「引出物(ひきでもの)」は、
饗宴の時、主人から来客へ贈るもの、
の意で、
古く馬を庭に引き出して贈ったことから起こり、後には武具を贈った、
とある(広辞苑)。「引出物」は、
古くからの習俗であるが、《江家次第》の大臣家大饗に〈引出物 馬各二疋〉とあるように、平安中期以降の貴族たちの大饗に当たっては、ふつう馬が引き進められたが、鷹や犬、あるいは衣類も用いられている。武家の場合、源頼朝が1184年(元暦1)平頼盛を招待したとき、刀剣、砂金、馬を贈っており、刀などの武具がこれに加わる。こうした引出物とされた物からみて、この行為は本来、みずからの分身ともいうべき動物、物品を贈ることによって、共食により強められた人と人との関係を、さらに長く保とうとしたものと思われる、
とある(世界大百科事典)。後代は、
引出物の名のもとに馬代(うましろ)として金品を贈るのが普通、
になり(日本語源大辞典)、現在は、
鰹節、砂糖など饗応の膳に添える土産物、
更に広く、
招待客への土産物、
をいう。
結婚式など慶事に限らず、法事のお返しにも引出物という言い方をするが、結婚式引出物も、もともとは、
結婚披露宴に供された料理の一部を披露宴出席者の家族へのお土産として持ち帰ってもらうもの、
であった(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BC%95%E5%87%BA%E7%89%A9)。
「引出物」は、別に、
ひきいでもの、
かづけもの、
禄、
はな、
祝儀、
纏頭、
膳羞、
等々ともいう(大言海)、とある。「かづけもの」は、
被物、
と当て、
功を賞し、労をねきらふに賜う物、
で(大言海)、
禄、
ともいう。「禄」は、
封禄、
の給金の意の他に、
当座の褒美(かづけもの)として賜る物、
の意である(仝上・広辞苑)。
「膳羞」(ぜんしゅう)は、
「羞」は料理を勧める意で、料理。ごちそう、
の意(広辞苑)だが、
ひきでもの、
の意もある(大言海)。「纏頭」(てんとう・てんどう)は、
祝儀、はな、心づけ、
の意だが、
歌舞・演芸などをした者に、ほうびとして堪えるもの、もとは衣服を脱いで、その頭に纏わせた、
かずけもの、
ともいう(広辞苑・大言海)。
いま多くは、金銭なり、
とある(大言海)。「はな」は、
花、
華、
と当て、
かづけもの、
の意だが、
古へ、贈物には、草木の花枝をつけてやりしに起こり、転じて人に与ふる金銭などの称、
とあり(大言海)、
技芸を奏せる者に、当座の賞に与ふるもの、元は真に花を与えたり、後には専ら衣服、金銭となる、
とある(仝上)ので、
纏頭、
と同義であり、
芸者の揚げ代、
花代、
の意でもある(広辞苑)。ただ、
引出物の転、
ともされるが、
引き添ふるまでの意、
ともある(大言海)。
「引出物」は、また、
引物(ひきもの)、
とも言うが、
特に、膳に添えて出す肴やお菓子類、客の携へ帰るに供ふ、
をいう(岩波古語辞典・大言海)、とある。ただ「引物」は、
引出物の転、
ともされるが、
引き添ふるまでの意、
ともある(大言海)ので、本来の「引出物」の意味とは変わって、
饗宴の膳に添える物品、
を指すようになってからの用語に思われる。もともとは、「引出物」は、
ひきいでもの、
と訓んでいた。それが、
ひきでもの、
に転訛した。だから、
ヒキイデモノ→ヒキデモノ→ヒキモノ、
と転化したものと思われる(たべもの語源辞典)。ただ、『今川大双紙』に、
武家の間では、引出物は五献と定め、征矢、鞍鎧、太刀、小袖、馬とした、
とあり、この流儀が食膳にも及び、
1の膳 (本膳)、2、3、4(与)、5の膳というように、客がその席で食べられずに持帰るものをも予想した引出物の膳も備えた、
ともあり(ブリタニカ国際大百科事典)、「懐石料理」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/471009134.html)で触れたように、
室町時代に主従関係を確認する杯を交わすため室町将軍や主君を家臣が自邸に招く『御成』が盛んになり本膳料理が確立した、
というような、武家の習わしが料理にも確立する中で「引物」へと変化していったもののようである。
(本膳料理 三汁七菜膳組 http://hac.cside.com/manner/6shou/14setu.htmlより)
その場合も、「本膳料理」で、
客に膳を出すとき、本膳、二の膳、三の膳から焼物膳の次に引物をすすめた。焼物膳は本膳と二の膳の間の向こう右に、引物台は本膳と三の膳の向こう左に置いた。下げるときに、台も一緒に引くので「台引」ともいう。ほとんど客はこれに箸をつけず、みやげ料理となった(たべもの語源辞典)、
とする説と、前出のように、
客の膳部に別に添える菓子などの類、
なので、
引き添える物、
から来たとする説(仝上)とがある。いずれにしても、「引出物」は、
饗宴のみやげ、
に変わっている。「引物」には、
焼物・鴫・酢うなぎ・蒸貝・焼鮎・伊勢海老・蒲鉾・煮蒲鉾・いり鳥・つぐみ・千甘鯛、
等々があると料理書には載る(仝上)という。
参考文献;
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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