2021年04月05日

定家煮


「定家煮(ていかに)」は、

魚介を塩と酒だけで味付けした料理、

とある(広辞苑)が、

鯛などの淡白な魚を塩と酒(または焼酎)で煮る、

のをいう(たべもの語源辞典)、とある。文政五年(1822)の『江戸流行料理通大全』(八百善主人著)に、

焼酎と焼塩で味をつけ煮るを定家煮といふなり、

あり(たべもの語源辞典)、

潮煮の一種、

であるhttp://gogen.bokkurigoya.com/archive/006633.php。「潮煮」は、

ウシオニ、

と訓ませ、

鯛・かつおなどの魚介類を材料とした塩味の煮物。汁は通常の煮物より多めで、汁も味わう、

とあり(世界の料理がわかる辞典)、

うしお、
うしおじる、

などともいう。応永三二年(1425)の『看聞御記』に、

水車火の車にそ成にける池の魚をはうしをににして、

とある(精選版日本国語大辞典)。

「定家煮」は、藤原定家の、

来ぬ人をまつほの浦の夕なぎにやくやもしおの身もこがれつつ、

という歌にちなんで名づけられた、とも(仝上)、鎌倉時代の定家の名が、江戸時代に流行した料理に名づけられた、ということで、あくまで、

利休煮http://ppnetwork.seesaa.net/article/474289336.html
や、
祐庵焼http://ppnetwork.seesaa.net/article/479712626.html

等々と同じく、

定家好み、

ということから名づけられたともされる(たべもの語源辞典)。

藤原定家の肖像画.jpg

(藤原定家の肖像画(伝藤原信実筆) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%97%A4%E5%8E%9F%E5%AE%9A%E5%AE%B6より)

しかし、天明五年(1785)の『万宝料理秘密箱』(一名「玉子百珍」)には、

骨付きの鶏を生醤油と酒で炒り煮する。おろし大根と山椒の粉、葱の五分切、にんにくを添えて、

とあるhttps://megutama.com/category/%E5%82%AC%E3%81%97%E5%A0%B1%E5%91%8A/%E9%A3%9F%E3%81%B9%E3%82%8B%EF%BC%88%E5%82%AC%E3%81%97%EF%BC%89/%E6%B1%9F%E6%88%B8%E6%96%99%E7%90%86/

『万宝料理秘密箱』は、その出版広告に、

たまご百色、鳥るい、川うをるいの料理、飯、汁、なます、ちよく、ひらさら、くはしわん、やきもの、すべて膳部一式、勿論、酒のさかな、すいものに至るまでたまご、一式にして、四季のこん立、くみあはせ、古来より、料理の書にいでざる珍らしき、仕立にて、いまだ人のしらざる、秘方伝受もの、并に当りうの作りものゝ、仕方をいづかたにても、とゝのひ安きやうに、くはしくかきしるしたる書なり、

とありhttp://codh.rois.ac.jp/edo-cooking/tamago-hyakuchin/、一名「玉子百珍」とも言われるように、

江戸時代後期には採卵を目的として鶏が飼育されはじめ、本書の刊行により卵料理は、当時の食生活のなかに広まっていった、

という(仝上)。本書には、103種の卵料理が記されている。

定家煮 (2).jpg


どうやら、当初の、

燒酎と燒鹽にて味を付煮る、

という(江戸流行料理通大全)、

定家好み、

云々は消えて、ただ「定家」の名のみ残った感じである。

こうした料理本は、江戸時代、

『料理物語』 著者・出版者不詳 寛永二〇年(1643)、
『豆腐百珍(とうふひゃくちん)』 正・続篇 何必醇編 大阪 藤屋善七 天明二年(1782~1783)、
『大根一式料理秘密箱』 著者不記 京都 西村市郎右衛門[ほか] 天明五年(1785)、
『甘藷百珍(いもひゃくちん)』  珍古樓主人編著 出版地・出版者不明 寛政元年(1789)、
『新撰包丁梯(しんせんほうちょうかけはし)』 杉野駁華著 大阪 浅野弥兵衛[ほか]享和三年(1803)、
『料理通(江戸流行料理通)』 初編~4 編 八百善著 江戸 和泉屋市兵衛 文政五年(1822)~天保六年(1835)、

等々ありhttp://hikog.gokenin.com/edonosyokubunka1.html、今日の料理本と同様に、

専門の料理人ばかりではなく一般読者をも対象とした読み物、

となっており、まず、

料理法、

次に、

遣ひ方、

つまり用途を記述し、

どのような場面、器がふさわしいかなども記述している(仝上)。いわば、

料理を楽しむ、

という、この時代の豊かさを反映している。

定家の名にちなんだものには、もうひとつ、

定家葛、

がある。

テイカカズラ.jpg


式子内親王を愛した藤原定家が、死後も彼女を忘れられず、ついに定家葛に生まれ変わって彼女の墓にからみついたという伝説に基づく命名である。

参考文献;
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル:定家煮
posted by Toshi at 04:53| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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