「肴」は、
さかな、
と訓ます。「肴」(漢音コウ、呉音ギョウ)は、
会意兼形声。「肉+音符爻(コウ 交差する)」で、料理した肉を交差させて俎豆(ソトウ)の上に並べたもの、
とあり(漢字源)、
食べるために煮た魚肉、
の意である。
飲食の時に食べる副産物、
の意で用いるのはわが国だけである(漢字源)が、
酒肴、
珍肴、
という言葉があり、
穀物以外の副食物、
の意もあり(字源)、
酒の肴、
ということが、原義から外れているとは必ずしも言い難い気もする。「さかな」に当てる漢字には、
魚、
があるが、「魚」(漢音ギョ、呉音ゴ)は、
象形文字。骨組みの張った魚の全体を画いたもの、
で(漢字源)、いわゆる「さかな」の意であるが、
鱗と鰭のある水族、
を指し(字源)、
池魚、
海魚、
等々と使う。「さかな」の意味では、
鮭、
の字もあるが、「鮭」(漢音ケイ、カイ、呉音ケ、ゲ)は、
会意兼形声。「魚+音符圭(ケイ 三角形に尖った形がよい)」
とある(漢字源)。日本語では、「さけ」にあてるが、
鮭肝死人、
とあるように、
ふぐ、
を指し、さらに、
鮭菜、
というように、
調理せる魚菜の総称、
の意味がある(字源)。
さて、「さかな」であるが、
酒の肴、
という言い方はいけない、などというのは、「さかな」の語源が、
酒菜(さかな)の意、
とされるから(広辞苑)である。つまり、「肴」は、平安時代から使われ、
サカは酒、ナは食用の魚菜の総称(岩波古語辞典)、
酒+ナ(穀物以外の副食物)、ナは惣菜の意(日本語源広辞典)、
「菜」(な)は、副食物のことを指し、酒に添える料理(酒に添える副菜)を「酒のな」と呼び、これが、なまって 「酒な」となり、「肴」となった(http://hac.cside.com/manner/6shou/14setu.html)、
「酒菜」から。もともと副食を「な」といい、「菜」「魚」「肴」の字をあてていた。酒のための「な(おかず)」という意味である。「さかな」という音からは魚介類が想像されるかもしれないが、酒席で食される食品であれば、肴となる(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%82%B4)、
等々が一般的とされる。大言海も、同趣で、
サカは酒なり、ナは食用とする魚菜の総称、
とし、
國語、晉語「飲而無殽」注「殽俎實(モリモノ)也」、広韻「凡非穀而食者曰肴、通作殽」
を引いて、
酒を飲むとき、副食(アハセ)とするもの、魚、菜の、調理したるもの、其外、すべてを云う、
とし、
今、専ら、魚を云ふ、
とあるが、「酒の肴」というとき、必ずしも「魚」を指さない。その意味では先祖返りしている。酒にあてがうことから、
アテ、
と呼ぶし、手でつまんで簡単に食べられるようなおかずだったから、「つまみもの」と呼んでいたので、
つまみ(おつまみ)、
ともいう(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%82%B4)。その意味から派生して、
酒を飲む際に共に楽しむ様々な対象(歌舞や面白い話題など)、
も「肴」と呼ばれる(仝上)。
「菜」(サイ)は、
会意兼形声。「艸+音符采(サイ 採=つみとる)」。つみなのこと、
とある(漢字源)。
葉、茎を食用とする草本類の総称、
である(仝上)。和語では、
な、
とも訓ませ、
酒飯に添えるものの総称である。
魚・鳥・草木、食べるものは、みな菜であって、ナという、
のであり(たべもの語源辞典)、だから、酒を飲むときの「菜」だから、
サケのナ→サカナ、
となる。逆にいうと、「な」は、
肴、
とも、
菜、
とも、
当てる。「な(菜)」は、
肴(な)と同源、
なのであり(広辞苑)、「菜」と「肴」と漢字をあてわけるまでは、
な、
で、
野菜・魚・鳥獣などの副食物、
を全て指し、
さい、
おかず、
の意であった(岩波古語辞典)。かつては、
おめぐり、
あわせもの、
とも言った。「あわせもの」は、
飯に合わせて食うことから、
いう(日本食生活史)。古今著聞集に、
麦飯に鰯あはせに、只今調達すべきよし、
とある(仝上)。
「菜」の字を当てることで、「菜(な)」は、
葉・茎・根などの食用とする草木、
と分離し、今日では、「菜」(な)は、
あぶらな類の葉菜、
に限定するようになっている(広辞苑)。そして、
魚類のことを「さかな」と呼ぶのは、肴から転じた言葉であり、酒の肴には魚介類料理が多く使用されたためである。古くは「うを」(後に「うお」)と呼んでいたが、江戸時代頃から「さかな」と呼ぶようになった、
とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%82%B4)。もともと「魚」の意では、
イヲ、
ウヲ、
が用いられていた(岩波古語辞典)。名義抄には、
魚、ウヲ、俗云、イヲ、
とある。
江戸時代以降、次第にサカナがこの意味領域を侵しはじめ、明治以降、イヲ・ウヲにとってかわるようになった、
とある(日本語源大辞典)。江戸語大辞典では、「魚」の意味で、「さかな」に、
魚、
を当てている。文政八年(1825)の風俗粋好伝には、
鮮魚売(さかなうり)、
天保九年(1838)の祝井風呂時雨傘には、
魚問屋(さかなどんや)、
と使われて、「魚」(うお)の意となっている。イヲ、ウヲから「サカナ」に転じたとき、「魚」と当てて、区別したのかもしれない。
ちなみに、平日の菜を、京阪では、
飯(ばん)ざい、
といい、江戸では、
惣ざい、
といった(たべもの語源辞典)。
(ビールのアテ https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%82%B4より)
参考文献;
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
渡辺実『日本食生活史』(吉川弘文館)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
前田勇編『江戸語大辞典 新装版』(講談社)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
ラベル:肴