インチキ


「インチキ」は、

陰痴気、

と当てたりする(隠語大辞典)が、

トランプでインチキする、
インチキな手を使う、

等々というように、

ばくちで、相手の目をぬすんで不正を行うこと、

の意と、それを広く、

いんちきな品物、
いんちき医者、

等々というように、

ごまかし、
手抜き、
不正、
無責任、
本物でないこと、
にせもの、

の意とがある(広辞苑・デジタル大辞泉)。

テキヤ仲間の語としては、大正以前からあったらしいが、一般化したのは昭和初期とみられる、

とか(日本語源大辞典)、

昭和初年ごろから「いかさま」にかわり一般語化したという、

とか(デジタル大辞泉)あるので、限定された前者の意が、一般的な不正の意に広がった、とみられる。

確かに、

初め博徒仲間の言葉であつた、

とあり(隠語大辞典)、

数人共謀して行う詐欺賭博のことを、

いんちきし、

ともいい、

数人共謀して行ふ詐欺賭博を云ふ。又は単に「虚偽」と云ふ様な軽い意にも用ひられる。「さぎとばく」に同意。
昔から博徒、スリ等の間に用ゐられて来たが、トリツクを使つたり、イカサマをしたりする事をいふ。インチキ賭博などいひ、今日では凡てのカラクリある出鱈目なものに使はれてゐる。例へばインチキ会社。インチキな品。学生間ではカンニングのこと、

とあるが、必ずしも、

不正手段で勝負を争ふこと、
いかさま、

のみを指さず、既に、広く、

ごまかしの事にいふ、

とあり(仝上)、広く、

ごまかし、

の意味でも使われていたようである。

「インチキ」の語源は、いくつかあり、

安斎随筆、印地鎗の図説に見える、遠江国小笠郡の方言で、餌を用いない釣針のことをインチキ(餌(え)無き鉤(ち)の意か)から(広辞苑)、
イカサマのイ(イカ)や穴一、一六勝負のイチなどに、排斥・軽侮の意をもつ接尾語チキが付いた(コンチキ、トンチキ、ヘンチキのチキ、またはポンツク、ケンツクのツク、トンテキのテキと同類)もの(国語学叢論=新村出・広辞苑・日本語源広辞典・語源由来辞典)、
原語遊戯の一つに、第一音節にンチキを付ける方法があり、それからイカサマをインチキといった(猫も杓子も=楳垣実)、
人を瞞着することをインチクという福井の方言が、テキヤによって全国に伝搬し、東京風に訛ってインチキとなった(すらんぐ=暉峻康隆)、
昭和初年マニラ辺にいた商社員がタガログ語で中国人の意のIntsikという語を輸入して、新聞社などから使い始めたとの説がある。しかし大正四年刊『隠語輯覧』にすでに掲載している語であるから、年代的に矛盾する(外来語辞典=楳垣実後)、

等々から考えて、普通には、

トンチキ、
コンチキ、
ヘンチキ、

のように「チキ」を付けたと見るのが妥当だが、「イン」が、「イカサマ」の「イ」というのは、どうなのだろう。代案はないのだが。

トンチキは「頓的(とんてき:バカみたいだ)」、ヘンチキは「変的(へんてき:ヘンだ)」が変化したものと見られる、

とある(笑える国語辞典)ので、憶説だが、

イカサマ的→イカ的→イン的→インチキ、

といった転訛がありえるかもしれない。それと、

「インテキ」という言葉はなさそうなので、「インチキ」の場合、トンチキやヘンチキにならって「インチキ」と変化したのではないか、

と推測すること(仝上)も可能である。

参考文献;
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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