2020年12月17日

こなす


「こなす」は、

熟す、

と当てる。「粉」http://ppnetwork.seesaa.net/article/479033172.html?1608062156で触れたように、「こなす」は、

粉(こ)になすが原義(岩波古語辞典)、
粉熟(な)すの義(大言海)、
コ(細・小)+なす(為す)(日本語源広辞典)、

とある。つまり、

粉にする、

義である。それとかかわって、自動詞、

こなる(熟)、

あるいは、

こねる、

という言葉もある。「こなる」は、

粉熟(な)るの義、

で(大言海)、いまは、

こなれる(熟)、

といういい方をする(広辞苑)。「こねる(捏ねる)」は、

粉練る、

で、

粉(こ)成す、
粉(こ)熟(な)れる、

と同趣とある(大言海)。いずれも、「粉(こ)」から出ている。

さて、「こなす」は、従って、

粉にする、

つまり、

砕いて細かくする、

意で、室町末期の日葡辞書にも、

ツチヲコナス、

と載り、

熟田(コナダ 熟(こな)し田)、

というように、

土を掘り起こして、砕き熟(な)らす、

意に使う(大言海)。それをメタファに、

消化する、

意でも使うが、

数ヵ国語をこなす、

というように、

意のままに扱い馴らす、
思うままに扱う、

意でも、

ノルマをこなす、
仕事をこなす、

というように、

処理する、
仕事を済ませる、

意でも使う(広辞苑・大言海)。それとつながるが、

使いこなす、
乗りこなす、

というように、

動詞について、その動詞を要領よくうまくする意を添え、

うまく~する、
完全に~する、

意でも使う(広辞苑・デジタル大辞泉)。その、

思うままにする、

意が、

大敵の西夏をこなさんと(四河入海)、

というように、

思うままに処分する、
征服する、

意にもなり、

あんまりこなした仕打ちだ(梅暦)、

のように、

見下す、
軽蔑する、

意にも使う。悪意に使われると、

他宗をこなし貶めんと思へり(御文章)、

というようにも使う(岩波古語辞典)。

砕いて粉にする、

は、

圧し潰す、

に通じるからだろう。

粉にする、

というただの状態表現であった言葉が、価値表現へと転じ、遂には、感情表現にまで収斂したことになる。これは、名詞化し、

こなし、

となると、

こなすこと、
自分の思うままに取り扱うこと、

という意の他に、

とりなし。男女ともに、よく取り入りて、心のままに引く貌(かたち)を言ふに通ふ詞也(色道大鏡)、

と、

物のとりなし、その場の適当な振舞い、

の意で使われ(岩波古語辞典)、この振舞いの言葉が、歌舞伎用語「こなし」で、

台詞によらず主として動作で心理を表現する、

と特定した意味で使われる(江戸語大辞典)。

「思入れ」に似るが、顔の表情よりも身ぶりが主となる点で異なり、しぐさに重なる、

とあり(仝上)、

墾(こなし)、その場合相応の仕打、銘々の振りにてするをいふ也(天保十四年(1843)「伝奇作書」)、

とか(仝上)。「開墾」の「墾」を、「こなし」に当てているところは、なかなか含蓄がある。ちなみに、歌舞伎用語の「思入れ」は、

台詞によらず体の動きや顔の表情で心理を表現する演技、

とあり、作者は、ト書きで、

台詞の間で思入れを指定する場合は〇の符号を用いる、

とある(仝上)。また台詞のある場合は、

思入にて言ふ、

と指定する(仝上)、とある。

名詞「こなし」にも、

けなすこと、
ひどくやっつけること、

の意があり、今日でも、

頭(あたま)ごなし、

といういい方が残っている。これは、かつては、

頭(あたま)くだし、
頭(あたま)おろし、
頭(あたま)へし、

ともいい(大言海・江戸語大辞典)、

相手の言い分を聞かず最初から押さえつける、

意である。「へす」は、

圧(へ)し潰す、

意で(大言海)、「頭」は、

最初、

の意である(江戸語大辞典・日本語源広辞典・大言海)。ただ、「あたまくだし」は、

頭から水を浴びせかける、

意の他に、

歌を初句からなだらかに詠み下す、

意がある。その他に、

他人の言うことの理非も考えず最初から圧しつぶすこと、

の意がある。あるいは、「あたまくだし」は、前二者と、後者とは、意味が距り、由来を異にする言葉なのかもしれない。

「熟」(漢音ジュク・ズク、呉音シュク)は、

会意。享は、郭の字の左側で、南北に通じた城郭の形。突き通る意を含む。熟の左上は、享の下部に羊を加えた会意文字で、羊肉に芯を通すことを示す。熟は丸(人が手で動作するさま。動詞の記号)と火を加えた字で、芯にとおるまで柔らかく煮ること、

とある(漢字源)。これでは、少しわかりにくい、別に、漢字源の説を含めて、

会意形声。「火」+音符「孰」、「孰」は「享」+「丸(←丮)」の会意。「享(古体:亯)」は「郭」の原字で、城郭の象形、「丮」は、両手で工事するさま。「孰」は城郭に付属して建物を意味していたが、音を仮借し、「いずれ、だれ」の意に用いるようになったため、元の意は「土」を付し「塾」に引き継がれた。古体は「𦏧」であり、「羊」が加えられており食物に関連。「享」が献上物をとおして、「饗」と通じていたことから、饗応のための食物をよく煮る意となったか。藤堂明保(漢字源)は、「享」に関して、城郭を突き抜けるさまに似る金文の形態及び「亨」の意義などから、城郭を「すらりと通る」ことを原義としていることから、熱をよく通すことと解している。なお、「亨」に「火」を加えた「烹」も「煮(にる)」の意を有する、

と解説しているhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%86%9F。意味としては、「うれる」「なれる」の意で、

熟す、

といういい方だと、

成熟、
精熟、
熟練、

といったように、和語「こなす(熟)」と意味が重なる。和語の方は、けなす意味へとシフトしているが、当初、「こなす」に、「熟」という字を当てた見識に敬服する。

なお、「こなし」http://ppnetwork.seesaa.net/article/442172647.htmlは触れたことがある。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田勇編『江戸語大辞典 新装版』(講談社)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル:こなす こなし
posted by Toshi at 04:49| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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