2021年01月06日
滝川
「滝(瀧)川」というのは、
瀧津瀬(たきつせ)、
と同じ(大言海)で、
谷川など、はげしく流れる川、
急流、
で、
滝つ川、
ともいう。
ただ、「滝つ瀬」は、
水の激しく流れる瀬、
の意(岩波古語辞典)もあり、
急湍(きゅうたん)、
急灘(きゅうだん)、
早瀬、
と重なり、「滝つ瀬」は、
滝、
の意も持つ。奈良時代は、
タギツセ、
と濁った(広辞苑)のは、
タキツはもとタギツとにごり、動詞「たぎつ」(滾・激)の連体形であったが、平安時代以後タキツとすみ、タキを滝、ツを助詞とみるようになった、
という理由からである(岩波古語辞典)。だから、本来「滝つ瀬」は、
急流の意であったのに、
滝の中に滾りて落つるところ、
の意となり(大言海)、
滝、
そのものの意となっていく。「だぎつ」の「つ」のはずが、
滝+つ、
と変じたのと重なる。「たぎつ(滾・激)」は、
泊瀬川(はつせがは)白木綿花(しらゆふはな)に落ちたぎつ瀬をさやけみと見に来し吾を(万葉集)、
と詠われるように、
水が激しく沸き返る、
意で、名詞「たぎち」は、
激流、
の意である。しかし、「たき」自体が、もともと、
水が湧きたち激しく流れるところ、
の意と、
高い崖から流れ落ちる水、
の両義をもち、
たぎつ(滾つ)・タギル(滾る)のタギと同根。奈良時代はタギと濁音であったろう、
とある(岩波古語辞典)。となると、
たぎつ→たきつせ→滝、
とは限らず、
上代、動詞「たぎつ」の語幹に「滝」を当てているものがあり、あるいは「き」が清音であった、
かもしれず、そうなると、
滝の活用(大言海)、
という可能性もある。ただ、古代、「滝」は、
垂水(たるみ)、
と言った。あるいは激しい滝と緩やかな滝とを、「滝」と「垂水」で使い分けたか、と思いたくなるが、
命の幸(さき)くあらむと石ばしる垂水の水を結び飲みつ(万葉集)、
という歌をみると、そういう区別はない。
み吉野の滝の白波知らねども語りし継げばいにしへ思ほゆ(万葉集)、
皆人の命も我れもみ吉野の滝の常磐の常ならぬかも(万葉集)、
山高み白木綿花におちたぎつ瀧の河内は見れど飽かぬかも(万葉集)、
等々と、この「滝(たぎ)」は濁る。やはり、「たぎる」から「たき」へ転じたとみていいようである。「垂水」と「滝」を使い分けていたのだとすると、「滝」には急流の含意がつきまとっている気配である。
「滝」の、
急流、
と
滝、
の両義は、「滝(瀧)」(ロウ)自体が、
会意兼形声。「水+音符龍(太い筒型をなす、龍)」、
で、
龍のような形をした急流、早瀬、
と
高い所から長い筋をなして流れ落ちる水、滝、
の二義をもつことも反映しているかもしれない。
ところで、その「滝川」に因んで、
滝川豆腐(たきがわどうふ)、
というものがある。
豆腐に寒天・ゼラチンを入れて冷まし、凝固させてから切ってトコロテン突きにいれて押し出すか、庖丁で千切りにしたもの、
という(たべもの語源辞典)。
この料理を器にもったところが、滝川のようにみえるところから、
とある(仝上)が、「滝川」の語意を辿ってみると、
滝川、
というより清流に見えてしまう。
参考文献;
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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