2020年07月11日

きなくさい


「きなくさい」は、

焦臭い、

と当てる(大言海)。

紙・綿・布などの焦げるにおいがする、
焦げ臭い、

意であり、

硝煙のにおいがする、

意をメタファに、

戦いや物騒なことが始まりそうな気配である、

意や、

何となくあやしい、
うさんくさい、

の意でも使う(広辞苑)。大言海を見ると、

綿・紙などの焦げる臭(カ)あり、

の意が載り、

紙衣(カンコ)くさし、

とも言うとし、

焦げ臭し、仙台にてはひなくさし、

と載る。そのため、語源を、

衣(キヌ)くさしの轉か(綱(ツナ)、つぬ。鐸(ヌリテ)、なりで)、

とする。しかし、江戸語大辞典をみると、

(きなくさい)のきなは、木では無いの意とも、木の意とも、衣焦(きぬこげ)の省略かともいい、確かではない、

とし、

紙・切れなどの焦げる匂いにいう、

つまり、

焦げ臭い、

意だが、

紙衣くさし、

とも言ったというところを見ると、

紙・布、

等々に限定して言っていたらしいのである。

多く、促呼して、

きなっくさい、

というともある(江戸語大辞典)。どうやら、江戸期になって多く使われるようになったらしい。

「紙衣」は、

紙子、

とも当て、

かみこ、
かみころも、
かみぎぬ、

等々と訓ませるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B4%99%E8%A1%A3

紙製の衣服。厚紙に柿渋を引き、乾かしたものを揉み和らげ、梅雨に晒して渋みを去って作った、保温用の衣服、

であり、

もとは律宗の僧が用いた(広辞苑)が、

絹の衣よりも安価なため、低所得者が利用する着物と思われがちだが、丈夫で持ち運びに便利なため、武士や俳人などが好んで利用し、性空や親鸞が愛用していたことでも知られる、

とあるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B4%99%E8%A1%A3。江戸時代には、

広く防寒衣として利用されたが、下着的な利用ばかりではなく、好事家の間では羽織に定紋をつけて用いられ、胴着としても利用された。歌舞伎(かぶき)では『廓文章(くるわぶんしょう)』のなかでみられ、伊左衛門が零落したのちかつて遊女と取り交わした手紙を張り合わせてつくった紙衣を着た姿に、もののあわれを感じさせる、

等々ともあり(日本大百科全書)、必ずしも、貧乏人が使ったとばかりは言えないようである。

よく揉み込んだ紙は柔らかな鹿皮のような風合いになるようで、戦国時代の胴服や陣羽織などにも使われた、

とあるhttps://kimono-kitai.info/10804.html

軽くて、しかも保温性に富み、古代から僧衣として用いられ、その伝統を引いて今日も、奈良・東大寺の二月堂の修二会(しゅにえ)の際に着用されている(日本大百科全書)。

紙衣陣羽織.jpg

(上杉謙信所用の柿渋染紙衣陣羽織 https://kimono-kitai.info/10804.htmlより)

「きな」が、

衣(きぬ)の転、

としても、

衣臭い、

が、

焦げ臭い、

意にはならないような気がする。「~くさい」には、「焦げ臭い」のような、

~のにおいがする、

意の他に、「インチキ臭い」というような、

~のように感じられる、
~らしい、

意や、「面倒臭い」「てれくさい」のように、

いやになるほど~だ、

という意で使われるが、とするなら、

紙衣なのに衣のように感じられる、

意で、

衣臭い、

と使われたものが、「臭い」の含意から、

臭い、

の意に引きずられて、

焦げ臭い、

となったのではないか、という憶測も成り立つのではないか。

衣臭い、

からの転訛なら、意味の外延の辻褄は合うのではないか。もちろん憶説だが、

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田勇編『江戸語大辞典 新装版』(講談社)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:45| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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