2021年04月11日

鉄砲焼


「鉄砲焼」は、

魚・鶏肉・タケノコに唐辛子味噌をつけて焼いた料理、

を指す(広辞苑)。

アユ・フナ・ハヤなどを丸のまま山椒味噌を塗って焼いたものは、

土蔵焼、

という(たべもの語源辞典)が、

魚の上に塗るのでいう、

とある(仝上)。「鉄砲焼」の作り方も同じだが、

唐辛子味噌、

山椒味噌、

の違いで、「鉄砲」の名は、「鉄炮和(あえ)」が、

ぶつ切りにしたゆでたねぎと、魚・貝などと辛子酢味噌であえたもの、

だが、この「鉄砲」の名は、

ぴりりと辛子がきくのから、

とも、

食べると葱の芯がポンと抜けるのが鉄炮に似ているから、

ともいうが、

唐辛子がきく、
とか、
辛子がきく、

から名づけたとする(たべもの語源辞典)。しかし、どうもこれは疑わしい。『料理談合集』(享和元年(1801)~文化元年(1804))に、精進の「鉄砲焼」は、

筍を皮のまま生で根を切り離し、肉の節を抜いて、酒とたまり醤油をつぎ込んで、切り口を大根で塞いで。藁灰の中に入れて焼く。焼けたところを出して皮をむいて切る。中につぎ込んだ醤油が良くしみ込んで香味がよくなる、

とある、という(仝上)。この「鉄砲焼」は、

形が鉄砲に似ているから、

という。ここから「鉄砲焼」の名だけが引き継がれたのではないか。そうみれば、

食べると葱の芯がポンと抜けるのが鉄炮に似ているから、

とするのには意味がある。そう考えるには理由がある。

たとえば、「鉄砲漬」というものがある。千葉県内にはタケノコの鉄砲漬(筍の中にトウガラシ)、菜の花の鉄砲漬(瓜の中に菜の花。トウガラシなし)などなどいろいろな「鉄砲漬」があるが、正しい「鉄砲漬け」は、

白瓜の種の部分を抜き、ここにシソで巻いた 「青トウガラシ」を入れて醤油または味噌漬けにしたものです。発祥地は「千葉県成田」です、

とある(https://style.nikkei.com/article/DGXMZO13914750Q7A310C1000000?page=2)。唐辛子の辛さが由来と思いたいが、

周りの白瓜を鉄砲の筒に見立てて、中に入っているシソ巻き青トウガラシを弾丸に見立てる、

ところから「鉄砲漬け」と言う(仝上)、とある。筍の節を抜いた筒状を、「鉄砲」と名づけたのと同じである。

鉄砲漬け.jpg


「烏賊の鉄砲焼」というのもあるが、

青森県下北半島や石川県能登、富山等々の郷土料理、で、いかの足を細かく切り、これにわたとみそを合わせて胴に詰めて焼いたもの。輪切りにして食べる、

とあり、これも同じ見立てなのではないか、という気がする。「鉄砲和え」も、「からしが効く」からではなく、

ネギの芯 (しん) が抜けるのが鉄砲に似る、

ところからではないか(デジタル大辞泉)。

スルメイカの鉄砲焼き.jpg

(スルメイカの鉄砲焼 https://www.toyama-sakana.jp/recipe/ika3/より)

「鉄砲巻」は、

干瓢を芯にした細い海苔巻、

だが、これも、

形が鉄砲の砲身に似ている、

というのが名前の由来である(広辞苑)。

短筒.jpg


「鉄砲」は、

鉄炮、

とも当てるが、多くは大筒ではなく、小銃を指す。この形をなぞって、

鉄砲釜、

というものがある(岩波古語辞典)。

鉄砲風呂と五右衛門風呂.jpg

(鉄砲風呂と五右衛門風呂 https://www.nasluck.co.jp/useful/bath/history/より)

据え風呂・風炉に装着して火を焚く金属製の円筒、

である(仝上)。幕末の『守貞謾稿』にも、

銕炮風呂と号て桶中の側に銅筒を立る、内に銕簀を納る、銅筒無底にて火勢を助く、是には炭を専らとし希には薪にても焚之、

とある(江戸語大辞典)し、

たっぷりの湯に首までつかる「据え風呂」ができたのは、慶長年間の末ころ。据え風呂は蒸気や薬湯ではなく、井戸水を沸かして入れるので「水(すい)風呂」とも呼ばれ、一般の庶民の家庭に広まります。湯舟は湯量が少なく済むよう、人一人が入れるほどの木桶を利用。浴槽の内側の縁に通気口のついた鉄製の筒をたて、この中に燃えている薪を入れます。通気口から入る風で薪が燃え続け、鉄の筒が熱せられることによって湯が沸く「鉄砲風呂」が発明され、江戸の主流となりました、

とあるhttps://www.nasluck.co.jp/useful/bath/history/。関西では、桶の底に平釜をつけ、湯をわかす「五右衛門風呂」が主流だったらしい。

このように、多く「鉄砲」の名がつくのは、

砲身と弾丸、

に準えたもののように思える。ただ例外は、

鉄砲汁、

で、これは、

河豚汁、

を指す(広辞苑)。

鉄炮と名にこそ立てれ河豚(ふくと)汁(元禄十六年(1703)『たから船』)、

という句がある。

河豚は当たると死ぬ、

のが「鉄砲」の名の由来らしいhttps://japanknowledge.com/articles/asobi/16.html

曲がり鉄砲、

とも言うが、河豚の刺身を、

テッサ、

河豚のちり鍋を、

テッチリと言うのは、

鉄砲の刺身・鉄砲のちり鍋の略、

とある(仝上)。因みに、「鉄砲」には、

法螺、
嘘、

の意味があるが、江戸初期から使われ、

人を驚かすから、文化九年(1813)の式亭三馬『浮世風呂』にも、

「イヤイヤ、飛八さんの話はいつも鉄炮だて」

と使われている(仝上)。

参考文献;
前田勇編『江戸語大辞典 新装版』(講談社)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル:鉄砲焼
posted by Toshi at 04:07| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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