2021年02月07日
食べる
食うとは、ものを食べるという意味。「食べる」と比べてやや下品な表現である、
とある(笑える国語辞典)ように、どちらかというと、今日「食う」は、余りいい表現とはみなされない。
「食う」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/479896241.html?1612555520)で触れたように、
平安時代には、和文脈にクフ、漢文脈にクラフが用いられ、待遇表現としてのタブ(のちにはタブルを経てタベル)も登場する。室町時代には、クラフが軽卑語、クフが平常語となり、タブルも丁寧語としての用法から平常語に近づいていった。江戸時代には、待遇表現としてのメシアガルなどが増加し、現在の用法とかなり近くなった。現在では、上位の者から下位の者が物をいただくの意から転じた「たべる」の方が上品な言い方とされる、
とあり(日本語源大辞典)、「たまふ」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/479566809.html)で触れたように、「たまふ」には、
タマフの受動形。のちにタブ(食)に転じる語、
である下二段動詞として、
(飲み物などを)いただく、
の意味に転じたので、
「たべる(たぶ)」はもともと謙譲・丁寧な言い方であった、
のが、敬意がしだいに失われ通常語となったものだからである。そのため、現代語では、食する意では「食う」がぞんざいで俗語的とされ、一般に「食べる」を用いる(デジタル大辞泉)に至ったためである。
「たまふ」と同義に、
たぶ(賜)、
たうぶ(賜)、
がある。「たぶ」は、
タマフの轉、
であり(岩波古語辞典)、「たうぶ」も、
「たまふ」あるいは「たぶ」の音変化で、主として平安時代に用いた、
とあり、「たぶ」も、
「たまふ」の訛ったもので、
tamafu→tamfu→tambu→tabu
という転訛と思われる(岩波古語辞典)。で、大言海は、「たうぶ」を、
たうぶ(賜) たぶ(賜、四段)の延、賜ふ意、
たうぶ(給) たぶ(給、四段)の延、他の動作に添えて云ふ語、
たうぶ(給) 上二段、仝上の意、
たうぶ(食) たぶ(食、下二段)の延、
と四項に分ける。それは、「たぶ」が、
たぶ(賜・給、自動四段) 君、親、又饗(あるじ)まうけする人より賜るに就きて、崇め云ふ語、音便にたうぶ、
たぶ(賜、他動四段) たまふに同じ、
たぶ(食、他動四段) 賜ぶの転、食ふ、
とある(仝上)のと対応する。もともと自動詞の「たぶ」自体に、
飲み食ふの敬語、
の用例があるので、その意味が、
謙譲語、
としての「食ぶ」の用法につながっていくとも見える。
下二段の活用の「たまふ(給)」と同じく、本来は「いただく」の意であるが、特に、「飲食物をいただく」場合に限定してもちいられる、
にいたる(日本語源大辞典)。
なお、「たぶ(賜・給、自動四段)」にある「饗(あるじ)まうけ」とは、「あるじ(主・主人)」は、
客人(まらうど)に対して云ふが元なり、饗応を、主設(あるじまうけ)と云ふ、
の意味である(大言海)。「たぶ」は、「たまふ」の、
たまふ(賜、他動四段) 授ける、与えるの敬語、
たまふ(給、自動四段) 他の動作の助詞に、敬語として言ひ添ふる、
たまふ(自動下ニ) 己れが動作の動詞に、敬語として言ひ添ふる語、
と対応している(大言海)
賜ぶ→食ぶ→食べる、
という転訛とは別に、音韻変化として、
カム(噛む)がカム(嚼む)を経てカム(食む)に転義し、(中略)「カ」が子交(子音交替)[kt]をとげて、「カム(食む)」はタム・タブ(食ぶ)に転音した。(中略)タベルはその口語形である、
とする説(日本語の語源)もある。ただ、同じ著者が、
タマフ(給ふ)のマフ[m(af)u]を縮約するときには、タム・タブ(給ぶ)になった、
としている(仝上)。これを受け入れるとするなら、やはり、「食べる」には、
お食べになる、
という尊敬語の含意と、
頂戴する、
という謙譲語の含意が、含まれているのではないか。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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