2020年11月01日

おてんば


「おてんば」は、

御転婆、
於転婆、

等々と当てる(広辞苑)が、もちろん当て字である。

おてんま、

ともいう(江戸語大辞典)が、その場合、

御傳馬(おてんま)、

と当てている(仝上)。

少女や若い娘が。つつしみなく活発に行動すること、またそういう女性、

の意である(広辞苑)。

転婆、

という言葉もある。これは、

軽々しくてつつしみのない女、出しゃばりの女、

と少し「おてんば」より、意味の範囲が広くなる。さらに、男性も含めた、

そそっかしいこと、かるはずみなこと、またそういう人、

にもいう(仝上)、と意味の外延がさらに広がり、

親不孝なこと、またそういう人、

の意でも使う(仝上)。

「転婆」の表記は「書言字考節用集」にみえるが、この表記を男性に対して使用するのをはばかったのか、「天馬」という表記も見られる、

とあり(日本語源大辞典)、「転婆」が定着したのは、明治以降とみられる。

「おきゃん」http://ppnetwork.seesaa.net/article/433668195.htmlで触れたが、

蘭語 otembaar、

を語源とする(大言海)とし、

女の出過ぎたるもの。たしなみなき女。あばずれもの等々、

の意で、「てんば」は,

此語,古来,仏蘭西語なりと云ひ,又,顚婆なりと云ひ,又,天馬なりと云ひ,又傳播の意義の変転したるものなりと云ふが,皆あらず,蘭語にぞある、

とする(仝上)。しかし,蘭語説は,すこし疑わしい。

江戸語大辞典は、

蘭語説は非、

とするし、語源由来辞典は、

「おてんば」が18世紀中頃から使われているのに対して、18世紀初頭には「てんば」が使われているためオランダ語説は成り立たず、「てんば」に「お」がついたと考えるのが妥当である、

とする。日本語源大辞典も、

同様の意を表し得る「てんば」が既に近世前期にあるので、「てんば」を先行する語とみる方が自然であろう、

としている。江戸語大辞典は、

「お」は丁寧または軽侮の意を表す接頭語、

とするし、

てんばと同じ、

で、

江戸語としてはこの形がむしろ普通で、かつ女の身にいう、

とする。これは、

「書言字考節用集」に「女児所言」、「志不可起」に「女のしとやかになく、さわがしく、不行作なるをてんば女と云ふ」とあり、もとは女性を対象とした語であったが、男性に対しても使用された。「てんば」が上方語であるのに対して、江戸語ではお「てんば」といい、女性にだけ限定されている、

とある(日本語源大辞典)。

江戸語としては多く女にいうため、擬人名詞化して「お」を冠してもいう、

ともある(江戸語大辞典)ところをみると、上方で、

てんば、

が男性にも使われるのに対して、江戸では、

おてんば、

は、女性に限定していた、ということになる。いまも、「おてんば」は、女性に使う語感があるのはこのためかと思われる。

「おてんば」が「てんば」からきたことは明らかのように思えるのだが、意味の広がりからみると、ことはそう簡単ではないようだ。たとえば、

「大言海」はオランダ語 ontembaaar から「おてんば」が生まれたとする。しかし、同様の意味を表わしうる「てんば」が既に近世前期にあるので、「てんば」を先行する語とみる方が自然か。ただし、「てんば」は「おてんば」より広い意味を持ち、「しくじること」「親不孝で従順でないこと」などの意で、男女を問わず用いられ、現在でも西日本の各地にそれらが残っている。したがって、「てんば」に接頭語「お」を加えることによって「おてんば」になったと、単純にとらえることもできない。この点については、上方で用いられていた「てんば」が江戸語として使用されるに際し、オランダ語 ontembaaar が何らかの形で作用し、新語形「おてんば」を生じると同時に、意味の特定がなされたとの説もある、

とあり(日本国語大辞典)、蘭語説を一蹴しきれないのである。その意味で、

てんば→おてんば、

のみとは言えず、「おてんば」の語源は語源で、考える必要がなくもない。たとえば、

中世末期から近世にかけ、機敏なさまを「テバシ」や「テバシカイ」と言っていたため、この「テバ」が語源になり、「てばてば」や「お転婆」が生まれた(江戸東京語118話=杉本つとむ・語源由来辞典)、
女の子がでしゃばって足早に歩く様子をいうテバテバにオをつけて、オテバだなあといった言葉から(国語研究=金田一京助)、
オテンマ(御伝馬)から出た語。小荷駄馬と比べて御伝馬は飼養がよく楽をしているので、常に勢いよく跳ね回るところから(話の大事典=日置昌一・日本語源広辞典)、

等々からみると、古い、

テバシ、

テバシカイ、

の「テバ」の転訛というのは、ひとつ面白い気がする。これは、「転婆」の語源にもなりえる。

「てんば」については、

天馬からか(志不可起)、
「伝播」より出て、言いふらす義からでしゃばりの意に転じた(近松語彙=上田万年)、
「顛婆」で、ものぐるわしき婆(難波土産)、

等々しかなく、確かに、

「てんば」が何を語源とするかは判然とせず、

である(日本語源大辞典)。しかし、

テバシカイ、

は、室町末期の日葡辞書に、

物事を非常にてきぱきと行い、それと同時に敏捷である、

とあり、「西鶴織留」に、

此手はしき事、

とあるので、機敏なさまをいう、

テバシ、

テバシカイ、

とつながると見るのが、現時点では最も自然に思われる。

参考文献;
前田勇編『江戸語大辞典 新装版』(講談社)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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posted by Toshi at 04:40| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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