「こんこんちき」は、
狐の異称、
だが、いまではほぼ使わない。
江戸時代には、「江戸ッ子」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/436936674.html)が、
大違いのこんこんちきさ、
とか、
あたりきしゃりきのこんこんちき、
とか、
合点承知のこんこんちき、
といったように、
他の語の下に着けて語彙を強調する語、
としても使われた(広辞苑)。また、「すっとこどっこい」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/478309931.html?1604691323)で触れた、
ばか囃子などの拍子を表わす語、
でもあった(大辞林・精選版日本国語大辞典)。
「こんこんちき」は、
こんこん(狐の鳴き声)+チキ(人)、
とする説もある(日本語源広辞典)が、
こんこんとこんちきの合成語、
とする説(江戸語大辞典)もある。「こんちき」は、
こんきちの下半を転倒した語、
で(仝上)、
彼(あ)の爺は野狐(こんちき)か古狸(ももんじ)のばけたのかもしれねへわい(安政四年(1857)「七偏人」)、
と使われている。
コンチキは、戯れか、語路滑らかならぬためか、吉(きち)を倒に云ふなり(變ちき、鈍ちき、高慢ちき)、
とする(大言海)。ただ、「トンチキ」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/478114763.html)で触れたように、「変ちき」「高慢ちき」の「ちき」は、「的」の転訛と見る方が妥当と思うが。
「こんきち」は、
狐吉、
とも当て(大言海)、
こんこん、
という狐の鳴き声から、擬人化したもの。
三浦屋の遊女吉野、度々子を産みしとて、子を易くたびたび生める故にこそこんきちさまとひとは云ふなり(寛文(1661~73)「吉原袖かがみ」)、
と使われる。
鳴聲を狐として、擬人したる語(石部金吉、膝吉、臑吉)、
とある(大言海)。「こんこん」は、
狐の鳴き声、
の他、
木質系を軽く打つ音、
軽い咳をする音、
雪のしきりに降る音、
という意もある擬音語であるが、咳の音や雪の音として使われるのは、近代になってからのようで、
かたいものを軽く続けて打ったときに出る音、
は、室町時代からみられる(擬音語・擬態語辞典)とあるが、
狐の鳴き声、
としての擬音は、古く、奈良時代からみられる(仝上)、とある。万葉集に、
さし鍋に湯沸かせこども櫟津(いちひつ)の檜橋(ひばし)より來む狐に浴(あ)むさむ、
という歌があり(長忌寸意吉麿(ながのいみきおきまろ))、
狐の声「こむ」に、「來(こ)む」(来るであろう)を掛けている、
とある(仝上)。狐の声、
こんこん、
は、しばしば、
來ん来ん(来よう来よう)、
に掛けて聞かれる(仝上)、とある。たとえば、
こんこんと言ひし詞の跡なきはさてさて我をふる狐かも(寛文一二年(1672)「後撰夷曲集」)、
といったように。
ただ、狐の声は、室町時代から江戸時代にかけては、
くわいくわい、
という別の聴き方があり、狂言では、
命を助けうほどに、くわいくわいと啼け(「寝代」)、
とあり、「こんこん」と「くわいくわい」を合体させた、
こんくわい、
と、「後悔」の意味を掛けた聴き方もあったらしい(仝上)。
参考文献;
山口仲美編『擬音語・擬態語辞典』(講談社学術文庫)
前田勇編『江戸語大辞典 新装版』(講談社)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
ラベル:こんこんちき