「ゐ(い)る」は、
居る、
と当てるが、
動くものが一つの場所に存在する意、現代語では動くと意識したものが存在する意で用い、意識しないものが存在する意の「ある」と使い分ける、
とある(広辞苑)。「ある」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/467053373.html?1616713488)は、
ものごとの存在が認識される。もともとは、人・動物も含めその存在を著したが、現代語では、動きを意識しないものの存在に用い、動きを意識して「いる」と使い分ける。人でも、存在だけをいう時には「多くの賛成者がある」のように「ある」ともいう、
とある(広辞苑)。「ある」は、
空間的時間的に存在し持続する意が根本で、それから転じて、…ニアリ、…トアリの形で、…であるという陳述を表す点では英語のbe動詞に似ている。ニアリは後に指定の動詞ナリとなり、トアリは指定の助動詞タリとなった。また完了を表すツの連用形テとアリの結合から助動詞タリ、動詞連用形にアリが結合して(例えば、咲キアリ→咲ケリ)完了・持続の助動詞リ、またナリ・ナシ(鳴)の語幹ナ(音)とアリの結合によって伝聞の助動詞ナリが派生した、
とあり(岩波古語辞典)、漢字の「在」と「有」が、
「有」は、無に対して用ふ、
「在」は、没または去と対す、
と使い分ける(字源)が、
語形上、アレ(生)・アラハレ(現)などと関係があり、それらと共通なarという語幹を持つ。arは出生・出現を意味する語根。日本人の物の考え方では物の存在することを、成り出る、出現するという意味でとらえる傾向が古代にさかのぼるほど強いので、アリの語根も、そのarであろうと考えられ……る、
と(岩波古語辞典)、和語「ある」は、「有」、「在」の意味をともに持つ。
「ゐる」は、
立つの対、
とあり(仝上)、
すわる意、類義語ヲリ(居)は、居る動作を持続し続ける意で、自己の動作ならば卑下謙譲、他人の動作ならば蔑視の意がこもっている、
とある(「立つ」(http://ppnetwork.seesaa.net/archives/20140615-1.html)については触れた)。
「居る」は、上記のように、
を(お)る、
とも訓ませるが、「を(お)る」は、
をり(居)の転、
であり(大言海)、「をり」は、
居有(ゐあ)りの転(大言海)、
坐(ゐ)有りの転(岩波古語辞典)、
等々、当てる字は違うが、
「ゐる」と「ある」との結合したもの、本来「ゐる」はある場所にすわること、「ある」は、継続存在することを意味する、
と(日本語源大辞典)、
そこにずっといる、
意で、
人がじっと坐り続けている意、転じて、ある動作をし続ける意、奈良時代には、自己の動作について使うのが大部分で、平安時代以後は、例が少なく、自己の動作の他、従者・侍女・乞食・動物などの動作に使うのがほとんどを占めている。低い姿勢を保つところから、自己の動作については卑下、他人の動作については、蔑視の気持をこめて使う。中世以後、四段に活用、
とある(岩波古語辞典)。
さて、この「ゐる」は、
「ヰ・ウ(居)」、つまり動かないさま、
が語源(日本語源広辞典)、とある。岩波古語辞典は、「ゐ」に、
居、
坐、
を当てて、
立つの対、すわる意、
とする。
動かないさま、
が語源、
住む、止まる、集まる、坐るが「居る」の語源、
とある(日本語源広辞典)。これだと分かりにくいが、
もとは動かぬ意のヰルが、転じて住む、止まる、集(ゐ)る、坐るの義に広がった、
のであり(日本語源大辞典)、「ゐ」に、
居、
坐、
を当て(岩波古語辞典)、
じっと動かないでいる、低い姿勢で静かにしているのをいうのが原義、
なので(デジタル大辞泉)、
「立ち」の対、
とする(岩波古語辞典)のはその故である。だから、
もとは、動かぬ意のヰルが、転じて住む、止まる、集(ゐ)る、坐るなどの義に広がった(国語の語根とその分類=大島正健・豆の葉と太陽=柳田國男)、
といった語源説になる。
(「居」(金文・春秋時代 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%B1%85より)
「ゐる」に当てる「居」(漢音キョ、呉音コ)は、
会意兼形声。「尸(しり)+音符古(=固、固定させる、すえる)」で、台上にしりを乗せて、腰を落ち着けること。踞(キョ 尻をおろして構える)の原字、
とある(漢字源)。別に、
形声文字です(尸+古)。「腰掛ける人」の象形と「固いかぶと」の象形(「古い」意味だが、ここでは「固(コ)」に通じ(同じ読みを持つ「固」と同じ意味を持つようになって)、「しっかりする」の意味)から、しっかり座るを意味し、そこから、「いる」を意味する「居」という漢字が成り立ちました、
とする解釈もある(https://okjiten.jp/kanji888.html)。
「坐」(漢音サ、呉音ザ)は、
会意。「人+人+土」で、人が地上に尻をつけることを示す。すわって身丈を短くする意、
とある(漢字源)。別に、
会意文字です(人+人+土)。「向かい合う人の象形と、土地の神を祭る為に柱状に固めた土の象形(「土」の意味)」から、向かい合う2人が土にひざをつけて「すわる」を意味する「坐」という漢字が成り立ちました、
とする解釈もある(https://okjiten.jp/kanji2404.html)。
なお、入る、要る、炒る、煎る、射る、鋳る、率る、沃る等々と当てる「いる」については「いる」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/450380300.html?1616486835)で触れた。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95