2020年12月16日
粉
「粉」は、
こな、
と訓ませるが、
身を粉にする、
というように、
こ、
とも訓む。
「粉(こ)」は、
砕けてこまかくなったもの、
すりつぶした細かくしたもの、
という意で、
米の粉(コ)、
麦の粉(コ)、
石の粉(コ)、
等々と使う(大言海)。
「細かく砕く」という意のメタファ―か、
心身をひどく労する、
意もあり(岩波古語辞典)、
身体がくたくたになる、
意で、
粉(こ)にされる、
粉(こ)に成る、
という言い方もした(江戸語大辞典・広辞苑)。
「粉(こ)」の「細かく砕く」意の転化と思うが、
薬味、
や、
汁の実、
の意味が載る(広辞苑)。和名抄に、
粉、古(こ)、
と載るので、これが古形かと思う。「粉(こな)」が、
用いられるようになるのは近世から、
とある(日本語源大辞典)。
上代には、ア(足)、ハ(羽)など多くの一音節語が存在したが、語の不安定性、上代特殊仮名遣いの区別が失われるなどの音韻変化による同音衝突を避ける目的もあって、次第に、
ア(足)→アシ、
ハ(羽)→ハネ、
など、単音節語から複数音節語への交替現象が見られるようになった。この変化は、特に近世に盛んで、コもこのような変化の中で、コナと交替し始めた、
とある(日本語源大辞典)。しかし、「粉(コ)」と「粉(コナ)」とは、語源を異にするように思え、一般論では、
コはコ(小)の義から出た語。ナは無意義の接尾語(国語の語根とその分類=大島正健)、
という説があるように、
単音節語→複数音節語、
といえるかもしれないが、
コ→コナ、
は、別の由来のような気がする。
「粉(コ)」は、
小(コ)の義なるべし(和訓栞・大言海)、
なのに対し、「粉(コナ)」は、
熟(こなし)の語根(俚言集覧・大言海)、
こなす・こなるの語幹(江戸語大辞典)、
コ(細・小)+なす(為す)(日本語源広辞典)、
とする。つまり、「粉(コ)」から出た、
粉にする、
粉になす、
という言葉から派生したのではないか。これが、
こなす(熟)、
になり、
こな、
に転じた。「こなす」は、
粉(こ)になすが原義(岩波古語辞典)、
粉熟(な)すの義(大言海)、
とある。
粉になす・粉にする→こなす(熟)→こな(粉)、
という転訛である。
何やら粉名(こな)を入れ置きたる器を(文久三年(1863)七偏人)、
という使い方がある(江戸語大辞典)ので、
コナ(細名)の義(言元梯)、
もなくはなく、
粉になす・粉のなる→こなす(熟)→こな(粉名)→こな(粉)、
という転訛の経緯なのかもしれない。
この「こな」という使い方は、江戸の戯作に見られ、
コナは江戸語、
と意識されていた可能性もある(日本語源大辞典)という。しかし、
明治になっても、コが代表的形とされてきたが、現代では、コナが一般的になり、逆に、
小麦粉、
メリケン粉、
というように、複合語に「こ(粉)」が残り、
身を粉にする、
というような慣用句に残った。
なお、「こなす」については項を改める。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田勇編『江戸語大辞典 新装版』(講談社)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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