「濫觴」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/469150181.html)と同義の「嚆矢(こうし)」は、
鏑矢(かぶらや)、
鳴箭(めいせん)、
の意である。
矢の先端付近の鏃の根元に位置するように鏑(かぶら)が取り付けられた矢のこと。射放つと音響が生じることから戦場における合図として、合戦開始等の通知に用いられた、
もので(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%8F%91%E7%9F%A2)、
古く中国で開戦のしるしに『かぶらや』を敵陣に向けて射掛けた、
ことから、
始まり、
の意で用いる。「嚆」(漢音コウ、呉音キョウ)は、
形声。『口+音符蒿(コウ)』で、うなる音を表す擬声語、
で(漢字源)、
矢のうなる音、
そのものを指す。出典は『荘子』在宥(ざいゆう)、
焉知曾(曾參)史(史鰌)之不為桀(夏桀王)跖(盗跖)嚆矢也、故曰、絶聖棄知、而天下大治(在宥篇)、
で初めて、「始まり」の意で使われたとされる。「賢者として知られた曾子や史鰌(しちゅう)も、極悪人として有名な桀王や盗賊団の主領の盗跖(とうせき)も『嚆矢』ではなかった、とだれに言えるだろうか」と、こざかしい知恵を振り回すことが世の中の乱れの原因だと嘆いている(故事成語を知る辞典)。
(鏑矢 精選版日本国語大辞典より)
「鏑」(漢音テキ、呉音チャク)は、
会意兼形声。「金+音符適(テキ まっすぐに行く)の略体」。まっすぐにとがったやじり、
とある(仝上)が、「鏑」は、
かぶら、
と訓ませ、
木・竹の根または角で蕪(かぶら)の形に作り、中を空にし、数個の孔を穿って矢につけるもの、
の意で、多く、
雁股(かりまた)、
を用いる。「雁股」は、
狩股、
とも当て、
先が叉(また)の形に開き、その内側に刃のある鏃。飛ぶ鳥や走っている獣の足を射切るのに用いる、
とある(精選版日本国語大辞典・広辞苑)。
(雁股 精選版日本国語大辞典より)
「鏑」は、
大きさは全長で5cm前後から20cm前後まで大小様々で、円筒形、円錐形、或は紡錘形を基本とし、詳細な形状は一様ではない。矢への取り付けは基部から先端まで矢箆(やの 矢柄)を貫通させ、先端から鏃を挿して固定する。中身が刳り貫かれており中空構造になっており、通常は割れが生じないよう数カ所糸で巻き締め固定し、仕上げに漆で塗り固めてある。材質は朴や桐など軽量で加工性の良い木材、かつては鹿角や竹根も用いられた、
とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%8F%91%E7%9F%A2)。
「鏑」を、矢柄(やがら)の先の鏃につけるが、鏃につけた矢を、
鏑矢、
また
鳴鏑矢(なりかぶら)、
というが、「鏑」のみで、
かぶらや、
の意を持ち、
中を空にし、いくつか穴をあけた蕪(かぶら)の形をした球を屋の先につけ、その先に雁股(かりまた)をつけた矢。射ると、かぶらの穴に空気が入って響きを発する、
とある(仝上)。
紀の国の昔弓雄の鳴矢もち鹿取り靡けし坂の上にぞある、
と万葉集にあるように、
なりや(鳴箭、鳴矢、響矢)、
鳴鏑(めいてき)、
ともいう(広辞苑)が、
飛鏑、
峰鏑、
とも言う(字源)。匈奴傳に、
作為鳴鏑、
と載る(仝上)。大言海は、
鳴かぶら、
というのが正しい、とする。
「鏑矢」は、戦場における合図として合戦開始等の通知や、騎馬民族の信号用に用いられたが、
遊牧国家匈奴を大帝国に発展させた冒頓単于が、親衛隊に冒頓の射る鏑矢の向けられた先を一斉に射るよう厳命し訓練をほどこし、クーデターに成功した、
と史記にある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%8F%91%E7%9F%A2)。日本では、古墳時代中期以降に現れ、『古事記』『万葉集』に「比米加夫良」「鳴鏑」の名がみえ(ブリタニカ国際大百科事典)、鎌倉時代にも記述が見られる(保元物語)が、初期の頃は名称も定まっておらず起源、いつ頃から使われていたのかは解っていない、とある(仝上)。
「鏑矢」は、
中世は鏑矢を一手(ひとて)を征矢(そや)などの普通の矢と共に箙(えびら)に盛り上差矢(うわざしや)とするのが作法であった。現在では流鏑馬など故実の祭礼式などで使用され、また飾り矢として邪を払う縁起の良いものとして親しまれている、
とある(仝上)。「征矢」は、
征箭、
とも当て、戦闘で用いる矢を意味し、狩り矢・的矢などに対していう、とある(広辞苑)。
流鏑馬(鏑流馬、やぶさめ)は、
疾走する馬上から的に鏑矢(かぶらや)を射る、日本の伝統的な騎射の技術・稽古・儀式のことを言う。馬を馳せながら矢を射ることから、「矢馳せ馬(やばせうま)」と呼ばれ、時代が下るにつれて「やぶさめ」と呼ばれるようになったといわれる、
とあり(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B5%81%E9%8F%91%E9%A6%AC)、鎌倉時代、流鏑馬、犬追物(いぬおうもの)と並んで「騎射三物(きしゃみつもの)」と称されたものに、
笠懸(かさがけ)、
がある。これは、やはり、
疾走する馬上から的に鏑矢(かぶらや)を放ち的を射る、日本の伝統的な騎射の技術・稽古・儀式・様式のこと。流鏑馬と比較して笠懸はより実戦的で標的も多彩であるため技術的な難易度が高いが、格式としては流鏑馬より略式となり、余興的意味合いが強い、
とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AC%A0%E6%87%B8)。
(「男衾三郎絵詞」笠懸の場面https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AC%A0%E6%87%B8より)
なお、「鏑矢」の「鏑」の他に、
蟇目(ひきめ 引目)、
神頭(じんとう 矢頭)、
があり、それぞれ、
蟇目矢(ひきめや)、
神頭矢(じんとうや)、
があり(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%8F%91%E7%9F%A2)、
笠懸(かさがけ)や犬追物(いぬおうもの)には、鏃(やじり)をつけない鏑の一種である蟇目(ひきめ)(引目)を用いた、
とある(日本大百科全書)。
なお、「鏑」の語源とかった「かぶら」は、古名「すずな」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/465179244.html)で触れたように、
蕪菁、
蕪、
と当てる。「かぶら」は、
かぶらな(蕪菜)の略、
とされる。「かぶらな」は、
根莖菜(カブラナ)の義、
とあり(大言海)、「かぶら」は、
根莖、
と当て、
カブは、頭の義。植物は根を頭とす、ラは意なき辞、
とする(大言海)。「かぶ」は、
カブ(頭・株)と同根、
とする(岩波古語辞典)と重なる。「かぶ」と「かぶら」のつかいわけは、
「かぶら」の女房詞「おかぶ」から変化した語か。類例に「なすび」の女房詞「おなす」から「なす」が出来た例がある、
とある(日本語源大辞典)ので、
かぶらな→かぶら→おかぶ→かぶ、
と、転化してきたものらしい。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95