2021年02月09日
マツタケ
「マツタケ」は、
松茸、
と当てるが、
松蕈、
とも当て、
マツダケ、
と訓ませた(大言海)。林逸節用集には、
松茸、マツダケ、
とある(仝上)。語源は、
松+茸、
赤松林に自生する、
ところから来た(日本語源広辞典)、と見ていい。
「きのこ」に当てる漢字は、
菌、
茸、
蕈、
がある(字源)。漢字では、
松菌、
で、
松蕈、
の意である。つまり「マツタケ」である。明代の、『本草集解(しゅうげ)』に、
松蕈生松陰、采無時、凡物松出、無不可愛者、
とある(字源)。「菌」(漢音キン、呉音ゴン)は、
会意兼形声。囷(キン・コン)は、まるくまとまる、まるいの意を含む。菌はそれを音符とし、艸を加えた字、
であり、「きのこ」「たけ」の意(漢字源)。「茸」(漢音ジョウ、呉音ニョウ)は、
会意。「艸+耳(柔らかい耳たぶ)」。柔らかい植物のこと、
とあり、柔らかい葉がふさふさと茂る意で、「きのこ」の意は、ない。「茸」に当てるのはわが国だけの用法である(仝上・字源)。「蕈」(漢音シム、呉音ジン)は、
会意。「艸+音符覃」
で、「きのこ」の意であり、「マツタケ」は、
松蕈、
と当てるのが正しいことになる。「覃」(漢音タン、呉音ドン)は、
会意。「襾(ざる)+高の逆形(下に深く下がったことを示す)」で、奥深くくぼんだざるのこと。下に深いことを示す、
とあり(漢字源)、「深い」という意である。まさに、
松蕈、
は、「マツタケ」である。
「タケ(茸)」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/461300903.html)で触れたことだが、「タケ」は、
茸、
菌、
蕈、
と当て、「きのこ」の意であるが、「きのこ」にも、同じ字を当てる。「きのこ」は、
木の子、
で、「たけのこ(竹の子)」に対しての語(日本語源広辞典)とあるが、
「竹の子、芋の子もあり」
としている(大言海)ので、必ずしも対ではなさそうだ。木に寄生するために、そう名づけたものらしい。「くさびら」(クサヒラ)とも言うらしいが、古くは、
木茸(きのたけ)、
土茸(つちたけ)、
といったらしい。大言海は、「たけ(茸・菌・蕈)」の項で、
椎茸、榎茸の類は木ノタケと云ひ、
松茸、初茸の類を土タケと云ひ、
岩茸の類は岩タケと云ふ、
と区別している。和名抄は、
菌茸、菌有木菌木菌岩菌、皆多介、如人著笠者也、
とし、箋注和名抄は、
菌、太介、有數種、木菌土菌石菌云々、形似蓋者、
とし、本草和名は、
木菌、岐乃多介、地菌、都知多介、
としている(仝上)。「たけ」の訓みについて、
日本語のキノコの名称(標準和名)には、キノコを意味する接尾語「〜タケ」で終わる形が最も多い。この「〜タケ」は竹を表わす「タケ」とは異なる。竹の場合は「マ(真)+タケ(竹)」=「マダケ」のように連濁が起きることがあるが、キノコを表わす「タケ」は本来はけっして連濁しない。キノコ図鑑には「〜ダケ」で終わるキノコは一つもないことからもこれがわかる、
としているが(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AD%E3%83%8E%E3%82%B3)、上記、
松茸、マツダケ(林逸節用集)、
の例があるので、「連濁」云々は、ちょっと当てにならない。しかし、「タケ(茸)」は、「タケ(竹)」とは異なることは確かである。たとえば、「竹」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/461199145.html?1611288809)は、
タケ(丈)・タカ(高)と同源とする説は、アクセントを考えると成立困難である、
とされ、
タケ(丈)、
タカ(高)、
と語源をつなげることはできないが、たとえば、「たけ」(茸)は、異なり、
タケ(長)と同根。高く成るものの意(岩波古語辞典)、
とする説があり、「長け」を見ると、
タカ(高)の動詞化。高くなる意。フカ(深)・フケ(更)・アサ(浅)・アセ(褪)の類、
とある。この「長け」は、身の丈の「丈」とも通じる。「丈」については、
「ゆきたけ」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/443380153.html)、
「たけなわ」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/456786254.html)、
で触れたことがあるが、「たけなわ」の「たけ」には、
タケ(長)の義、
と
タカキ(高)の義、
の二系統に分かれる。
長く(タク)は、高さがいっぱいになることの意で使います。時間的にいっぱいになる意のタケナワも、根元は同じではないかと思います。春がタケルも、同じです。わざ、技量などいっぱいになる意で、剣道にタケルなどともいいます、
というように(日本語源広辞典)、長さや高さという空間的な表現を時間に転用することは、十分考えられる。
ある行為・催事・季節などがもっともさかんに行われている時。また、それらしくなっている状態。やや盛りを過ぎて、衰えかけているさまにもいう。最中(さいちゅう)。もなか。まっさかり、
と(日本語源大辞典)、長さと高まりとが重なり合うイメージになっていく。
それと重なるのが、
タケル(長ける・時が過ぎ、開いたキノコ)のタケ、
とする(日本語源広辞典)説である。「タケ(茸)」は、
長け、丈であり、タケナワの「タケ」なのではないか、と思う。
春タケナワ、
の「タケ」にある、時間経過が過ぎると、カサが開くという意ではないか。
さて、「マツタケ」は、
キシメジ科キシメジ属キシメジ亜属マツタケ節のキノコの一種、
とされ(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%84%E3%82%BF%E3%82%B1)、
秋にアカマツの単相林のほか針葉樹が優占種となっている混合林の地上に生える、
とあるが(仝上)、「マツタケ」の類似菌は、日本に四種あるという(たべもの語源辞典)。
マツタケモドキ、
は、
マツタケより小型で、往々ささくれ状をしている。秋にマツタケより少し遅れて赤松林に発生する。マツタケのような芳香はない。俗に、マツタケノオバサン、オバマツタケと呼ばれる(仝上)。
バカマツタケ、
は、
広葉樹林(主にコナラ属)に発生し、マツタケと同じく芳香がするが、少し小型である(仝上)。
ニセマツタケ、
は、椎やコナラなどの広葉樹林に発生する。マツタケより一ヶ月ほど早く発生する。芳香はなく肉は柔らかい、とある(仝上)。
サマツ、
は、水ナラやコナラなどの広葉樹林に生える(http://www.sansai.blue/category2/entry26.html)。
「マツタケ」は、万葉集にも、
高松のこの峯も狭(せ)に笠立ちてみちさかりたる秋の香のよさ、
と詠われるほど、古くから知られていた。
土の中から頭を出したカサと軸の違いがわからぬ太く短い棒のようなマツタケを、
コロ、
と呼ぶが、
初々しいが香りがない、
とある(たべもの語源辞典)。この後、カサがはっきりわかるようになり、この時が、
味が一番いい、
が、香りはまだ不十分。カサが開きかける時が、香りが一番高い、という。八分通り開いたときが香りが一番強いが、味は下り坂、とある(仝上)。この香は、一種のアルコールで、
マツタケオール、
と
異性体イソマツタケオール、
と
桂皮酸メチル、
の混合物とある(仝上)。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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