「ナマコ」は、
海鼠、
と当てるが、
生子、
奈麻(万、末)古、
とも当てたりし(日本大百科全書)、
タワラゴ(俵子)、
タワラ、
等々とも言い、上方では、
トラゴ、
ともいった(たべもの語源辞典)。漢名では、
沙噀(さそん)、
沙蒜(ささん)、
塗筍(どじゅん)、
等々とあり(仝上)、また、ケンペル『日本誌』では、
土肉、
を、
なまこ、
と訓ませている(https://sekiei.nichibun.ac.jp/GAI/ja/detail/?gid=GF024017&hid=4085)。
(土肉 ケンペル『日本誌』 https://sekiei.nichibun.ac.jp/GAI/ja/detail/?gid=GF024017&hid=4085より)
中国語でナマコを指す、
「海参(ハイシェン)」は、その強壮作用から「海の人参(御種人参)」との意味でつけられた名前である、
ともある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8A%E3%83%9E%E3%82%B3)。
「このわた」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/479417966.html?1610050202)で触れたように、古くはふるくは、和名抄に、
海鼠、古(コ)、似蛭而大者也、
とあるように、
こ(海鼠)、
と呼ばれた。「こ」の語源は、
凝るの語根にもあらむか、體、凝れるが如し(大言海・名言通)、
小を意味する原語コからの転義で、コ(蚕)に似ているところから(日本古語大辞典=松岡静雄)、
の説がある。是非を判断する手立てはないが、
こ(蚕)、
は、
子(コ)、卵(コ)の転義、
とある(岩波古語辞典)。
桑子(くはこ)のコならむ。家にて養ふに因りて、常に、養蠶(カヒコ)と云ふなり、
ともある(大言海)。「かいこ」は、
たらちねの母がかふこ(蚕)の繭隠(まよこも)り隠れる妹を見むよしもがも(万葉集)、
とも詠われるほど古い。確かに、「蚕」に似ていなくもない。となると「小」ではないだろう。
「ナマコ」は、
円筒状で左右対称の体形をした無脊椎動物で、日本近海には約200種が生息する。主に食用になるのはマナマコで、体表の色からアカナマコ、アオナマコ、クロナマコの3種に区別される。アカナマコは国内の生食向けに1キロあたり500~1千円程度で取引される。アオナマコ、クロナマコの乾燥品は高級食材として主に香港や中国に輸出される、
とある(朝日新聞掲載「キーワード」)。生食が中心の日本に対し、中国では乾燥させた干しナマコとして利用するのが一般的だからである。
日本人とナマコの関わりは古く、『古事記』に、
海鼠(コ)、
と載る。『養老律令』賦役令及び『延喜式』にも諸国からの貢納品として挙げられ、『和名類聚抄』には「老海鼠」「虎海鼠」などと載る。江戸時代の『本朝食鑑』には、その形がネズミに似ていることから「鼠」の字が用いられたといい、江戸時代には米俵に似ているということで豊作に通じた縁起物として正月の雑煮の具(上置)に用いられた、長崎貿易においては「俵物」として清などに輸出された、
とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8A%E3%83%9E%E3%82%B3)。
「ナマコ」の語源は、
乾海鼠(ほしこ)、熬海鼠(いりこ)などに対して、生(なま)なるを、ナマコと云ひて、通名とす、
というのが通説である(大言海)が、
再生力が強く、体を切っても時間が経つと元へ戻ることから、「生き返る」という意味の「生」(語源由来辞典)、
と、再生力から「生」というとする説もある。その他、
ヌメリコ(滑凝)の義(日本語原学=林甕臣)、
ナメリ(滑)コの義(滑稽雑誌所引和訓義解)、
と、その特徴からとする説がある。たべもの語源辞典は、
生だからナマコだという説は間違っている。生きていることが特色ではない。名称は、それ自体の特色を見てつけるもので、ヌラヌラとしたなめらかなもの、ナメリコ(滑りこ)が略されてナマコになったのである、
とする。しかし、その形態は、
体は筒形で、腹面が平たくて背面の盛り上がったかまぼこ形のものが多いが、背腹の区別のないものもある。口の周りにはふさふさした触手が何本もある。腹面には小さいいぼのような管足が無数にある。管足は縦に3対列をなして並ぶことが多いが、背腹の区別のないものでは、体の周りに5対列をなして並ぶ。管足がまったくないものもある。体表は粘液でぬるぬるしていて、皮革のような手ざわりのものや、ぶよぶよした柔らかいものもあり、また滑らかなものも、ざらざらして手に吸い付くような感じのものもある。皮膚の中には顕微鏡的な小骨片が無数に埋もれている。骨片の形は櫓(やぐら)、錨(いかり)、車輪などに似ていて、ナマコを分類するときの標徴とされる
とあり(日本大百科全書)、一概に、「なめらか」とはいかないようである。やはり、古くから、
乾海鼠(ほしこ)、熬海鼠(いりこ)などに対して、生(なま)なるを、
ナマコと言ってきたのには意味があるのではないか。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95