小豆
「小豆」(あずき)については、「豆」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/473371197.html?1580864227)で触れたことがある。「あずき」は、
小豆、
と当てるが、これは、
ショウズ、
と訓む中国語である(字源)。大言海は、「あづき」に、
赤小豆、
と当て、
「醫心方『赤小豆(あかつき)』、成形図説(文化)『赤小豆(あずき)、赤粒木(あかつぶき)』などの義にや。キは草の義を表し、ハギ、ススキ、フフキ(蕗)等の語成分で、またキザスの語根」
とする。確かに、
アカアヅキ、
という呼び方もあるが、「あずき」の語源には、
アは赤を意味し、ツキ・ツキが溶けることを意味し、他の豆より調理時間が短いことを意味していた、地方用語でアズ・アヅとは崩れやすいという意味であり、そこから煮崩れしやすいアズキと名付けられた(日本釈名・柴門和語類集)、
「あ」は「赤色」、「つき」及び「ずき」は「溶ける」の意味があり、赤くて煮ると皮が破れて豆が崩れやすいことから「あずき」になった(大和本草)、
アは小の義、ツキはツムキと同語で、角がある意(東雅)、
アは赤、ツキはツク(搗)か。臼でついて用いることを吉とし、またもちなどにつくる故からか(和句解)、
アツキ(赤粒草)の義(言元梯)、
アカツキ(赤着)の義(名言通・日本語原学=林甕臣)、
豆木の湯桶読みツキか(日本語源=賀茂百樹)、
アヂケ(味饌)の転。うまい食物の意(和訓栞後編・日本古語大辞典=松岡静雄)、
イツキ(斎)から出た語か(語源大辞典=堀井令以知)、
アイヌ語でantukiという。アイヌ語が日本語に入ってきてアヅキとなったか、逆に日本語がアイヌ語に入ったか、両様の解釈が可能(外来語の話=新村出)、
朝鮮語pqt-ki(小豆)からか(植物和名語源新考=深津正)、
中国からdugという音が実物のアズキとともに日本に伝えられ、dugiとなり、清音化し、接頭語アが加わった(語源辞典・植物篇=吉田金彦)、
「本草和名(ホンゾウワミョウ)」(平安時代)には「赤小豆」を阿加阿都岐(アカアツキ)と記述しており、後にアズキとなった(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%BA%E3%82%AD)、
赤粒木(あかつぶき)からアズキとなった(仝上)、
アヅ(味)+キ(重なり)で、味を引き立てるものの意(日本語源広辞典)
等々諸説あり(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%BA%E3%82%AD、日本語源大辞典)、どれとは決めがたい。しかし、古く縄文遺跡から「小豆」が発掘されているほか、古事記に、
殺されたオオゲツヒメの鼻から小豆が生じたとする、
し、万葉集にも、
あづきなく 何の狂言(たはこと) 今さらに 童言(わらはごと)する 老人(おいひと)にして、
と、「あづきなく」(不当に)の「あづき」に「小豆」の漢字を当てており、奈良時代からあった(仝上)、と思われる。とするなら、知られていた「豆」、つまり、
大豆、
と区別して、
赤小豆(あかあづき)、
としたことは確からしく思えるが、どう訓み、どう転訛して「あづき」→「あずき」となったかは、はっきりしない。大言海の、すすき、フキの「キ」から、
アカツブキ→アカツキ→アヅキ、
といったふうな転訛が最もあり得るように思える。
「あずき粥」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/473475996.html)で触れたように、粥に小豆を加えたのは、「小豆」の、
赤は陽の色で、小豆の粥は、この赤い色を食べて、冬の陰気を陽徳で消させる、
という意がある(たべもの語源辞典)とされるが、
「小豆を入れて煮た粥。普通の白粥と違って赤く染まるので、その色に呪力を認め、屋移りや旅立ちに災異除(よ)けとして用いられた」
ともあり(日本大百科全書)、
「小豆が持つ赤色と稲作民族における呪術が結び付けられて、古くから祭祀の場において小豆が用いられてきた。日本の南北朝時代に書かれた『拾芥抄』には中国の伝説として、蚕の精が正月の半ばに糜(粥)を作って自分を祀れば100倍の蚕が得られるという託宣を残したことに由来するという話が載せられている。
中国においては、古くは冬至の際に小豆粥が食せられた。後にこの風習が発達して12月8日には米と小豆ほか複数の穀物や木の実を入れた「臘八粥」(ろうはちがゆ)というものが食せられ、六朝時代の中国南部では1月15日に豆粥が食せられた(『荊楚歳時記』)。これが日本に伝わって1月15日すなわち小正月の朝に小豆粥を食するようになったと考えられている」
と(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%8F%E8%B1%86%E7%B2%A5)、中国由来である。
正月十五日に小豆粥をつくって天狗を祀り、これを食べれば疫病にかからないという中国の俗信からきた、
ともある(たべもの語源辞典)。ただ、中国最古の薬物書「神農本草経(しんのうほんぞうきょう)」には、
あずきの煮汁が解毒剤として使われたと記載されており、日本でも古来よりあずきは薬として用いられた、
という実用的な意味もあったらしい(https://www.imuraya.co.jp/azuki/features/origin/)。
確かに、「あずき」は、紀元前1世紀の中国最古の農業書「氾勝之書(はんしょうししょ)」に、栽培方法が載っており、
日本のあずきは中国からの渡来と信じられてきました。しかし、ごく最近のDNAを調べた研究では、中国のあずきとは遺伝的に別系統で進化したようだ、
と報告されている(https://www.imuraya.co.jp/azuki/features/origin/)という。
参考文献;
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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