2021年01月12日
とどろく
「とどろく」は、
轟く、
と当てる。「轟」(慣用ゴウ、呉音・漢音コウ)は、
会意。「車+車+車」で、多くの車が往来することを表す、
とあり(漢字源)、
ごろごろととどろく音の形容、
の意である。
轟音、
喧轟、
と
地響き、
どんととどろく音、
ざわざわと騒ぎ乱れる音、
等々につかう(仝上)し、
轟轟烈烈、
と、
物事が盛んで激しいさま、
にも使う(仝上)し、
轟飲、
轟笑、
と、
大いに、むやみに、の意でも使う(字源)。
音が鳴り響く、
とか、
胸が轟く、
とか、
名前が世間に知れ渡る、
等々という意味で使うのは、我国だけのようである(仝上・漢字源)。
「とどろく」は、
トドロの活用、
とある(大言海・日本語源広辞典)。
「とどろ」は、
擬音語、
で、
とどろき響くさま、
で(岩波古語辞典)、使用範囲は広く、
磯波・激流・馬の音、鹿・鶴・蝉の声、橋板を踏み鳴らす音、
等々に、
みよしのの滝(たぎ)もとどろに落つる白波留まりにし妹に見せまく欲しき白波(万葉集)、
伊勢(いせ)の海の磯(いそ)もとどろに寄する波恐(かしこ)き人に恋ひわたるかも(仝上)、
梅柳(うめやなぎ)過(す)ぐらく惜しみ佐保の内に遊びしことを宮もとどろに(仝上)、
等々、幅広く使う(岩波古語辞典)。その「とどろ」は、
ドロドロという音から(言元梯・名言通・国語溯原=大矢徹)、
トドロはトドと同じく擬声語で、大きな物音を表す(時代別国語大辞典-上代編)、
等々とあるが、「とど」は、
馬の音のとどともすれば松蔭(まつかげ)に出でてぞ見つるけだし君かと(万葉集)、
奥山の真木の板戸をとどとしてわが開かむに入り来て寝(な)さね(万葉集)、
等々の擬音語「とど」からきているとみていいが、この「とど」は、
ことこと、
といった優しい音の意であり、
どど、
とも訛った(岩波古語辞典)。「ろ」は、
接尾語、
で、
名詞の下につく。意味は明確ではない。歌の調子で用いられているような例もあり、親愛の情を示すように見える例もある、
とある(仝上)。
目ろよしに寄しより來ね(記紀)、
は前者、
武蔵野のをぐきが雉(きぎし)立ち別れ去(い)にし宵(よひ)より背ろに逢はなふよ(万葉集)、
の場合は、後者だろう。
「とどろ」が、
とどろき響くさま、
に転じたとき、同じ意の擬音語、
轟、
を当てたのは慧眼である。漢字より、意味の外延は広いが。
「とどろく」は、「なびく」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/479466279.html?1610309273)で触れたように、
擬音語・擬態語+ク(動詞を作る接尾語)、
で、
なびく(靡)、
さわぐ(騒)、
かがやく(輝)、
と同種の言葉である(岩波古語辞典)。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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