「巾着汁」というのは、
山芋の皮をむいてすりおろして葛粉を少し混ぜ、切った半紙に包んで熱湯を入れたものを味噌汁の実にした汁。紙に包んだときに巾着のような形になるのでこの名がある、
とある(たべもの語源辞典)。
何かの中身をくりぬいて、巾着袋のようにして好みのものを詰めた料理名に、
巾着、
という名称が用いられる(仝上)。最近だと、油揚げを袋として用いるものが多いようだが、
茄子の中身をくりぬいて巾着の袋のようにして豆腐を詰めた煮た、
巾着豆腐、
柚子の実をくりとってその中に好みのものを詰めたものを、
巾着柚、
といった(仝上)、らしい
(長芋きんちゃく汁 https://www.kubara.jp/recipe/1434/より)
「巾着」というのは、
布・革・帛(きぬ)などでつくり、口を紐でくくるようにした小物入れ、、
を言い(岩波古語辞典)、中に金銭などを入れて携帯する袋である。今日でも、幼稚園や小学校などでも使用されている。
横襞(よこひだ)、
とも呼ぶ。
腰巾着、
というと、
常に人に付き従っている者をあざける語、
になる。
巾着、
だけでもその意で使う。
巾着の紙鳶(いかのぼり)、
というと、
巾着が軽くなって紙鳶のように風に舞い上がる意で、金銭を使い果たすこと、
である(岩波古語辞典)。「巾着」は、
荷包、
とも言う。和訓栞には、
荷包を、巾着と書けり、手巾(シュキン 手拭い)に着くるより云へるにや、燧袋の遺製なりと云へり、
とある(大言海)。語源由来辞典にも、
「巾」は「頭巾」や「布巾」にも用いられる語で、「布切れ」の意味。肌身に着けて携帯する布切れ(袋)なので、「巾着」というようになった。火打ち道具を入れた火打ち袋が変化したものといわれ、古くは金銭の他、お守り薬や、印籠などにも入れられていた、
とあるが、日本語源広辞典は、
巾(切れ)+着(チャク擬声)、
とし、
口がチャクッとよくしまる、
意とある。しかし、その用例の、
イソギンチャク、
は、
磯巾着、
と当てているところを見ると、巾着の口が締まるのに準えているので、見当違いなのではないか。
巾着草(キンチャクソウ)、
も、
カルセオラリア、
ともいい、
花弁の下側が袋状になっているのを巾着に例えたもの、
である(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%AB%E3%82%BB%E3%82%AA%E3%83%A9%E3%83%AA%E3%82%A2)。「巾着」は、
「巾」は布きれ、「着」は身に付ける意で、身につけて携帯する布きれの意から名付けられた、
という(由来・語源辞典)のでよいのではないか。
巾着切(きんちゃくきり)、
は、「掏り」のことだが、「巾着」に金品を入れていたからである。による滑稽本『東海道中膝栗毛』(十返舎一九)に、
道中で「ごまのはい」に金を盗まれて困った弥次郎兵衛と喜多八が身に着けていた印伝革の巾着を通りがかりの武士に300文で売りつけようとするが、足元を見られて安く買いたたかれてしまう、
ところがある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%AB%E3%82%BB%E3%82%AA%E3%83%A9%E3%83%AA%E3%82%A2)。「印伝革」とは、
羊や鹿の皮をなめしたものをいう。細かいしぼが多くあり、肌合いがよい。なめした革に染色を施し漆で模様を描いたもので、袋物などに用いられる。名称はインド(印度)伝来に因むとされる、
とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%B0%E4%BC%9D)。
「巾着」は、隠語としても使われたらしく、
客、
の意で、
きんちゃ、
とも言ったらしい。金銭の出所・持ち主だかららしい(江戸語大辞典)。吉原詞では、
遣り手の異称、
であった。大きな巾着をぶら下げていたかららしい(仝上)。また、江戸時代の俗語で、
私娼、
をも意味した(広辞苑)、らしい。
因みに、よく似た、
信玄袋、
との違いは、「信玄袋」が、底に織物製の胴をつけていること、である。持物一切合財を入れられるという意から、
合財(がつさい)袋、
とも呼ばれたらしいという(https://komorebit.exblog.jp/19558924/)。
参考文献;
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田勇編『江戸語大辞典 新装版』(講談社)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
ラベル:巾着汁