2020年07月17日

浅茅焼


「浅茅焼(あさじやき)」の「浅茅(あさじ)」とは、

一面に生えた、丈の低い茅(ちがや)、

をいう。「ちがや」は、

イネ科の多年草、

日当たりのよい空き地に一面にはえ、細い葉を一面に立てた群落を作り、白い穂を出す、

とあるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%81%E3%82%AC%E3%83%A4。春、葉より先に柔らかい銀毛のある花穂をつける。この花穂を、

つばな、
ちばな、

といい、強壮剤とし、古くは成熟した穂で火口(ほぐち)をつくった。茎葉は屋根などを葺いた(広辞苑)。

ちがやの穂.jpg


万葉集に、春の蕾の時は、

戯奴(わけ)がため吾が手もすまに春の野に抜ける茅花(つばな)ぞ食(め)して肥えませ(紀女郎)、

とあるように、甘みがあって食べられるhttp://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/saijiki/tigaya.htmlらしい。

「茅」(漢音ボウ、呉音ミョウ)は、

会意兼形声。「艸+音符矛(ボウ 先の細いほこ)」

であり、尖った葉が垂直に立っている様子から、矛に見立てたものであり、「ちがや」「かや」の意である。

和名「ちがや」は、

チ(茅)カヤ(草)の義、チ(茅)は千の義。叢生するより云ふか(大言海)、
チヒガヤ(小萱)の義(日本語原学=林甕臣)、
等々あるが、

「チ」は千を表し、多く群がって生える様子から、千なる茅(カヤ)の意味、

で名付けられたhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%81%E3%82%AC%E3%83%A4というのが妥当なのだろう。

ちがや.jpg


「浅茅」は、

茅の丈の低いもの、

を指し、

浅は、低しの意、

とある(大言海)。

深しの対、

とあり(岩波古語辞典)、

アス(褪)と同根。深さが少ない、薄い、低いの意、

とある(岩波古語辞典)。「浅い」の語源には、

ウスシ(薄)のウスと同根(古代日本語文法の成立の研究=山口佳紀)、
アは発語、サシはサシ(狭)の義(大言海)、
アは輕いの音、サは小水の流れる音で狭小、薄いの意(日本語源=賀茂百樹)、
少量の水がサラサラ流れるさまから出た語(国語溯原=大矢徹)、

等々、種々あるが、それは、「浅い」が、

空間的に表面から底までの距離が近い、奥までが近い、
時間的に初めからの時間の経過が少ない、
色や香りが薄い、
程度が軽い、
社会な地位が低い、
心づかいが不十分、

等々の幅広い意味で使われているためである(広辞苑)。浅茅の生う原を、

浅茅原、

と呼ぶ。

茅生(ちふ)、

とも言う(大言海)。

さて、料理で「あさじ」という名は、

小麦粉に水と醤油をあわせてこねる。それにわらび穂を切って衣にまぶしつけてから油で揚げ、その上に唐きび粉を振りかけて出す、

とある(たべもの語源辞典)。これを「あさじ」と呼んだのは、

唐きび粉がばらついていること、

からとある(仝上)。茅のまばらに生えているのに準えている。

「浅茅焼」というのは、当て字なので、

浅路焼、

とも、

浅地、
麻地、

とも当て(仝上)、

キスなどの軽い味の魚を、うす塩をしておいてから味醂醤油に漬け、取り出してよく汁をふきとって、身と身をあわせて串に刺し、煎った白ごまを振りかけて焼く、

とある(仝上)。この白ごまのまばらについているのが、

茅の風情、

になる(仝上)、ということらしい。

ふりかけるものは、何でもよいが、一面にまばらに何かがついて焼かれているもの、

をいうらしい(仝上)。

「浅茅」の名の付くものに、

浅茅飴、

もある。

求肥の粉気をふきとって、白ごまの煎ったのを一面につけている、

ところからこの名がついた。

四角い求肥生地の周りにしろ胡麻をまぶし、浅茅が原に見立てた、

ものであるhttp://moroeya.co.jp/archives/23

求肥飴、
求肥餅、
浅茅餅、

とも称す、とある(仝上)

浅茅飴.jpg

(浅茅飴 http://moroeya.co.jp/archives/23より)

「浅茅和」は、

白の煎り胡麻で作った切りごまを砂糖、醤油等で味つけし、下処理を施した春菊や法蓮草などを和えた料理、

でありhttps://kondate.oisiiryouri.com/asajiae-gogen-imi/

朝地和え(あさじあえ).jpg

(朝地和え(あさじあえ) https://kondate.oisiiryouri.com/asajiae-gogen-imi/より)

天明二年(1782)刊行の、豆腐を題材にした料理「豆腐百珍」に、豆腐百珍の佳品として、

浅茅(アサジ)田楽、

が、

稀醤(うすしやうゆ)のつけ炙(やき)にして梅醤(むめみそ)をぬりて、いりたる芥子を密にかける也

と載る。この芥子を掛けたさまが、茅に準えられている。

参考文献;
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル:浅茅焼
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