「煮切り」とは、
料理で、酒や味醂の旨味成分を利用するため、それらを煮立てたり火をつけたりしてアルコール分を除く、
意である(広辞苑)が、また、
煮つめて水分や煮汁を除く、
意でも使う(デジタル大辞泉)。煮切ったものは、
煮切りみりん、
煮切り酒、
とも呼ばれる(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%85%AE%E5%88%87%E3%82%8A)。和食独特で、西洋料理のフランベと似ているところがあるが、
フランベが具材に対して行われるのに対して、煮切りではそのような対象物がない。あくまでみりんや酒に含まれる、調味に余分なアルコールを除くために行われる、
のが特徴(仝上)、とされる。
味醂をそのまま用いるのに比べて、たいへん味がよくなり、煮物でも焼物でもきわめて美しい光沢が出る、
のである(たべもの語源辞典)。
この「煮切り」は、
ラ行五段活用の動詞「煮切る」の連用形、あるいは連用形が名詞化したもの、
であり(日本語活用形辞書)、「煮切り」の「きり」は、
終わり、
の意とある(たべもの語源辞典)。「切る」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/467643440.html)で触れたように、「切る」は、
「物に切れ目のすじをつけてはなればなれにさせる意。転じて、一線を画して区切りをつける意。類義語タチ(断)は、細長いもの、長く続くことを中途でぷっつりと切る。」
とあり(岩波古語辞典)、
刈(か)る、伐(こ)るに通ず、段(きだ)、刻(きざむ)、岸、際(きは)などと語根を同じうす、
でもあり(大言海)、
「キ(切断・分断)+る」
である(日本語源広辞典)。
「にる」の意の漢字は、
煮、
烹、
煎、
等々などがあるが、三者は、本来使い分けられている。
「煎」は、火去汁也と註し、汁の乾くまで煮つめる、
「煮」は、煮粥、煮茶などに用ふ。調味せず、ただ煮沸かすなり、
「烹」は、調味してにるなり。烹人は料理人をいふ。左傳「以烹魚肉」、
とある(字源)。漢字からいえば、「煮切る」は、誤用ということになる。
狡兎死して走狗烹らる、
の成句からみると、「煮る」は「烹る」で、「煮切る」は「烹切る」でなくてはならないのかもしれない。
「煮」(慣用シャ、呉音・漢音ショ)は、
会意兼形声。者は、コンロの上で木を燃やすさまを描いた象形文字で、火力を集中して火をたくこと。のち、助辞にもちいられたため、煮がつくられて、その原義をあらわすようになった。「火+音符者」。暑(熱が集中してあつい)と縁が深い、
とあり(漢字源)、「煮沸」というように、「たぎらせる」意で、「容器に入れて湯の中でにる」意である。別に、
会意兼形声文字です(者(者)+灬(火))。「台上にしばを集めつんで火をたく」象形(「にる」の意味)と「燃え立つ炎」の象形から、「にる」を意味する「煮」という漢字が成り立ちました(https://okjiten.jp/kanji1199.html)、
とも、
会意形声。者は庶と古く同声であるため、この両者が声符として互易することがあり、庶蔽の庶はもと堵絶の意であるから者に従うべき字であり、庶は煮炊きすることを示す字であるから、庶が煮の本字である。本来、者は堵中に隠した呪禁の書であるから、これに火を加えて煮炊きの意に用いるべき字ではない(白川)、
ともあり(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%85%AE)、今日の「煮炊き」の意味ではなかったと思われる。
(煮 成り立ち https://okjiten.jp/kanji1199.htmlより)
「烹」(漢音ホウ、呉音ヒョウ)は、
会意。亨(キョウ)は、上半の高い家と下半の高い家とが向かい合ったさまで、上下のあい通うことを示す。烹は「火+亨(上下にかよう)」で、火でにて、湯気が上下にかよい、芯まで通ることを意味するにえた物が柔らかく膨れる意を含む、
とある(漢字源)。「割烹」(切ったりにたり、料理する)と使い、「湯気を立ててにる」意である。やはり「煮る」は、「烹る」がふさわしいようだ。別に、
会意。「亨」+「火」、「亨」の古い字体は「亯」で高楼を備えた城郭の象形、城郭を「すらりと通る」ことで、熱が物によくとおること(藤堂)。白川静は、「亨」を物を煮る器の象形と説く。ただし、小篆の字形を見ると、「𦎫」(「亨(亯)」+「羊」)であり「chún(同音:純)」と発音する「燉(炖)(音:dùn 語義は「煮る」)」の異体字となっている。説文解字には、「𦎫」は「孰也」即ち「熟」とあり、又、「烹」の異体字に「𤈽」があり、「燉」に近接してはいる、
とあり(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%83%B9)、「烹る」と「煮る」の区別は、後のことと知れる。
(「煎」の成り立ち https://okjiten.jp/kanji2170.htmlより)
「煎」(セン)は、
会意兼形声。前の「刂」を除いた部分は「止(あし)+舟」の会意文字。前はそれに刀印を加えた会意兼形声文字で、もと、そろえて切ること。剪(セン)の原字。表面をそろえる意を含む。煎は「火(灬)+音符前」で、火力を平均にそろえて、鍋の中の物を一様に熱すること、
とある(漢字源)。「水気がなくなるまでにつめる」「水気をとる」意で、「いる」意でもある。別に、
形声文字です(前+灬(火))。「立ち止まる足の象形と渡し舟の象形と刀の象形」(「前、進む」の意味だが、ここでは、「刪(セン)」に通じ(同じ読みを持つ「刪」と同じ意味を持つようになって)、「分離する」の意味)と「燃え立つ炎」の象形から、「エキスだけを取り出す為によく煮る」、「いる(煮つめる、せんじる(煎茶))」を意味する「煎」という漢字が成り立ちました(https://okjiten.jp/kanji2170.html)、
とあり、「水気を飛ばす」意になり、「煎薬」と、「煮出す」意でも使う。
参考文献;
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
ラベル:煮切り