集め汁


「集め汁」とは、

大根・牛蒡(ごぼう)などの野菜や豆腐・串鮑(くしあわび)・干し魚など、種々の材料を取り合わせて煮込んだ味噌汁、またはすまし汁、

の意で、

邪気を払うとして5月5日に食べるもの、

とされた(デジタル大辞泉)、とある。そのため、

五月汁、

とも言い、

現在も鹿児島に残っていて、鯛・大根・牛蒡・椎茸・油揚げなどを味噌汁にして粉山椒をふりこんで食べる、

とある(たべもの語源辞典)。古くは、

骨董(あつめ)汁、

とも当て、

室町時代の礼法をつかさどる小笠原備前守政清が、1504年(永正1)に書いた文書に、すでにその名が出ている、

とある(日本大百科全書)。

あつめ汁.jpg


昔、貴族や武将たちが客人の息災を願ってもてなした集め汁はいわば格上のお味噌汁でした。主人側は遠くから海産物を運ばせたり、空に飛ぶ鳥を撃ち落としたり、山や畑の美味なる食材集めるのに走り回ったわけで、まさにご馳走!

ともありhttps://www.yamabukimiso.jp/post_column、それだけの具材を集めること自体が、確かに馳走であった。

「馳走」とは、文字通り、

走り回ること、

であり、さらに、

もてなしのために奔走すること、

であり、その奔走する意から、

もてなし、

に意に、さらに、

酒食などで饗応する、

へと意が転じた。その意味では、文字通りの「ご馳走」であった。

「集め汁」の由来は、

たくさんの具材を集めるから「集め汁」、

とも、

羹汁(あつものじる)があつめ汁になった、

とも、

羹汁の熱い汁ものが集め汁になった、

と諸説あるようだが(たべもの語源辞典・https://biyori.shizensyokuhin.jp/articles/707その他)、

品々を集めた汁を名にした、

のではないか(たべもの語源辞典)。

安土桃山時代の初期、天正年間(1573~1592)に扱われた安土城の料理献立集のなかに、集め汁の中身を、

いりこ、くしあわび、ふ、しいたけ、大まめ、あまのり、

とある(仝上)。寛永二〇年(1643))版の『料理物語』には、

中味噌だし加えよし、またすましにも仕候、大根、午蒡、芋、豆腐、筍、串鮑(くしあわび)、煎海鼠(いりこ)、つみ入など入れてよし、その外いろいろ、

あり、天正年間とさほど変わっていない(日本大百科全書)。

天明五年乙巳(1785)の『鯛百珍』には、薩摩鯛の集め汁が載り、具は、

鯛・椎茸・油揚げ・大根・ごぼう・焼豆腐・ねぎ、

で、

椀よりも高くもりあげて出すなり、

とあるhttps://www.ginza-mikawaya.jp/?mode=f54とか。

薩摩鯛の集め汁.jpg

(薩摩鯛のあつめ汁 https://www.ginza-mikawaya.jp/?mode=f54より)

「集め汁」に似た汁物として、

旧暦の12月8日、2月8日の「事八日(ことようか)」に無病息災を祈って食べる習慣があった野菜たっぷりの味噌汁、

お事汁(おことじる)、

というものもあるhttps://esdiscovery.jp/sky/info01/food_menu002.html、とある。別名、

六質汁(むしつじる)、

とも呼び、

芋・大根・人参・ゴボウ・小豆・コンニャク、

の6種類の具材を入れていたことから、そう呼ばれた。やはり、無病息災を祈願する味噌汁である(仝上)。

「事八日(ことようか)」というのは、

東日本で、旧暦二月八日(お事始め)と十二月八日(お事納め)を併せて言う、

とある(広辞苑)が、2月8日と12月8日のどちらかを「事始め」、他方を「事納め」と呼ぶ場合、

「事」を年間の祭事あるいは農作業と解釈し、2月を事始め・12月を事納めとするのが主流だが、関東の一部では「事」を新年の祝い事と解釈し、12月が事始め・2月が事納めとなる、

ともあるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%8B%E5%85%AB%E6%97%A5

八日節供、八日待(まち)、八日ぞう、事始め/事納め、お事始め/お事納め、八日吹き、八日行、節供始め/節供納め、お薬師様、恵比寿講、

等々とも呼ばれる(仝上)。

2月8日の「事納」に目籠を掲げている。鮮斎永濯(1884)『温古年中行事』.jpg

(2月8日の「事納」に目籠を掲げている。鮮斎永濯(1884)『温古年中行事』 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%8B%E5%85%AB%E6%97%A5より)

「事八日」のコトは、

小さな祭り、

の意。この日は一つ目の怪物が来るといい,これを避けるために目籠を竿先に掛けて軒先に立てたりするほか、針供養などの行事がある。これらは物忌から発したもので,仕事を休んで静かに家で謹慎していることが本義であるが,のちに転じて,怪物や鬼や疫神が来るからだと説明するようになったと考えられる、

とある(ブリタニカ国際大百科事典)。

参考文献;
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

この記事へのコメント