「ごとし」は、
~の如く、
と使う。これは、
比況の助動詞「ごとし」の連用形、
で、
活用語の連体形、体言、助詞「の」「が」に付いて、
彼の言うごとく、
とか、
今さらのごとく、
といったように、
比喩・例示を表し、~のように、~のとおり、
の意で使う(デジタル大辞泉)。現代では文章語的表現、または改まった表現をする場合に用いられる(仝上)、とある。
(甲骨文字(殷)「如」 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%A6%82より)
「ごとし」に当てる「如」(漢音ジョ、呉音ニョ)は、
会意兼形声。「口+音符女」。もと、しなやかにいう、柔和に従うの意。ただし、一般には若とともに、近くもなく、遠くもない物を指す指示詞に当てる。「A是B」とは、AはとりもなおさずBだの意で、近称の是を用い、「A如B」(AはほぼBに同じ、似ている)という不則不離の意を示すには中称の如を用いる。仮定の条件を指示する「如(もし)」も現場にないものを指す働きの一用法である、
とある(漢字源)。「人世如朝露」というように、「~のようだ」の意で使うが、「若」と同じく、「如有復我者(もし我を復する者有らば)」のように「もし」の意でも使うし、A如B(AもしくはB)の形でも用いる(仝上)。
「如」については、
会意形声。「口」+音符「女」。「女」は「若」「弱」に共通した「しなやかな」の意を有し、いうことに柔和に従う(ごとし)の意を生じた。一説に、「口(神器)」+音符「女」、で神託を得る巫女(「若」も同源)を意味し、神託に従う(ごとし)の意を生じた、
とも(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%A6%82)、
会意兼形声文字です(女+口)。「両手をしなやかに重ねひざまずく女性」の象形(「従順な女性」の意味)と「口」の象形(「神に祈る」の意味)から、「神に祈って従順になる」を意味する「如」という漢字が成り立ちました、
とも(https://okjiten.jp/kanji1519.html)あるので、旁の「女」には、「神託を得る巫女」の意があるものとみてよさそうである。
さて「ごとし」は、確かに助動詞であるが、
動詞・助動詞の連体形を承ける。しかし、「……がごとし」「……のごとし」のように助詞の「の」「が」にもつづく。助動詞は助詞を承けることはないものであるから、上のような用法のある「ごとし」は本来の助動詞ではない、
とされる(岩波古語辞典)。その背景は、「ごとし」の成り立ちと絡む。「ごとし」は、
同一の意味の体言「こと」の語頭の濁音化した「ごと」に、形容詞化する接尾辞「し」のついた語。活用語の連体形、助詞「が」「の」につく。まれに名詞につく使い方もある。古くは「ごと」が単独で使われた。活用形の変則的用法として、副詞的には「ごとく」の他に「ごとくに」も用いられ、指定の助動詞「なり」には「ごとき」の他に「ごとこく」「ごとし」からも続く。平安時代には漢文訓読分に用いられ、かな文字系(女流文学系)では「やうなり」が一般であった。現代口語では、文章語的な文体で「ように」の意味で「ごとき」が用いられる、
とある(広辞苑)。「ごと」は、
同、
如、
と当て(岩波古語辞典)、
古に恋ふらむ鳥は霍公鳥(ほととぎす)けだしや鳴きし我が恋るごと(額田王)
と使われ、
コト(同)と同根、後に如しの語幹となる、連体修飾語をうけて、
とあり(仝上)、「~と同一」の意で、
ごと(毎)、
とはアクセントと意味から別語とある(仝上)。「こと」は、
同、
と当て、
花細(ぐは)し桜の愛(め)でてこと愛でば早くは愛でず我が愛づる子ら(允恭天皇)、
と使われ、
如し(ゴトシ)と同根、仮定の表現を導くに使う。「こと」(別・異)とは起源的に別語、
とあり(仝上)、
此語、常に多く、何のごと、某(ソレ)のごとと、他語のしたに用ゐられ、連声にて濁る、されど独立なるときは清音なるなり(万葉集古義)。ただし、清音にて、語尾の活用したるを見ず、古今集の歌の、ことならむを、顕注密勘に、かくの如くならむの意と釈せり、
としている(大言海)。
しかしもともと、「こと」は、体言である。だから、
「見けむがごと」といえば、「見たというのと同一」の意である。この用法の発展として、他の事・物に比較して「……とおなじだ」「……のようだ」の意を表す「ごとし」があらわれた(岩波古語辞典)、
というような用法を可能にしたのである。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95