吉備団子


「黍団子」http://ppnetwork.seesaa.net/article/476123164.htmlで触れたように、「黍団子」(きびだんご)は、

黍の実の粉で作った団子、

である(広辞苑)。大言海には、

もちきびの粉に、米の粉をまぜ、水に捏ねて、まろめて蒸したるもの、

とある。

黍餻、

とも当てる(大言海)。「黍団子」の早期の用例として、『山科家礼記』に、長享二年(1488)三月一九日に、

黍團子、

の記述があり、室町末期の日葡辞書にも、「吉備団子」は、

黍の団子、

と定義されているhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%BB%8D%E5%9B%A3%E5%AD%90、らしい。だが、その黍団子と、

吉備団子、

と当てられる団子菓子は、全く別物である。

吉備団子.jpg


「吉備団子」は、

求肥をこねて、白砂糖をまぶした団子、岡山の名産。安政年間(1854~60)創製で、本来黍の実の粉で製したので、吉備に因んで名づけられた、

とある(広辞苑)が、


嘉永・安政(1848~60)頃に現れる。岡山藩の茶人家老伊木三猿斎(いきさんえんさい)が勧めて、四道将軍の一人である吉備津彦命を祀る吉備津神社の境内の茶店で売らせた、

ともあり(たべもの語源辞典)、

吉備津神社門前の名物であったきびだんごを、茶人でもあった備前国岡山藩池田家の家老、伊木忠澄(いぎただずみ)の勧めで、広栄堂の初代、浅次郎が茶席用の菓子として工夫し、1856(安政3)年に考案したものとされる、

とある(日本の郷土料理がわかる辞典)ので、「黍団子」だったものが、「吉備団子」と改良されたもののようでもある。

伊木忠澄.jpg


因みに、四道将軍(しどうしょうぐん、よつのみちのいくさのきみ)とは、『日本書紀』に登場する、北陸、東海、西道、丹波に派遣された皇族の将軍、

大彦命(おおびこのみこと)、
武渟川別命(たけぬなかわわけのみこと)、
吉備津彦命(きびつひこのみこと)、
丹波道主命(たんばみちぬしのみこと)、

を指すhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%9B%E9%81%93%E5%B0%86%E8%BB%8D

「吉備団子」は、

昔は、黍で覆われた食品だった可能性もあるが、現在に至る製品は、餅米の粉を混ぜて求肥を作り、これを整形して小さく平な円形(碁石形)に仕上げる。黍の粉を混ぜて風味づけするが、使わないものもある。従来から桃太郎の「黍団子」と同一視する経歴があるが、黍は主原料ではない、

とありhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%89%E5%82%99%E5%9B%A3%E5%AD%90、いまは、

求肥http://ppnetwork.seesaa.net/article/473642635.htmlにきびの粉をまぜた菓子、

であり、

糯米(もちごめ)粉に上白糖と水飴(みずあめ)を加え、風味づけに少量の糯黍粉を混ぜ、湯炊きして半透明になるまで練り上げ、団子に丸めて表面にかたくり粉をまぶす。できあがりは淡い黄色みを帯び品のよい姿である。また表面にきな粉をまぶしたものもある、

という(日本大百科全書)。安政六年(1859)には、

江戸浅草で「日本一きび団子、昔屋桃太郎」の看板で黍団子を売り出したものがあったらしい(仝上)。

吉備津神社と黍団子という食べ物の間には、17世紀初頭までにはなにかしらのゆかりができていたらしい。細川幽斎(1610年没)が「備中吉備津宮にて詠める」と詞書で前置きした狂歌、

神はきねがならはしなれば先づ搗きて団子にしたき吉備津宮かな、

があり(寛文6年(1666)『古今夷曲集』)、この歌での「きね」は、

「巫女」と「杵」をかけており、黍粉に砕くためか黍餅を練るためかは不詳だが、ともかく「きびだんご」の製法は、杵で搗かれる手順があることが言及される。おそらく参詣者には「きびだんご」がふるまわれたことがあったのだろう、

とされているhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%BB%8D%E5%9B%A3%E5%AD%90。この時期(安土桃山~江戸初期)、吉備津神社の名物に、

きびだんご:吉備津 宮内の町並、

とあるhttps://fuuraiki.com/kibidango/

なお、団子http://ppnetwork.seesaa.net/article/475567670.html、と餅http://ppnetwork.seesaa.net/article/474462660.htmlの違いについては触れた。

参考文献;
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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