2021年04月04日
でっちあげる
「でっちあげる」は、
捏ち上げる、
と当てる。
証拠をでっちあげる、
というように、
ないことをあるようにつくりあげる、
つまり、
捏造、
の意である。それをメタファに、
報告書をでっちあげる、
というように、
間に合わせに形だけ整えてまとめ上げる、
意でも使う(広辞苑)。岩波古語辞典にも大言海にも載らない。比較的新しい言葉に思われる。大言海、江戸語大辞典に載るのは、
捏ちる、
と当てる、
でっちる、
である。「でっちる」は、
うなされて夜着のうえからでっちられ(明和四年(1767)「柳多留」)、
と、
こねる、
つくねる、
意である(江戸語大辞典)。この言葉は、今日ほとんど使わないが、広辞苑にも載る。
「捏」(漢音デツ、呉音ネツ・ネチ)は、
会意兼形声。旁(つくり)は「土+音符日」からなる形声文字で、ねばる土のこと。捏はそれを音符とし、手を添えた字で、粘土をこねること、
とあり(漢字源)、「こねる」意で、泥など、柔らかい物を手でこねる意から、「捏造」と使う(漢字源)。
捏造、
は、文字通り、
土などをこねて物の形を造る、
意で、それが転じて、
根も葉もない事実を構成する、
意で使う(字源)。わが国では、「捏造」を、
捏ち上げる、
という意味でも使うが、この「捏ち上げる」自体が、
「捏(デツ)」を活用させたことば(漢字源)、
とする説が主流である。たとえば、
捏造の「捏」が語源とされる。呉音「ねつ」漢音「ダツ」、その「捏」(デツ)が動詞化され、「捏ち上げる」となった(語源由来辞典)、
「捏つ(でつ)上げる」と言われていたものが、「でっちあげる」と変化していった(https://yaoyolog.com/)、
漢音で「でつ」と読む。その「捏(でつ)」の読みが動詞化されることで「捏ち上げる(でっちあげる)」となり、「でっちあげ」が生まれた(https://www.yuraimemo.com/1903/)、
等々、
デツ→でっちる→でっちあげる、
といった転訛を言っているらしいのである。本当にそうだろうか。
でっちる、
と
でっちあげる、
では少し意味に乖離がある。もし「捏」(デツ)の動詞化というのなら、
デツ→デツスル→デッツル、
といった転訛になるのではないか。憶説かもしれないが、
「捏(でつ)」の動詞化説、
はどうも承服しがたい。直接に、
「捏」の動詞化、
とするには、語感的にも意味的にも、飛躍がある。
隠語には、「でっちあげ」は、
丁稚上げる、
と当て、
無いことをあるように偽りつくること(捏造)、丁稚(職人や商人の家に奉公する少年、小僧)を一人前に仕上げる意から出た語、
とする説がある(隠語大辞典)。これを、「まったくの俗説」(語源由来辞典)と言い切るのはむつかしい。むしろ、
でつ→でっちる→でっちあげる、
自体がいかがわしい俗説に思われてならない。大言海は、「でっちる」を、
手抉(テクジ)るの転か、
としている。ただ、「抉(くじ)る」は、
うがつ、
えぐって中の物を取り出す、
意で、少し意味がずれる。それなら、
捏ねる、
とあてる「こねる」のほうが、意味がもっと近い。
粉末または土などを水に混ぜて固まるほどにこねる、
意で、漢字「捏」の意味とも重なる。
「こぬ(捏ぬ)」は、名語記に、
粉を水に和するをこぬと言へり、
とある(岩波古語辞典)。「こねる」の語源は、
粉練るの、口語調に成れる語なるべし、粉成す、粉熟(こな)れる、同趣の語なり、集韻「捏、乃結切、音捏(ネツ)」、増韻「捻聚(ひねりあつむる)也」、正字通「捏、同捻」、
とする(大言海)。他に、
コネル(粉煉・粉練)の義(日本釈名・和訓栞)、
も同趣旨。
コ(接頭語、小手で)+ネル(練る)(日本語源広辞典)、
コマネル(細練)の義(名言通)、
コネル(泥練)の義(言元梯)、
等々もある。文字通り「こねる」の同義、
捏、
を当てたところから、この漢字「捏」の音から、
デツする→デッツル→デッチル、
という言い回しが生まれたとするのなら、まだ納得できる。そう考えると、
でっちあげる、
という言葉は、江戸期にはなく、明治以後、それも昭和近くになってから生れた言葉ではないだろうか。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田勇編『江戸語大辞典 新装版』(講談社)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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