2020年11月14日

こんこんちき


「こんこんちき」は、

狐の異称、

だが、いまではほぼ使わない。

江戸時代には、「江戸ッ子」http://ppnetwork.seesaa.net/article/436936674.htmlが、

大違いのこんこんちきさ、
とか、
あたりきしゃりきのこんこんちき、
とか、
合点承知のこんこんちき、

といったように、

他の語の下に着けて語彙を強調する語、

としても使われた(広辞苑)。また、「すっとこどっこい」http://ppnetwork.seesaa.net/article/478309931.html?1604691323で触れた、

ばか囃子などの拍子を表わす語、

でもあった(大辞林・精選版日本国語大辞典)。

「こんこんちき」は、

こんこん(狐の鳴き声)+チキ(人)、

とする説もある(日本語源広辞典)が、

こんこんとこんちきの合成語、

とする説(江戸語大辞典)もある。「こんちき」は、

こんきちの下半を転倒した語、

で(仝上)、

彼(あ)の爺は野狐(こんちき)か古狸(ももんじ)のばけたのかもしれねへわい(安政四年(1857)「七偏人」)、

と使われている。

コンチキは、戯れか、語路滑らかならぬためか、吉(きち)を倒に云ふなり(變ちき、鈍ちき、高慢ちき)、

とする(大言海)。ただ、「トンチキ」http://ppnetwork.seesaa.net/article/478114763.htmlで触れたように、「変ちき」「高慢ちき」の「ちき」は、「的」の転訛と見る方が妥当と思うが。

「こんきち」は、

狐吉、

とも当て(大言海)、

こんこん、

という狐の鳴き声から、擬人化したもの。

三浦屋の遊女吉野、度々子を産みしとて、子を易くたびたび生める故にこそこんきちさまとひとは云ふなり(寛文(1661~73)「吉原袖かがみ」)、

と使われる。

鳴聲を狐として、擬人したる語(石部金吉、膝吉、臑吉)、

とある(大言海)。「こんこん」は、

狐の鳴き声、

の他、

木質系を軽く打つ音、
軽い咳をする音、
雪のしきりに降る音、

という意もある擬音語であるが、咳の音や雪の音として使われるのは、近代になってからのようで、

かたいものを軽く続けて打ったときに出る音、

は、室町時代からみられる(擬音語・擬態語辞典)とあるが、

狐の鳴き声、

としての擬音は、古く、奈良時代からみられる(仝上)、とある。万葉集に、

さし鍋に湯沸かせこども櫟津(いちひつ)の檜橋(ひばし)より來む狐に浴(あ)むさむ、

という歌があり(長忌寸意吉麿(ながのいみきおきまろ))、

狐の声「こむ」に、「來(こ)む」(来るであろう)を掛けている、

とある(仝上)。狐の声、

こんこん、

は、しばしば、

來ん来ん(来よう来よう)、

に掛けて聞かれる(仝上)、とある。たとえば、

こんこんと言ひし詞の跡なきはさてさて我をふる狐かも(寛文一二年(1672)「後撰夷曲集」)、

といったように。

ただ、狐の声は、室町時代から江戸時代にかけては、

くわいくわい、

という別の聴き方があり、狂言では、

命を助けうほどに、くわいくわいと啼け(「寝代」)、

とあり、「こんこん」と「くわいくわい」を合体させた、

こんくわい、

と、「後悔」の意味を掛けた聴き方もあったらしい(仝上)。

参考文献;
山口仲美編『擬音語・擬態語辞典』(講談社学術文庫)
前田勇編『江戸語大辞典 新装版』(講談社)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル:こんこんちき
posted by Toshi at 04:30| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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