はやす
「はやす」は、
囃す、
と当てる。「囃」(ソウ)は、
会意兼形声。「口+音符雜(ゾウ まじえる)」、
で、
そばから合いの手をいれる、
音楽や舞の拍子を取る時の掛け声、
の意であり(漢字源)、
祇園囃子、
馬鹿囃子、
のように、
歌に合わせて調子を取る鳴り物、
歌なしで楽器のみにて奏する音楽、
の意の(字源)、いわ/ゆる、
おはやし、
の意で使うのは、我国だけのようである。
「はやす」は、
手を打ち鳴らしたり、囃子詞(はやしことば)を唱えたりして、歌舞の調子をとる(一人が歌い、一人がはやす)、
囃子を奏する(笛・太鼓ではやす)、
うまくさそって気分を起こさせる、調子にのせる(声にはやされて踊り出す)、
からかったり、冷やかしたり、ほめたりする言葉を大声で唱える、盛んにいう(いたずらっ子たちがはやす)、
株や商品の市場で、有望なものとして皆が取りざたする(建設株がはやされている)、
といった意味の幅を持つ(広辞苑・大辞林)。その語源は、
ハエ(映)の他動詞形。ハヤシ(早)・ハヤリ(流行)と同根、(前進の)勢いを激しくする意。他から光や音をそのものに加えて、その物が本来持っている美しさ・立派さ・勢いを輝かし、力あらしめる意、
とある(岩波古語辞典)。
栄やすの意、
とある(大言海)のは、この言葉が、
囃、助舞聲、
とある(玉篇)ように、漢字「囃」の原義と近いところの、
聲を出して歌曲の調べを助く、
声をかけて、鼓、笛の音を添えて栄えしむ、
という意味(大言海)から起こったのだということをうかがわせる。その意味では、
映ゆ、
栄ゆ、
と当てる「はゆ」が、
生ゆ(古語大辞典)、
や
晴る(大言海)、
に通ずるとされるように、
他からの光や力を受けて、そのものが本来持つ美しさ・立派さがはっきり表れる、
意であったものが、他動詞となって、
映えさせる、
側になったということになる。だから、名詞化されて、
はやすこと、
の意となった時、
囃、
囃子、
と当て、
能楽・歌舞伎・長唄・民俗芸能など各種の芸能で、拍子、をとり、または情緒をそえるために伴奏する音楽。笛・太鼓・鼓・三味線・鉦などの楽器を用いる(広辞苑)、
意となったのは当然だが、あるいは、
囃、
が本来の意味で、そこから動詞化したのかもしれない。だから、
ハヤシ(拍やし 拍子)、
を語源とするというのが、妥当かもしれない。「拍子」は、漢語の、
ビャクシの音便、
であり、
打楽器の間一種、木で作った釈のようなかたちのもの。二枚で打ち合わせ掌音を出す。神楽・催馬楽などで、歌を歌う人が、曲節の間でこれを打って調子を整える、
とある(岩波古語辞典)ので、まさに、
囃す、
役割である。
「囃子」は、
能楽は、大鼓・小鼓・太鼓・笛の四器で四拍子(シビョウシ)、
神楽囃子は、笛・太鼓を主とし、しばしば鉦を加える、
歌舞伎囃子は、能の小鼓、大鼓、太鼓の四拍子囃子が使われていたが、三味線の登場とともに、三味線が歌舞伎音楽の中心的地位を占める、
とある(岩波古語辞典・http://dev-enmokudb.co-site.jp/phraseology/phraseology_category/kabuki_no_ongaku)。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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