「こけら」は、
杮、
と当てる(広辞苑)。「かき」の、
柿、
とは別字である。「かき(柿)」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/455683625.html)で触れたように、
「柿(柹)」の字は,
「右側はもと市ではなく,つるの巻いた棒の上端を一印で示した字(音シ)。上の棒の意を含む。柿の元の字はそれに木を加えたもの。かきの皮を水につけ,その上澄みからしぶをとる。」
とある(漢字源)。これは,
「もともとカキという字は『柹』という風に書き、つくりの部分は『し』という音読みで、『一番上』という意味を持っている字です。カキは、皮を水につけて、その上澄みからしぶをとっていたためこの字になりました。そのあと、形が変化し、『柿』という字になったのです。これと似たようなものに『姉』があります。これも『あね』が一番上のため「姊」という字になり、「姉」に変化したんです。」
という説明がよくわかる(https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q10146565810)。ただ,「柹」の字については,『大言海』が,
「正しくは,杮なり,柹は俗字なり。然れども,市(イチ)にて通用す。」
としている。「柿」(シ かき)と「杮」(ハイ こけら)」の区別は,正直つかない。ただ、「杮(こけら)」(漢音ハイ、呉音ホ)の字は、
会意兼形声。「木」+音符「巿」。「巿(フツ:『市』とは別字、『朮』から、右肩点を除いた形が本来の字体)」は「肺」の旁に見られる文字で、左右に切り分けるの意、
であり、「柿(かき)」(漢音シ、呉音ジ)は、
会意兼形声。元の字体は「柹」、旁は、「姊(=姉)」などに見られる蔓の巻いた棒の上部を指したもので「上方の」「上位の」を意味する語。柿の皮を水につけ上澄みから渋を取ったことによるもの、
であり(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%9D%AE)、「柿(かき)」の「市」は、
「亠(なべぶた)」+「巾」で、「柿」は、九画、
で、
「柿(こけら)」の「市」は、
「市」で、八画、
であり、「柿(かき)」の、「市」は、「なべぶた」と巾の間に隙間があり、「柿(こけら)」は一本に通っている、という違いがある(https://eigobu.jp/magazine/kokera)。大言海も、
杮の旁の中の竪畫は、上下を貫けり、コケラブキをカキブキとも云ふは、果(くだもの)のカキの字と見誤りて讀むなり、
としている。
「こけら」は、
木屑、
とも当て(広辞苑)、
木材を削るとできる木の細片、また木材を細長く削り取った板、
の意で、
杮板(こけらいた)の略、
でも使う。大言海は、
コケは、木削(コケヅリ)の下略(弓削(ゆけづり)、ゆげ)、ラは、添えたる辞(苔(コケ)をコケラとも云ひ、鱗(コケラ)をコケとのみも云ふ)、
とし、本来は、
木材を、斧又手斧にて、削りて落ちたる細片、いまコバと云ふ、
それが転じて、
特に板屋を葺くのに用ゐる薄き板、大小、種々なり、檜、槙、椹(さはら)などの材にて、長方形に削り成す、長さ六七寸、又、尺余の者あり、幅三寸許、厚さ一分許、こけら板とも云ふ。そぎいた、くれ、こばいた、やねいた。此の板にて屋根を葺きたるを、こけら葺きといふ、
とする。他の、
「木の切屑」のことをコケラ(和名抄)というのはコギレ(木切れ)の転である。また、ケケラ(名義抄)というのはキギレ(木切れ)の点である(日本語の語源)、
コヘラ(木片)の義(言元梯)、
コケは細小の義、ラは助語(類聚名物考)、
コは木、ケラは削ラヌの意(和句解)、
等々、何れも意味は同じである。
削ぎ落す意味の動詞「こく(扱)」や、肉が削ぎ落ちた状態になる動詞「こく(痩)」と同源か。木の表面を削ぎ落したことでできる木片を指し、魚の表面を削ぎ落すことでできる「鱗(こけら)」も同語原、
とある(日本語源大辞典)し、また、
キ音(木・今・金・欣・勤・期・近)をコと発音する例は多い。コノミ(木の実)・コケラ(木切れ)・キコル(木伐る)・ココン(古今)・コンジョウ(今生)・コンゴウ(金剛)・ゴンク(欣求)・ゴンギョウ(勤行)・マツゴ(末期)・ムゴ(無期)・サイゴ(最期)・コノエ(近衛)、
とあり(日本語の語源)、i→oと母音交替することが多い(仝上)、
コギレ(木切れ)→コケラ、
か、
コケヅリ(木削り)→コケラ、
ということになる。
鱗(うろこ)を、
こけら、
と訓ませるのは、
こけら、
に似ているというより、
こけら葺きの形に似る、
というべきだろう(大言海)。「こけら葺き」は、
屋根を、こけらにて葺く、
意(仝上)で、
薄く短い板を重ねて葺く。曲線的な造形も可能で、優美な屋根をつくることができ、主に書院や客殿、高級武家屋敷などに用いられた。耐用年数は25年程度とされる。また、瓦葺の下地として用いられることもあり、土居葺あるいはトントン葺と呼ばれる、
とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%93%E3%81%91%E3%82%89%E8%91%BA)。
「こけらおとし」は、
新しい劇場・舞台ではじめて催される公演のこと、
を指すが、
「こけら」とは木材を加工した時に出てくる木くずのこと。劇場などの新築や改築工事の最後に、内外装の「こけら」を払い落とした(掃除した)、
ことから、完成後初めての興行を言うようになった(http://www.smile-labo.jp/article/15297536.html)。
また、「こけらずし」というのがあるが、
魚肉を飯に載ること、コケラ葺の如き意、飯を魚腹に籠めたる鮨に対する語、
とあり(大言海)、
薄く切った魚肉などを飯の上に並べた姿が、こけら板(屋根を葺くのに用いるスギやヒノキなどの薄い削り板)に似ていることから付いた名である、
ともある(語源由来辞典)ので、「飯鮨」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/475973752.html)に対して、飯の上にコケラのように並べたからいうものと思われるが、
魚腹に飯を詰めた丸鮨などに対して言う、
ともある(江戸語大辞典)ので、よく分からないが、
米に恵まれなかった南予の沿岸沿いの人達が、すし飯の代わりにおからを使い、酢でしめた魚を巻いて握ったもの、
を「丸ずし」といった、とある(https://www.pref.ehime.jp/nan53123/yawatahama-hc/hokenjo/resipi/04resipi03.html)のは、郷土料理化したもののようである。
参考文献;
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
ラベル:こけら