2020年07月31日

幾世餅


「幾世餅」は、

短冊形に切った餅を焼いてまわりに小豆餡をつけたもの、

である(たべもの語源辞典・広辞苑)。元禄十七年(1704)に、両国広小路小松屋喜兵衛というものがはじめて製したとき、吉原町河岸見世の遊女幾世を妻に迎えて商ったからである。繁盛して名物となり、

幾世餅、

と称した、とある(仝上)。

一個五文、

とある(江戸語大辞典)。

幾世餅の元祖とされる小松屋の商標.jpg

(幾世餅の元祖とされる小松屋の商標 『江戸時代名物集』 https://www.ndl.go.jp/kaleido/entry/25/3.htmlより)

享保十八年(1733)刊『江戸名物鹿子』の江戸名物には、

塩瀬饅頭、本町色紙豆腐、味噌屋元結、本郷麹室、歌比丘尼鬢簓、油町紅絵、白木呉服、本町益田目薬、五霊香、破笠塗物、清水夏大根種、勧化僧、赤坂左たばこ、浅草茶筌、芝三官飴、横山町花蓙織、弥左、衛門町薄雪せんべい、浅草簑市、こん/\妨、吉原朝日のみだ、さん茶女郎、目黒飴、駒込富士団扇、麹町助惣やき、てうし蝶、髭重兵衛が飴、赤坂鍔、長坂元結、松井源左衛門居合、佃島藤、吉原太神楽、麹町獣、湯島唐人祭のねりもの、浅草柳屋挽伍倍子、両国の幾世餅〟

と並ぶ中に、「幾世餅」がありhttps://www.ne.jp/asahi/kato/yoshio/ukiyoeyougo/he-yougo/yougo-benie.html、さらに、『近代世事談』(1734刊)にも、

夫婦にて餅を拵へ、吉原町の幾世。幾世と申触し、殊の外商ひもありし、

とあるが、天保七年(1836)刊『江戸名物詩』には、

若松屋(菓子屋) 「若松屋幾代餅  両国吉川町
両国一番若松屋 雑煮(サウニ)汁粉(シルコ)客の来る頻なり、

と「幾世餅」の店が代わっており、こうある。

世間の名物多くは零落す  幾世独歴幾代春、

そして、

吉原遊女・幾代を落籍した後その名をとって開業した餡餅。享保二十年刊『続江戸砂子』「両国はし 西の詰松屋喜兵衛」とあり、

http://www.ne.jp/asahi/kato/yoshio/ukiyoeyougo/e-yougo/yougo-edomeibutu-tenpou7.html、享保二十年までは、江戸名物であったらしいのだが(『近代世事談』(1734刊))。

幾世餅店の図.jpg

(幾世餅店の図『江戸職人歌合』 https://www.ndl.go.jp/kaleido/entry/25/3.htmlより)

この「幾世餅」は、少し話を変えて、落語の演目にもなっているが、落語では。

搗き米屋六右衛門の奉公人の清蔵が、絵草紙屋で見た吉原の幾代太夫の錦絵に一目ぼれして恋患いし、心配した親方は一年間みっちりと働いて金を貯めたら幾代太夫に会わせてやると約束する。一年後、貯まった十三両と二分に、足して十五両をもたせ、遊び達者な医者の藪井竹庵先生に指南、案内役を頼み、清蔵の身なりを整え、野田の醤油問屋の若旦那ということにして吉原に繰り出す。竹庵なじみのお茶屋の女将に幾代太夫に会いたいと頼み、幸いにも幾代は空いていて、清蔵は幾代の大見世に上がり、晴れてご対面となる。その夜初会とも思えないもてなしを受け、後朝(きぬぎぬ)の別れに、幾代は「今度は主は何時来てくんなます」と問われ、清蔵は搗き米屋の奉公人と明し、一年間、稼いだらまた来ると打ち明ける。清蔵の真に惚れたのか幾代は来年三月で年季が明けたら、清蔵の所へ行くから女房にして欲しいと、支度金の五十両を預ける。三月、搗き米屋の前に一丁の駕籠がぴたりと止まった。中からは文金高島田の幾代が現れ、竹庵先生を仲人に、二人は晴れて夫婦になって、親方が清蔵を独立させ、両国広小路に店を持たせた。そこで売り出した「幾代餅」は大評判で名物となった、

https://www.ndl.go.jp/kaleido/entry/25/3.html、「紺屋高尾」と似た咄になっている。「紺屋高尾」も、実在の、5代目紺屋高尾で、駄染(だぞめ)高尾ともいわれ、神田お玉が池の紺屋九郎兵衛に嫁した。駄染めと呼ばれる量産染色で手拭を製造し、手拭は当時の遊び人の間で流行したと伝わる。のち3人の子を産み、80歳余まで生きた、とかhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%AB%98%E5%B0%BE%E5%A4%AA%E5%A4%AB

根岸鎮衛『耳嚢』(1784~1814)に、こんな話が載っている、という。

「幾世餅」は、相当売れたらしく、元祖は浅草寺門内の藤屋と言われており、藤屋が、幾世餅の商標の独占を大岡越前守に訴え出た。判決は、藤屋が元祖であることを認めつつも、小松屋の事情も斟酌して、藤屋は四谷内藤新宿、小松屋は葛西新宿に移ることを命じた。どちらも江戸のはずれ、とても商売になりません。双方示談の上、訴えを取り下げた、

https://www.toraya-group.co.jp/toraya/bunko/historical-personage/034/

参考文献;
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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