尾花
「尾花」は、
ススキの花、
の意であり、そのため、「尾花」の語源には、
穂に出たる状、獣の尾に似たれば(大言海)、
馬などの尾に似ているところから(デジタル大辞泉)、
ヲバナ(招花)の義(古今要覧稿)、
ホバナ(穂花)の転(名語記・言元梯・日本語の語源)、
等々あるが、いずれも、その花の形状に由来しているが、「尾花」からみれば、
花穂を尾に見立てた、
ということだろう。別に、
袖波草、
とも言い、また転じて、
ススキそのもの、
の意としても使う。秋の七草(萩・尾花・葛・撫子・女郎花・藤袴・桔梗)のひとつとされる。万葉集に、
多可麻刀能 乎婆奈(おばな)布伎故酒 秋風尓 比毛等伎安氣奈 多太奈良受等母
たかまとの乎婆奈ふきこす秋風に紐(ひも)解きあけな直(ただ)ならずとも、
という歌がある。
「ススキ」は、
薄、
芒、
と当てるが、
群がって生える草の総称、
であったものが、
尾花、
に特定しても使う(広辞苑)。また屋根を葺くのに使う。
茅・萱(かや)、
の主要な一種ともなっている(仝上)。かつては、
「茅」(かや)と呼ばれ、農家で茅葺(かやぶき)屋根の材料に用いたり、家畜の餌として利用することが多かった。そのため集落の近くに定期的に刈り入れをするススキ草原があり、これを茅場(かやば)と呼んでいた、
とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%82%B9%E3%82%AD)。
平安中期の倭名抄(廿巻)には、
薄、波奈須須岐、
とあり、安政六年(1859)頃成立の雅俗随筆には、
今は尾花を、すすきと云へど、古くは、群がり繁る草を、すべて、すすきと称ひ、爾雅、露草に、草聚生曰薄と云ふに従ひ、薄の字をすすきと訓ませたり、和名抄、廿巻草名、見可し、
とある。
「薄」(漢音ハク、呉音バク)は、
会意兼形声。甫(ボ)は、平らな苗床に苗の生えたことを示す会意文字で、圃(ホ)の原字。薄(ハク)は、甫を含んだ文字で、水が平らに転がること。薄は「艸+音符溥」で、草木が間をあけずにせまって生えていること。間がせまれば厚さが少なくうすく平らである、
とあり、「薄い」意であり、「すすき」に当てるのはわが国だけのようである。「芒」(漢音ボウ、呉音モウ)も、
会意兼形声。「艸+音符亡(ボウ みえにくい)」
とあり、「草の派穀物の先端の細い毛」の意はあるが、「ススキ」の意はない。「穂先」の意があるので、それで当てたものかもしれない。
「すすき」の語源も、所説多い。
ススは、スクスクと生立つ意、キは、木と同じく草の體を云ふ、ハギ(萩)、ヲギ(荻)と同趣。接尾語「キ」(草)は、芽萌(きざ)すのキにて、宿根より芽を生ずる義ならむ。萩に芽子(ガシ)の字を用ゐる。ヲギ(荻)、ハギ(萩)、
ヨモギ(艾)、フフキ(蕗)、アマキ(甘草)、ちょろぎ(草石蠶)、等々(大言海・日本語源広辞典)、
「スス」は「ササ(笹)」に通じ、「細い」意味の「ささ(細小)」もしくは「ささ(笹)」の変形、キは葉が峰刃のようで人を傷つけるから(東雅・語源由来辞典)、
スス(細かい・細い)+キ(草)、細かい草の意(日本語源広辞典)、
スは細い意で、それが叢生するところからススと重ねたもの、キは草をいう(箋注和名抄)、
ススキ(進草)の義(言元梯)、
スス(進)+クの名詞化、花穂がぬきんでて動く(すすく)意、つまり風にそよぐ草の意(日本語源広辞典)、
煤生の訓(関秘録)、
スはススケル意、キはキザスの略か(和句解)、
スクスククキ(直々茎)の義(名語記・日本語原学=林甕臣)、
茎に紅く血の付いたような部分があるところから、血ツキの轉(滑稽雑誌所引和訓義解)、
秋のスズシイときに花穂をつけるところから、スズシイの略(日本釈名)、
サヤサヤキ(清々生)の義(名言通)、
中空の筒状のツツクキ(筒茎)といい、ツの子交[ts]、茎[k(uk)i]の縮約の結果、ススキ(薄)になった(日本語の語源)、
等々諸説あるが、理屈ばったもの、語呂合わせを棄てると、「すすき」の「すす」は、
「ササ(笹)」に通じ、「細い」意味の「ささ(細小)」もしくは「ささ(笹)」の変形、
で、「き」は、
草、
と当てる接尾語、
ヲギ(荻)、ハギ(萩)、ヨモギ(艾)、フフキ(蕗)、アマキ(甘草)、
等々の「き」「ぎ」に使われているものと同じ、と見るのが妥当かもしれない。
なお、
「なでしこ」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/464868151.html)、
「おみなえし」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/477396903.html?1600111405)、
「萩」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/477503011.html?1600629932)、
「葛」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/477451881.html?1600370947)、
については触れた。
参考文献;
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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