2021年03月14日
桁違いの超人
高橋昌一郎『フォン・ノイマンの哲学~人間のフリをした悪魔』を読む。
ノイマン型コンピュータで知られるノイマンだが、ノイマンの名のついたものは、量子論の、
ノイマン環、
ゲーム理論における、
ノイマンの定理、
等々、
20世紀に進展した科学分野のどの分野を遡っても、いずれとこかで必ず何らかの先駆者として「ノイマン」の導いた業績に遭遇する、
といい、「ノイマン」と冠のついた専門用語は、
ノイマン集合、
ノイマン・ボトルネック、
ノイマン・モデル、
ノイマン・バラドックス、
等々50種以上発見する、
とある。
わずか五三年あまりの短い生涯の間に、論理学・数学・物理学・化学・計算機科学・情報工学・生物学・気象学・経済学・心理学・社会学・政治学に関する150編の論文を発表、
し、
天才だけが集まるプリンストン高等研究所の教授陣のなかでも、さらに桁違いの超人的な能力を発揮した、
と著者は「はじめに」で書く。今日のコンピュータ、スマホへと続く、
ノイマン型アーキテクチャー、
で、
プログラム内蔵方式の概念を明確に定式化、
して、
コンピュータの父、
と呼ばれる一方、原子爆弾開発の「マンハッタン計画」の中心メンバーとして、
爆縮型原子爆弾、
を開発する。多忙な中、モルゲンシュテルンと『ゲーム理論と経済行動』を著したが、サミュエルソンは、
人生で出会った中でノイマンは「最も心の動きが速い天才」だと認め、「比類なきジョン・フォン・ノイマン」と呼んで敬意を表し、「私たちの専門分野なのに、彼は少し顔を出しただけで、経済学を根本的に変えてしまったのです!」
と述べている。
その天才ノイマンが、
人間のフリをした悪魔、
と呼ばれるのは、ノイマンとともに原子爆弾を開発し、核反応理論でノーベル物理学賞を受賞したベーテの、
フォン・ノイマンの頭脳は、常軌を逸している。彼は人間よりも進化した生物ではないか、
と言っている、
超人、
という意味ではない。非人道的な原子爆弾開発の罪悪感に悩む若きファインマンに、ノイマンは、
われわれが生きている世界に責任を持つ必要はない、
と断言して、彼を苦悩から救ったという。著者は、
要するに、ノイマンの思想の根柢にあるのは、科学で可能なことは徹底的に突き詰めるべきだという「科学優先主義」、目的のためならどんな非人道的兵器でも許されるという「非人道主義」、そしてこの世界には普遍的な責任や道徳など存在しないという一種の「虚無主義」である、
とする。事実原子爆弾開発のさなかのある夜、ノイマンはこう言ったとされている。
我々が今作っているのは怪物で、それは歴史を変える力を持っている!……それでも私は、やり遂げなくてはならない。軍事的な理由だけでもだが、科学者として科学的に可能だとわかっていることは、やり遂げなくてはならない。それがどんなに恐ろしいことだとしてもだ。これははじまりにすぎない、
と。しかし、ノイマンを、
超人的な新人類が生まれることがあるとしたら、その人々はジョン・ノイマンに似ているだろう、
と評した「水爆の父」エドワード・テイラーの、
考えることを楽しめば、ますます脳は発達する。フォン・ノイマンは、自分の脳が機能することを楽しんでいたんだよ、
という言葉の方が、ノイマン自身に近いのではないか、という気がする。それも桁外れに高速な、
自働思考マシン、
なのではないか。ノイマン型コンピュータ発想のきっかけとなった、ジョン・エッカートとジョン・モークリーが開発していたコンピュータENIACにアドバイスして、計算速度を毎秒5000回まで向上させたとき、
これで、ようやく私の次に計算の早い機械ができた、
と言ったほどなのだから。
最後、ノイマンは、核実験に立ち会った時に浴びた放射線が原因とされる癌を発症し、
全身にガンの転移したノイマンは、ワシントンのウォーター・リード陸軍病院に入院した。彼の病室は、大統領の病室と同じ病棟にある特別室だった。その光景を、ルイス・ストロース原子力委員会委員長は、「もともと移民だったこの五〇代の男の周りを、国防長官、国防副長官、陸・海・空軍長官、参謀長官が取り囲んでいるという、驚くべき構図」だと述べている、
というアメリカという国家の最重要人物として死去した。
参考文献;
高橋昌一郎『フォン・ノイマンの哲学~人間のフリをした悪魔』(講談社現代新書)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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