「浅茅焼(あさじやき)」の「浅茅(あさじ)」とは、
一面に生えた、丈の低い茅(ちがや)、
をいう。「ちがや」は、
イネ科の多年草、
日当たりのよい空き地に一面にはえ、細い葉を一面に立てた群落を作り、白い穂を出す、
とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%81%E3%82%AC%E3%83%A4)。春、葉より先に柔らかい銀毛のある花穂をつける。この花穂を、
つばな、
ちばな、
といい、強壮剤とし、古くは成熟した穂で火口(ほぐち)をつくった。茎葉は屋根などを葺いた(広辞苑)。
万葉集に、春の蕾の時は、
戯奴(わけ)がため吾が手もすまに春の野に抜ける茅花(つばな)ぞ食(め)して肥えませ(紀女郎)、
とあるように、甘みがあって食べられる(http://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/saijiki/tigaya.html)らしい。
「茅」(漢音ボウ、呉音ミョウ)は、
会意兼形声。「艸+音符矛(ボウ 先の細いほこ)」
であり、尖った葉が垂直に立っている様子から、矛に見立てたものであり、「ちがや」「かや」の意である。
和名「ちがや」は、
チ(茅)カヤ(草)の義、チ(茅)は千の義。叢生するより云ふか(大言海)、
チヒガヤ(小萱)の義(日本語原学=林甕臣)、
等々あるが、
「チ」は千を表し、多く群がって生える様子から、千なる茅(カヤ)の意味、
で名付けられた(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%81%E3%82%AC%E3%83%A4)というのが妥当なのだろう。
「浅茅」は、
茅の丈の低いもの、
を指し、
浅は、低しの意、
とある(大言海)。
深しの対、
とあり(岩波古語辞典)、
アス(褪)と同根。深さが少ない、薄い、低いの意、
とある(岩波古語辞典)。「浅い」の語源には、
ウスシ(薄)のウスと同根(古代日本語文法の成立の研究=山口佳紀)、
アは発語、サシはサシ(狭)の義(大言海)、
アは輕いの音、サは小水の流れる音で狭小、薄いの意(日本語源=賀茂百樹)、
少量の水がサラサラ流れるさまから出た語(国語溯原=大矢徹)、
等々、種々あるが、それは、「浅い」が、
空間的に表面から底までの距離が近い、奥までが近い、
時間的に初めからの時間の経過が少ない、
色や香りが薄い、
程度が軽い、
社会な地位が低い、
心づかいが不十分、
等々の幅広い意味で使われているためである(広辞苑)。浅茅の生う原を、
浅茅原、
と呼ぶ。
茅生(ちふ)、
とも言う(大言海)。
さて、料理で「あさじ」という名は、
小麦粉に水と醤油をあわせてこねる。それにわらび穂を切って衣にまぶしつけてから油で揚げ、その上に唐きび粉を振りかけて出す、
とある(たべもの語源辞典)。これを「あさじ」と呼んだのは、
唐きび粉がばらついていること、
からとある(仝上)。茅のまばらに生えているのに準えている。
「浅茅焼」というのは、当て字なので、
浅路焼、
とも、
浅地、
麻地、
とも当て(仝上)、
キスなどの軽い味の魚を、うす塩をしておいてから味醂醤油に漬け、取り出してよく汁をふきとって、身と身をあわせて串に刺し、煎った白ごまを振りかけて焼く、
とある(仝上)。この白ごまのまばらについているのが、
茅の風情、
になる(仝上)、ということらしい。
ふりかけるものは、何でもよいが、一面にまばらに何かがついて焼かれているもの、
をいうらしい(仝上)。
「浅茅」の名の付くものに、
浅茅飴、
もある。
求肥の粉気をふきとって、白ごまの煎ったのを一面につけている、
ところからこの名がついた。
四角い求肥生地の周りにしろ胡麻をまぶし、浅茅が原に見立てた、
ものである(http://moroeya.co.jp/archives/23)。
求肥飴、
求肥餅、
浅茅餅、
とも称す、とある(仝上)
(浅茅飴 http://moroeya.co.jp/archives/23より)
「浅茅和」は、
白の煎り胡麻で作った切りごまを砂糖、醤油等で味つけし、下処理を施した春菊や法蓮草などを和えた料理、
であり(https://kondate.oisiiryouri.com/asajiae-gogen-imi/)、
(朝地和え(あさじあえ) https://kondate.oisiiryouri.com/asajiae-gogen-imi/より)
天明二年(1782)刊行の、豆腐を題材にした料理「豆腐百珍」に、豆腐百珍の佳品として、
浅茅(アサジ)田楽、
が、
稀醤(うすしやうゆ)のつけ炙(やき)にして梅醤(むめみそ)をぬりて、いりたる芥子を密にかける也
と載る。この芥子を掛けたさまが、茅に準えられている。
参考文献;
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
ラベル:浅茅焼