「ごんすけ」は、
権助、
と当てる。
江戸時代、下男や飯炊き男などに多い名であったところから、
下男、
しもべ、
の意とされる(広辞苑)。
釈迦も孔子も於三(おさん)も権助も(浮世風呂)、
と使われる。「おさん」は、
御三、
御爨、
とも当て、
おさんどん、
とも呼ばれる、江戸語の、
飯炊き女、
女中、
下女、
を指し(仝上)、広く、
腰元や台所で働くむ下女、
を指す(日本語源大辞典)、由来は、貴族の邸の奥向きで、下婢(かひ)の居るところである、
御三の間の略、
とする説(大言海)と、かまどをいう、
御爨、
に掛けた洒落とする説(広辞苑・日本語源大辞典)等々があるが、何れも、「かまど」と関わるとみていい。「おさん」と「権助」が並んでいるところを見ると、「権助」は、確かに、
人名、
ではあるが、下男の代名詞のように使われている、とみていい。
下男・飯焚男の通名・異称(江戸語大辞典)、
元々「権助」という名前は個人名というより、地方出身の商家の使用人、特に飯炊きの総称で、職業名を示す普通名詞だった(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A8%A9%E5%8A%A9)、
等々とあるのは、そのためかと思われる。『権助芝居』『権助魚』『権助提灯』等々、江戸落語ではおなじみである。しかし、『隠語大辞典』には、
無宿浮浪ノ窃盗犯人、
浮浪窃盗犯を云ふ(関東)、
とあるので、余りいいイメージはなさそうである。ちなみに、
権七、
というのも、
下男・飯焚男の通名・異称、
である(江戸語大辞典)らしい。これは、少し転じて、
安っぽい男、
の意となり、後述の、
居候、
の意の、
権八、
に代えて使ったりする(寛文十二年(1672)風俗通「まだ居候の権七だ」)。
同じ「権」つく名でも、
権太、
となると、
わるもの、
ごろつき、
の代名詞であり、それが、
いたずらで手に負えない子供、
つまり、
腕白小僧、
にも使う。浄瑠璃「義経千本桜」の鮨屋の段の人物、
いがみの権太、
に由来するらしい。
(歌川国貞「いがみの権太」 https://ja.ukiyo-e.org/image/ritsumei/arcUP0127より)
食客を権八と云ふ例なり、
とある(大言海)。権八は、
白井権八、
で、
侠客幡随院長兵衛の家の食客だったところから、
居候、
食客、
の代名詞として使われている(広辞苑)。これも、歌舞伎「傾情吾嬬鑑」で演じられたことからきている(大言海)。
(三代目歌川豊国『東海道五十三次の内 川崎駅 白井権八』 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B9%B3%E4%BA%95%E6%A8%A9%E5%85%ABより)
それにしても、「権(權)」(漢音ケン、呉音ゴン)は、
はかり、
はかりごと、
の意で、
形声。雚(カン)が音をあらわし、元、木の名。しかし一般には棒ばかりのおもりの意に用い、バランスに影響する重さ、重さをになう力の意となる。バランスを取ってそろえる、
とあり(漢字源)、「権衡」と使われ、「権謀」とつかわれ「権力」と使われるが、別に、
形声文字です(木+雚)。「大地を覆う木」の象形(「木」の意味)と「2つの冠毛と両眼が強調された水鳥」の象形(「こうのとり」の意味だが、ここでは「援」に通じ(同じ読みを持つ「援」と同じ意味を持つようになって)、を意味する「権」という漢字が成り立ちました、
ともあり(https://okjiten.jp/kanji940.html)、
たすける、
という含意がある。仏教の「権化」「権現」等々とも使い、
かりの、
かりそめの、
という意味もある。そこから、
権中納言、
というような、
定員のほかに仮に任じた官位、
の意や、
権僧正、
というような、
最上位の次の地位、副(そえ)、
の意味がある。「権助」の「権」は、
仮名、
の含意がある。柴田勝家は、通称、
柴田権六、
といった。「通称」は、
仮名(けみょう)、
であり、
江戸時代以前に諱を呼称することを避けるため、便宜的に用いた名、
である(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BB%AE%E5%90%8D_(%E9%80%9A%E7%A7%B0))。「権助」「権太」「権八」は、下男、悪漢、居候の代名詞であった。「権」の字のもつ、まさに、仮に人間界に現われた菩薩を言う「権化」のような、
かりそめの名、
である。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95