2020年11月12日
呉汁
「呉汁」というものがある。
豆汁、
とも当てる(広辞苑)。
水にひたして柔らかくした大豆をひいた「ご」(豆汁)を入れた味噌汁、
とある(仝上)。
醐汁、
とも当てるが、
呉汁、
も共に当て字である(たべもの語源辞典)。
「ご」は、
豆汁、
と当て、
水に浸した大豆をひきつぶして乳状にしたもの、
で、
豆油、
とも当て、
まめあぶ、
ともいい(デジタル大辞泉)、
豆腐の原料や染物または油絵の彩料に用いる、
とある(広辞苑)。中国でいう、
豆汁(とうじゅう)、
は、中国語で、
豆汁儿、
酸豆汁儿、
といい、
緑豆を煮てから、すりおろして作った豆乳を乳酸発酵させた、少し酸味のある飲料、
であり(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B1%86%E6%B1%81)、別のものである。で、
大豆を水に浸し、すりつぶしたペーストを、
ご(豆汁)、
といい、「ご(豆汁)」を味噌汁に入れたものを、
呉汁、
という(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%91%89%E6%B1%81)のだが、擂り潰した枝豆を入れた味噌汁は、
青呉汁、
あるいは
枝豆呉汁、
というのだそうである(仝上)。「ご(豆汁・豆油)」の語源は、
糊の義か(名語記)、
豆汁をいうコウ(膏)からか(袂草)、
コミヅ(濃水)の下略(鈴木棠三説)、
等々あるが、はっきりしないが、「濃い」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/478150705.html)は、古くは接頭語「こ」として、
濃、
と当て、接頭語として、
濃紫(こむらさき)、
濃酒(こさけ/こざけ)、
濃染(こぞめ)、
色や液汁の濃いことを示す(大言海・岩波古語辞典)。この「こ」(濃)はまた、「こ(凝)」と通じる。「濃い」の「こ」の転訛の可能性が高い気がする。
さて、「呉汁」は、
大豆を水につけて軟らかくなったら、擂鉢に入れてかきまわすと豆の表皮がむけるから水を加えて浮いた皮を流す。皮がなくなったら、さらによくすりつぶし、裏漉しにかけて、鍋に入れ、煮出汁を加えてのばす。具には蓮のごく若い葉をつまみ、塩ゆでにしたものを碗に盛っておく。ほうれん草でもよい。鍋の大豆汁に味噌を加えて汁をつくって碗に盛る、
とある(たべもの語源辞典)が、
秋に収穫された大豆が出回る秋から冬が旬で、呉汁に入れる大豆以外の具材は、人参、大根、牛蒡、玉葱等の根菜類、豆腐、厚揚げ、油揚げ等の大豆加工品、葱、芹、唐辛子等の薬味、芋がら、こんにゃく、椎茸、煮干し、鶏肉等で地域毎に様々である、
とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%91%89%E6%B1%81)。
擂り潰した大豆と野菜類が豊富に入った呉汁は栄養価が高く体が温まり、冬場の郷土料理として日本各地で昔から親しまれている(仝上)が、大豆を擂らずに、おからをそのまま使って、油揚げやネギを入れた味噌汁を作ることも多かった、という(仝上)。一説に、
厚木地方の農家で、大豆打ちをしたときにこぼれた豆が雨の降られてふくれているのを利用したのが起こり、
という(たべもの語源辞典)。しかし、各地にあるので、何処と地域は限定できまい。
「呉汁」に、
豉汁、
と当てる説もあるが、「豉」は、「納豆」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/473658590.html)で触れたように、
中国では、納豆を「鼓(し)」といった。これは後漢時代の文献に現れている。日本に伝わったのは古く平安時代の『和名鈔』に和名クキ(久喜)としてある。鼓をクキとよんだ。中国の鼓には、淡鼓、塩鼓がある。淡鼓が、日本の苞納豆(糸引き納豆)にあたり、塩鼓が日本の浜名納豆・寺納豆・大徳寺納豆の類である、
とあり(たべもの語源辞典)、「ご」とは別物である。
参考文献;
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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