅうず、ひりうず、ひろうす、ひりょうず)、
と呼ぶ(たべもの語源辞典)。「がんもどき」の名は、
雁の肉に擬(もど)きたる意、
とある(仝上)が、他にも、
鳥類の肉のすり身を鶏卵大に丸めて煮たり蒸したりする料理「丸(がん)」に似せて作ったという説、
がんもどきの中にきくらげではなく安物の昆布で代用したら丸めた形の表面に糸昆布が現れてその様子が雁が飛んでいるかのように見えたからという説、
等々がある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%8C%E3%82%93%E3%82%82%E3%81%A9%E3%81%8D)が、別に、
こんにゃくを使った点心「糟鶏」が、「俗にいうがんもどきなるべし」とあるところから、「糟鶏」の俗称として「がんもどき」という親しみやすい日本語にしたという説、
もある(http://www.tofu-as.com/tofu/history/06.html)。古い形が、「蒟蒻」であったことを考えると、この説は、由来としてかなり意味がある気がする。
いずれにしても、「肉」に見立てたもので、精進料理の「普茶料理」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/474648427.html)から起こった、と考えられる。「普茶料理」は、
卓袱(しっぽく)料理の精進なるもの、
と言われ、
巻繊(野菜や乾物の煮物や餡かけ)、
油糍(下味をつけた野菜などを唐揚げにしたものや雲片(野菜の切れ端を炒め、葛寄せにしたもの)、
擬製料理(肉や魚に擬した「もどき」料理。麻腐、すなわち胡麻豆腐も白身魚の刺身に擬した「もどき」料理である)、
等々(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%99%AE%E8%8C%B6%E6%96%99%E7%90%86)、の「擬製料理」の一つとして、炒めや揚げに胡麻油を用いた、
がんもどき、
や
精進揚、
がはじまり、これが日本では未発達であった油脂利用を広めた(仝上)、とされる。しかし、「もどき」は、「ようなもの」という意だから、
雁もどきはがんの肉に似たもの、
というが、あまり似ていない(たべもの語源辞典)、とある。確かに。。。。
「がんもどき」は、いまは、
油揚げの一種、
とされ、
豆腐を崩して、つなぎに、ヤマノイモ、卵白などを加え、細かく刻んだ牛蒡・人参・銀杏・麻の実・昆布などを混ぜて丸め、油で揚げたもの、
をいう(広辞苑・大辞林)が、江戸時代の料理書『料理通』(1822~35年)によると、
蒟蒻を小口切にし、鹽にて洗ひ、揉みさらし、葛粉にくるみて、油にあげて、味を付けたるもの、
とある(大言海)。さらに、昔は、
麩を油で揚げたもの、
であったが、天明二年(1782)出版の料理本『豆腐百珍』には、「尋常品」の一つとして、
ひりょうず、
が挙げられ、
豆腐の水気を切りよくすってつなぎに葛粉を入れ、かやくにごぼう、銀杏、きくらげ、等好みの具を入れます。かやくを油で炒って適当な大きさの豆腐に包み油で揚げます。酒を煮詰めておろしワサビか白酢にワサビの細切りを添えます。また、でんがくにして青味噌にけしを振りかけます、
とあり(http://www.toyama-smenet.or.jp/~tohfu/tofuhyakutin.html)、江戸時代の「がんもどき」は、
現代のように豆腐に具材を混ぜ込んで揚げたものではなく饅頭のように豆腐で具材の餡を包んで揚げたもの、
であったようである(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%8C%E3%82%93%E3%82%82%E3%81%A9%E3%81%8D)。しかし、豆腐料理の「尋常」品であり、
あげどうふー、ごまあげがんもどき(寛政十一年(1799)「三人酩酊」)、
と呼び売りをしたいたらしい(江戸語大辞典)。
関西で「飛竜頭」といったのは、ポルトガル語フィリョース(filhós 小麦粉と卵を混ぜ合わせて油で揚げたお菓子)から由来している(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%8C%E3%82%93%E3%82%82%E3%81%A9%E3%81%8D、たべもの語源辞典)。「ひりうず」とか「ひろうず」に、
飛竜頭、
と当てたのは、
水でこねた小麦粉に豆腐や野菜を加えて油で揚げたとき、かたまりから角のようにいくつか衣が飛び出して、それが竜の頭のように思えた、
のではないか(たべもの語源辞典)、という。この「ひりょうず」は、江戸時代の料理書に、
小麦粉の代わりにもち米を使って油で揚げたあと、砂糖蜜にひたし、上にこんぺい糖をのせた、
と書いてある(http://www.tofu-as.com/tofu/history/06.html)、という。なぜ、
南蛮渡来のお菓子がどうして豆腐料理の「ひりょうず」に変身したのか、
は、はっきりしないらしい(仝上)。
参考文献;
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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