凝る


「凝る」は、

こる、

と訓ませるが、

こごる、

とも、

しこる、

とも訓ませる。「こる」は、

散り散りにある同質のものがひとつに寄り固まる(広辞苑)、
液体など、流動性をもって定まらないものが、寄り固まって一体となる(岩波古語辞典)、

意であり、

ひとところに集まり寄る、凝結する、
冷えて固まる、凍る、

の意から、それをメタファに、

傾注する、熱中する、

意となり、

意匠などに工夫を施す、
筋肉などが張ってかたくなる、

という意となる。「こごる」は、

固まって堅くなる、

意だが、

コゴユ(凍)・コゴシ(凝)と同根、

とあり(岩波古語辞典)、「こごゆ」は、

コゴシ(凝)・コゴリ(凝)と同根、

で、

寒さで身体の各部分が堅くなる意、

であり、「こごし」は、

コゴゆ(凍)・こごる(凝)と同根、

で、

凝り固まっている、

意で、それから、

ごつごつしている、
けわしい、

という意で使われる。「しこる」は、

痼る、

とも当て、

固まる、

意だが、それをメタファに、

意地を張る、

意でもあり、また、

飲みしこる、

というように、

一事に夢中になる、
ふける、

意であり、「こる」「こごる」「しこる」「こごゆ」はつながっている。当然、「こほり」(氷)とも関わるとみていい。「こる」の語源諸説をみると、その関係が見える。

コル(固)の義(言元梯)、
コはコ(濃)の義で、コム(込)のコに同じ(国語の語根とその分類=大島正健)、
コは所、学ぶ所や好む所に心が集中することをいうところから(国語本義)、
コホル(氷)の義(名言通)、
コオ(冱)に諧調のラ行音を添えた語コオリを活用した語コオルから(日本語原学=与謝野寛)、
カル(離)から(続上代特殊仮名音義=森重敏)、

等々の中で、「こほり」との関係が注目される。抽象度の高い解釈よりは、具体物を表現したものの方が、和語にふさわしい。「こほる」は、

氷る、
凍る、

とあて、

平安仮名文では、コホリ・ツララは、水面に張り詰めた氷にいうことが多く、ヒ(氷)は固まりの氷に言うことが多い、

とある(岩波古語辞典)。「こほり」の語源諸説は、

水が凝り固まったものであるところからコル(凝)の転(滑稽雑誌所引和訓義解・類聚名物考)、
コゴリから(円珠庵雑記)、
コリヒ(凝氷)の義(和訓栞)、
ココリ(氷凝)の義(言元梯)、
コリヲレ(凝折)の転(柴門和語類集)、
コハリ(強)の義(名言通)、

等々と、どうやら「こる」「こごる」とつながる。

「こごる」の語源諸説をみると、

コイコル(凍凝)の義(大言海)、
コイコユ(凍凍)の義(和訓栞)、
語幹コゴは動詞クグム(屈・曲)のクグに由来する(続上代特殊仮名音義=森重敏)、
コゴエ・コゴシと同根(岩波古語辞典)、

等々、「こごゆ」との関係が気になる。

「こごゆ」の語源諸説を見ると、

コイコユ(凍凍)と重ねて意を強めた語で上二段活用が下二段活用に変化した語(大言海)、
コゴユルは古くコイといい、コホリイル(氷入)の義(名言通)、

等々、「こい」「こゆ」とつながる。「こい」は、

寒い、
凍い、

と当て、

凍える、

意であり(岩波古語辞典)、「こゆ」は、

此語(下二段)活用は違えど「凝る」(四段)と通ず、

とあり、「こる(凝)」へと戻ってくる。ちなみに「しこる」は、

シ(接頭語)+コル(凝る)、

のようである(日本語源広辞典)。

こう見てくると、抽象的な言葉より、具体的な指示に基づいた言葉の方が古いのだとすると、

こる→こゆ(氷)→こほる、

よりは、具体的な「凍る」のを見て、

こゆ→こほる→こる、

という変化なのではないか、という気がする。すくなくとも、「凝る」は、

凍ゆ(凍える)、
あるいは、
氷る(氷る)、

とつながり、それが語源のように思われる。憶説ではあるが。

参考文献;
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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