「千疋飯(せんびきめし)」というのがある。
縮緬雑魚(ちりめんざこ)の炊き込みご飯、
をいう。
「ちりめんじゃこ」は、
縮緬雑魚(ちりめんざこ)の転訛、
イワシ類(カタクチイワシ・マイワシ・ウルメイワシ・シロウオ・イカナゴなど)の仔稚魚(シラス)を食塩水で煮た後、天日などで干した食品、
だが、
収量が多く、油分の少ないカタクチイワシの仔魚が用いられることが多い、
とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%A1%E3%82%8A%E3%82%81%E3%82%93%E3%81%98%E3%82%83%E3%81%93)。
ごく小さな魚を平らに広げて干した様子が、細かなしわをもつ絹織物のちりめん(縮緬)を広げたように見えることからこの名前がついた、
ようである(仝上・日本語源大辞典)。
白縮緬のしわのように見える、
のが理由である。「縮緬」とは、
縦糸にはほとんど撚り(より)のない糸を使い、横糸に強い撚りをかけた右より(右回りにねじる)と左より(左回りにねじる)の糸を交互に織ったものである。そのため精練すると布が縮み生地の表面にシボ(凹凸)が現れる、
もので(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%A1%E3%82%8A%E3%82%81%E3%82%93)、
布面に細かな縐(しじら)縮み
がある(日本語源大辞典)。
ちりめんぼし、
とも呼ばれる。「千疋」とは、
たたみいわし、
のことで、
カタクチイワシの稚魚(シラス)を洗い、生のままあるいは一度ゆでてから、(海苔をすくように)葭簀(よしず)や木枠に貼った目の細かい網で漉いて天日干しし、薄い板状(網状)に加工した食品、
である(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%9F%E3%81%9F%E3%81%BF%E3%81%84%E3%82%8F%E3%81%97・たべもの語源辞典)。「かたくちいわし」は、
別に、
ひしこ、
とも言うが、海苔のように抄(す)いて簀子(すのこ)に並べた様が、
小さい魚が千疋もいるように見える、
ので、
千疋、
と呼んだ(たべもの語源辞典)、という。「たたみいわし」は、俗に、
白子(シラス)、
といい、江戸では、
白子干(しらすぼ)し、
とも呼んだ。
ということで、
千疋飯、
というと、「たたみいわし」ということになるが、
たたみいわし、
と
ちりめんざこ、
の差は、
生干し、
か、
煮干し、
の違いになる。しかし、一匹ずつばらばらになった
ちりめんざこ、
のほうが飯に良く混ぜ合せることができる(たべもの語源辞典)。この飯を、
茶碗に盛って、かけ汁をかけ、おろし大根、ネギの小口切、唐辛子など好みの加薬を用いて食べる、
とある(仝上)。
「千疋飯」と「疋」を使うのは、「疋」を、
布帛、絹織物の長さの単位、
として使い、
古くは四丈、令制では、小尺で五丈一尺、または五丈二尺(幅二尺二寸)、現在は鯨尺で六丈(約22.8メートル)で、幅九寸五分が標準、
とある(日本語源大辞典)ためかと思われる。
(疋(小篆) https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%96%8Bより)
ちなみに「疋」(①漢音ソ、呉音ショ、②慣用ヒキ、漢音ヒツ、呉音ヒチ、③漢音ガ、呉音ゲ)は、
象形、足の形をえがいたもので、足の字と逆になった形で、左右あい対した足のこと。また左右一対で組をなすので、匹(ヒツ 二つで一組)に当ててヒツという音をあらわし、日本では、ヒキと誤読した。また正と混同して、正雅の雅をあらわす略字として転用された、
とあり(漢字源)、
動物を数える単位、
のほか、
織物を数える単位、
であり、
布二反のこと、
である。また、わが国だけの用例であるが、銭を数えるのに使った。「疋」は、
鳥目(ちょうもく 錢)十文の称、
である(大言海)。
百文を十疋とし、百疋を一貫文、
これが江戸時代は、銀貨一分に当たる。『奇異雑談集』『貞丈雑記』などによると、
1疋=10銭(文)とされたのは犬追物に使う犬1疋(匹)の値段が10銭(文)だったから、
という(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%96%8B・大言海)。
「疋」は、
ピキ、
ビキ、
と動物を数えるが、
ヒキ、
と訓ませるほかに、
くれはどりといふ綾をふたむら包みてつかはしける(後撰・詞書)、
というように、
ムラ、
と訓ませて、
巻いた織物を数える、
のに用いる。で、
千疋、
は、
ちむら、
と訓ませ、
布帛千巻き、
を指し、
たくさんの布帛、
の意であり、
せんびき、
とも呼ぶ(精選版日本国語大辞典)。
千疋飯、
の「千疋」は、あるいは、
たたみいわし、
を指している(たべもの語源辞典)のではなく、
千疋(ちむら)、
からきているのではあるまいか。「千疋」には沢山の意があり、
千疋猿(せんびきざる)、
というと、
くくり猿(布に綿を入れて作った猿のぬいぐるみ)を多くの糸で連ねたもの。女児の災難除けや芸能の上達などを祈る、
ものがある(広辞苑)。
(住吉大社の千疋猿 http://www.sumiyoshitaisha.net/charm/ema.htmlより)
なお、「いわし」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/460405863.html)については触れた。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
ラベル:千疋飯