「アチャラ漬」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/477716279.html?1601666484)で少し触れたが、「南蛮」というのは、
南方の夷(えびす)、
の意であり、
室町時代末期以後に、フィリピン・シャム・ポルトガル・スペイン、
等々のことを言った。だからこの地方から渡ってきたものに、
南蛮、
とつけた(たべもの語源辞典)、とある。「南蛮」は、
古くは中国で、インドシナをはじめとする南海の諸国の称、
とある(広辞苑)。北狄(ほくてき)に対する、とある(仝上)。「蛮(蠻)」は、
会意兼形声。旧字の上部はもつれる意(音ラン・レン)は、蠻は、それを音符とし、虫を加えた字。姿や生活が乱れもつれた虫(へび)のような人種のこと。もと、南方の未開の民を指し、転じて広く文明を知らない人の意となった、
とある(漢字源)。
古来、中国では、自国を中央に位する文化の開けた大きな国であるとして、中華または中夏と呼び、四方の国々を、それぞれ野蛮な国とみなして、東夷、西戎、南蛮、北狄と呼んだ、
のである(仝上)が、皮肉なことに、
クビライによって南宋が滅ぼされると、漢人が逆に南蛮人と呼ばれるようになった、
とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%97%E8%9B%AE)。日本もそれを真似て、
「蛮」という語は『日本書紀』の時代には朝鮮半島南部の未開地や薩摩の西の五色島、薩摩七島、琉球を指す語として用いられた、
が(仝上)、その後、室町末期から江戸時代にかけて、
シャム・ルソン・ジャワその他の南島諸島の称、その地を経由して渡来した西欧の人や物、
を指し、更に、
オランダ人を紅毛というのに対して、スペイン、ポルトガルを指し、キリシタンと同義に用いられた、
と、意味が変遷する(広辞苑)。
「南蛮」は、南方から渡来したものに付けられ、唐辛子も、
南蛮からし、
南蛮胡椒、
といい(たべもの語源辞典)、
南蛮菓子(カステラ、ボウル等々)、
南蛮黍(とうもろこしの異名)、
等々もある(大言海)。この中に、
南蛮煮、
もある。「南蛮煮」は、
南蛮、
とも略される。
(鶏もも肉の南蛮煮 https://cookpad.com/recipe/4110264より)
葱、大根、魚、鳥の肉など、すべて油にて煮たるもの、
とあり(大言海)、
鯔(ぼら)その他のなま魚のこけらをとって、下洗いし、丸焼きにして、油で揚げ、ネギの五分切りを入れて、煮出し汁と醤油とで煮たもの、
また、
すべて煮汁に唐辛子を加えて用いるもの、
とし(たべもの語源辞典)、
前者の南蛮煮は、日本ネギを加えているので南蛮煮とよばれる、
ともある(仝上)。これは、
難波煮、
のナニワ(難波)が転訛した語である(仝上)。どうも、
唐辛子、
と、
ネギ、
が鍵のようである。
「南蛮」の語は、今日の日本語においても長ネギや唐辛子を使った料理にその名をとどめている。「南蛮料理」という表現は、16世紀にポルトガル人が鉄砲とともに種子島にやってきた頃から、様々な料理関係の書物や料亭のメニューに現れていた、
とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%97%E8%9B%AE)。
南蛮餅、
というのは、
南蛮煮の雑煮餅、
で、膝栗毛に、
上方にてするなんばんもちとて、ねぎをいれたるざう煮餅なり、
とある。
ネギを入れた、
というところがミソで、
南蛮煮、南蛮焼というのは、みんな日本ネギをつかったものにつけている、
のである(仝上)。
鴨南蛮、
は、日本ネギを用いているからである。そば屋では、
ネギのことを南蛮と称しており、南蛮蕎麦はネギの入ったそばのことを指します。
また、南蛮人(ポルトガル人、スペイン人など南から来た人)が好む食べ物として唐辛子、とうもろこしなども南蛮と呼ぶことがあります。江戸時代に来日した南蛮人が、健康保持、殺菌などの目的でネギを盛んに食べていたのがネギを南蛮と呼ぶ由来とされ、鴨肉とネギが入ったそばを「鴨南蛮」と呼ぶのはそのためです、
とある(たべもの語源辞典・https://www.nikkoku.co.jp/entertainment/glossary/post-132.php)。
南蛮料理が現れる最も古い記録には、17世紀後期のものとみられる『南蛮料理書』がある。また主に長崎に伝わるしっぽくと呼ばれる卓上で食べる家庭での接客料理にも南蛮料理は取り込まれていった、
ともある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%97%E8%9B%AE)。文政十三年(1830)の『嬉遊笑覧』には、鴨南蛮について、
又葱(ねぎ)を入るゝを南蛮と云ひ、鴨を加へてかもなんばんと呼ぶ。昔より異風なるものを南蛮と云ふによれり、
とある(仝上)。
醤油と削り節をベースにした熱い汁で食べる「ぶっかけそば」が江戸時代中期に広まった。そこに鴨肉とネギを乗せて鴨南蛮の形にしたのは、日本橋馬喰町にあった「笹屋」とされる。幕末の『守貞謾稿』にも、
鴨肉ト葱ヲ加フ、冬ヲ専トス、
と、鴨南蛮を紹介している(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%B4%A8%E5%8D%97%E8%9B%AE)。
参考文献;
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95