「鉄砲焼」は、
魚・鶏肉・タケノコに唐辛子味噌をつけて焼いた料理、
を指す(広辞苑)。
アユ・フナ・ハヤなどを丸のまま山椒味噌を塗って焼いたものは、
土蔵焼、
という(たべもの語源辞典)が、
魚の上に塗るのでいう、
とある(仝上)。「鉄砲焼」の作り方も同じだが、
唐辛子味噌、
か
山椒味噌、
の違いで、「鉄砲」の名は、「鉄炮和(あえ)」が、
ぶつ切りにしたゆでたねぎと、魚・貝などと辛子酢味噌であえたもの、
だが、この「鉄砲」の名は、
ぴりりと辛子がきくのから、
とも、
食べると葱の芯がポンと抜けるのが鉄炮に似ているから、
ともいうが、
唐辛子がきく、
とか、
辛子がきく、
から名づけたとする(たべもの語源辞典)。しかし、どうもこれは疑わしい。『料理談合集』(享和元年(1801)~文化元年(1804))に、精進の「鉄砲焼」は、
筍を皮のまま生で根を切り離し、肉の節を抜いて、酒とたまり醤油をつぎ込んで、切り口を大根で塞いで。藁灰の中に入れて焼く。焼けたところを出して皮をむいて切る。中につぎ込んだ醤油が良くしみ込んで香味がよくなる、
とある、という(仝上)。この「鉄砲焼」は、
形が鉄砲に似ているから、
という。ここから「鉄砲焼」の名だけが引き継がれたのではないか。そうみれば、
食べると葱の芯がポンと抜けるのが鉄炮に似ているから、
とするのには意味がある。そう考えるには理由がある。
たとえば、「鉄砲漬」というものがある。千葉県内にはタケノコの鉄砲漬(筍の中にトウガラシ)、菜の花の鉄砲漬(瓜の中に菜の花。トウガラシなし)などなどいろいろな「鉄砲漬」があるが、正しい「鉄砲漬け」は、
白瓜の種の部分を抜き、ここにシソで巻いた 「青トウガラシ」を入れて醤油または味噌漬けにしたものです。発祥地は「千葉県成田」です、
とある(https://style.nikkei.com/article/DGXMZO13914750Q7A310C1000000?page=2)。唐辛子の辛さが由来と思いたいが、
周りの白瓜を鉄砲の筒に見立てて、中に入っているシソ巻き青トウガラシを弾丸に見立てる、
ところから「鉄砲漬け」と言う(仝上)、とある。筍の節を抜いた筒状を、「鉄砲」と名づけたのと同じである。
「烏賊の鉄砲焼」というのもあるが、
青森県下北半島や石川県能登、富山等々の郷土料理、で、いかの足を細かく切り、これにわたとみそを合わせて胴に詰めて焼いたもの。輪切りにして食べる、
とあり、これも同じ見立てなのではないか、という気がする。「鉄砲和え」も、「からしが効く」からではなく、
ネギの芯 (しん) が抜けるのが鉄砲に似る、
ところからではないか(デジタル大辞泉)。
(スルメイカの鉄砲焼 https://www.toyama-sakana.jp/recipe/ika3/より)
「鉄砲巻」は、
干瓢を芯にした細い海苔巻、
だが、これも、
形が鉄砲の砲身に似ている、
というのが名前の由来である(広辞苑)。
「鉄砲」は、
鉄炮、
とも当てるが、多くは大筒ではなく、小銃を指す。この形をなぞって、
鉄砲釜、
というものがある(岩波古語辞典)。
(鉄砲風呂と五右衛門風呂 https://www.nasluck.co.jp/useful/bath/history/より)
据え風呂・風炉に装着して火を焚く金属製の円筒、
である(仝上)。幕末の『守貞謾稿』にも、
銕炮風呂と号て桶中の側に銅筒を立る、内に銕簀を納る、銅筒無底にて火勢を助く、是には炭を専らとし希には薪にても焚之、
とある(江戸語大辞典)し、
たっぷりの湯に首までつかる「据え風呂」ができたのは、慶長年間の末ころ。据え風呂は蒸気や薬湯ではなく、井戸水を沸かして入れるので「水(すい)風呂」とも呼ばれ、一般の庶民の家庭に広まります。湯舟は湯量が少なく済むよう、人一人が入れるほどの木桶を利用。浴槽の内側の縁に通気口のついた鉄製の筒をたて、この中に燃えている薪を入れます。通気口から入る風で薪が燃え続け、鉄の筒が熱せられることによって湯が沸く「鉄砲風呂」が発明され、江戸の主流となりました、
とある(https://www.nasluck.co.jp/useful/bath/history/)。関西では、桶の底に平釜をつけ、湯をわかす「五右衛門風呂」が主流だったらしい。
このように、多く「鉄砲」の名がつくのは、
砲身と弾丸、
に準えたもののように思える。ただ例外は、
鉄砲汁、
で、これは、
河豚汁、
を指す(広辞苑)。
鉄炮と名にこそ立てれ河豚(ふくと)汁(元禄十六年(1703)『たから船』)、
という句がある。
河豚は当たると死ぬ、
のが「鉄砲」の名の由来らしい(https://japanknowledge.com/articles/asobi/16.html)。
曲がり鉄砲、
とも言うが、河豚の刺身を、
テッサ、
河豚のちり鍋を、
テッチリと言うのは、
鉄砲の刺身・鉄砲のちり鍋の略、
とある(仝上)。因みに、「鉄砲」には、
法螺、
嘘、
の意味があるが、江戸初期から使われ、
人を驚かすから、文化九年(1813)の式亭三馬『浮世風呂』にも、
「イヤイヤ、飛八さんの話はいつも鉄炮だて」
と使われている(仝上)。
参考文献;
前田勇編『江戸語大辞典 新装版』(講談社)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
ラベル:鉄砲焼