「とろろ汁」に、
薯蕷汁、
と当てている(大言海)。
いもじる、
とろろ、
とろ、
ともいう(仝上)。とろろ汁は飯がよく進むことから、「飯(いい)やる」を「言いやる」に掛けて、
言伝(ことづて)汁、
という異称がある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%A8%E3%82%8D%E3%82%8D)、とか。
ヤマイモ(薯蕷)、又は、仏掌薯(つくねいも)を擂りて、熱き味噌汁、又は、清澄(すまし)汁に溶かしたもの、
とある(仝上・広辞苑)
盪(トウ)汁の義、
とある(大言海)。
ヤマノイモやヤマトイモをおろし金ですりおろし、擂鉢に入れてすって、清(すまし)汁か味噌汁を加えて、すりのばし、この中に卵を割り入れる。出すときに、きざみ葱・青海苔などを薬味にする(たべもの語源辞典)、
生の山芋または長芋をすり下ろしたもの(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%A8%E3%82%8D%E3%82%8D)、
ともあり、汁物にしてとろろ汁、吸物にして吸いとろ、麦飯にかけて麦とろ、などとして食べられる。とろろを鮪のぶつ切りにかけた料理を山かけといい、山かけ蕎麦や山かけうどん等々がある(仝上)。
梅若菜まりこの宿のとろろ汁、
と芭蕉が江戸に下る弟子の乙州(おとくに)に与えた句がある、「鞠子の宿」の「とろろ汁」は、参勤交代の大名に気に入られたので有名になった、という(たべもの語源辞典)。慶長元年(1596)創業の丁子屋(ちょうじや)は、鞠子宿の名物とろろ汁を提供する店の一つで、創業以来400年間場所を変えずに営業している。
(歌川広重「東海道五十三次・鞠子」https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9E%A0%E5%AD%90%E5%AE%BFより)
「とろろじる」の「とろろ」については、
トロトロの略(たべもの語源辞典)、
とある。
トロトロした汁の意(類聚名物考・俗語考・日本語源=賀茂百樹・音幻論=幸田露伴)、
も同じである。
トロロは動詞トトロク(盪)の語幹に由来する(語源辞典・植物篇=吉田金彦)、
は、大言海の、
盪汁の義、
と同じ意味である。これも、「とろく」
盪く、
蕩く、
固まっているものが溶解する、
意とすれば、同趣である。
「トロ」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/453836534.html)で触れたように、擬態語の、「とろ」は、
トロトロ、
からきており、
固形物がとけてやわらかくなったり、液状の物が粘り気を帯びている様子、
を意味する(擬音語・擬態語辞典)。同じ擬態語「とろっ」「とろり」「とろとろ」と比べると、
「とろり」よりも、「とろっ」の方が状態を瞬間的にとらえて切れのある感じを表す。また、「とろり」と比べて「とろーり」の方が持続的でより滑らかに流れる感じを表す。「とろり」が状態を一回で切り取って把握するのに対して、「とろとろ」は何度も繰り返して継続的な感じを表す、
とある。「とろろ汁」の「とろとろ」はこれだろう。
ところで、「とろろ汁」に使う「薯」は、
とろろいも、
といい、
薯蕷芋、
薯蕷藷、
と当てるが、その種類は、
ヤマノイモ、
ナガイモ、
ツクネイモ、
等々があり(広辞苑)、
ヤマノイモとナガイモは全くの別種であるが、ともにヤマノイモ属であり、区別せず広義でヤマノイモ(山芋)と呼ぶ、
こともあり、しかも、一般に山芋と呼ばれるものには、大きく分けて、
ヤマノイモ、
ジネンジョ、
ダイジョ、
の3つの種類に分かれる(https://foodslink.jp/syokuzaihyakka/syun/vegitable/tukuneimo.htm)、という。「ナガイモ」は、
長芋群(細長い棒状の山芋)、
いちょう芋群(関東地方では「大和芋」とよばれているねばち形や手のひら状に広がった形のナガイモ)、
つくね芋群(「丹波いも」「大和いも」「伊勢いも」などね握りこぶしのように固くてゴツゴツした塊形)、
の3群に分けられる(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8A%E3%82%AC%E3%82%A4%E3%83%A2)、とある。栽培種になって、ますます品種がややこしいが、「ヤマイモ」にも、
よくスーパーで見かける長いナガイモ群、
関東で大和芋として売られていることもあるイチョウのような形のイチョウイモ(銀杏いも)群、
塊状のヤマトイモ群、
の3つに分けられる(https://foodslink.jp/syokuzaihyakka/syun/vegitable/tukuneimo.htm)、とある。
「やまいも」は、
山芋、
薯蕷、
とあて、
ヤマノイモ(山の芋)、
と同じである。鎌倉時代に編纂された字書『字鏡(じきょう)』には、
薯蕷、山伊母、
と載る。山野に自生するので、
自然生(じねんじょう)、
自然薯(じねんじょ)、
と言った。これは、里芋に対して、山地にあるから
ヤマイモ、
と言ったのである。漢名は、
薯蕷(じょよ)、
とされるが、牧野富太郎が、これはナガイモの漢名としている(たべもの語源辞典)のは、
古くは中国原産のナガイモを意味する漢語の薯蕷を当ててヤマノイモと訓じた、
からである。「やまいも」は、
日本特産で、英名はジャパニーズ・ヤム(Japanese yam)、中国名は、日本薯蕷(にほんしょよ)、
という(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A4%E3%83%9E%E3%83%8E%E3%82%A4%E3%83%A2)。
「ながいも」は、
長薯、
とあて、古く中国から伝来し、畑で栽培された。漢名は、
山薬(さんやく)、
薯蕷(しょよ)、
とされるが、中国では、
同種のナガイモは確認されていない。日本で現在流通しているナガイモは日本発祥である可能性もある、
とされている(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8A%E3%82%AC%E3%82%A4%E3%83%A2)。
「ヤマトイモ」(大和いも)は、
ヤマノイモ科のつる性多年草の芋で、奈良県在来のツクネイモの品種である。関東などでは、イチョウ芋を「やまと芋」と呼ぶ、
とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E5%92%8C%E3%81%84%E3%82%82)。
芋が球形をしたものをツクネイモ群と称し、表皮が黒いものは大和いも、白いものは伊勢いもと呼ばれるが、いずれも中身は白色である、
とある。大和いもを含むツクネイモ群は、
大陸から渡来したナガイモの一種で、山に自生する日本原産のヤマノイモとは別の種、
とされる(仝上)。つくねいもの名前が最初に登場するのは『清良記』(1654年頃)で、
江戸時代の『本草綱目啓蒙』および『成形図説』に「大和イモ」「大和芋」の名が現れるが、この頃は「仏掌薯(つくねいも)」を指していた。1924年(大正13年)の『本場に於ける蔬菜栽培秘法』(三農学士編 柴田書房)にも「大和蕷薯〔ママ〕 一名仏掌薯(ツクネイモ)」の項があり、この頃まで「仏掌薯(つくねいも)」が「大和いも」と呼ばれていた、
とされる(仝上)。
参考文献;
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
山口仲美編『擬音語・擬態語辞典』(講談社学術文庫)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95