上戸


「上戸」は、

じょうご、

と訓むと、

下戸(げこ)の対、

の意となり、

じょうこ、

と訓むと、701年(大宝1)に制定された大宝律令で、

賦役に服す義務をもつ壮丁(課丁)が6~8人いる家を上戸、4~5人の家を中戸、3人以下のそれを下戸(げこ)、

といい(日本大百科全書)、「上戸」は、

四等戸(大戸・上戸・中戸・下戸)の第二、

の意となる(広辞苑)。また、そこから、

貧富によって民家を区別して、富む家を上戸、貧しい家を下戸、

という意味でも使った(日本大百科全書)、とある。ここでは、

酒の飲めない人、

の意の、

下戸(げこ)の対、

の意とされる、

上戸(じょうご)、

である。

酒のたくさん飲める人、

の意だが、

笑い上戸、
無き上戸、

といった、

因った時の癖、

から、

日常の癖、

に転用しても使われる(広辞苑)。

「上戸(じょうこ)」に引きずられたせいか、「上戸(じょうご)」も、

庶民婚礼、上戸八瓶下戸二瓶、

とある(群書類要)として、

婚礼に用いる酒の瓶数の多少から出た(広辞苑)、
「上戸」「下戸」は、もと民戸の家族数による上下を言ったが、婚礼に用いる酒の瓶の数から、飲酒量に関して用いるようになったという(岩波古語辞典・大言海)、

等々と、江戸時代の随筆『塩尻(しおじり)』が伝える『群書類要』の、

庶民婚礼、上戸八瓶下戸二瓶、

根拠とする説が大勢である。しかし、酒瓶の数は、酒瓶の数で、飲酒量のことを指してはいない。「上戸」「下戸」は漢語由来ではあるまいか。

按以飲酒、為大小戸、三國之時也、今以嗜酒號上戸、以上頓與戸大幷言也(経史摘語)、

とあり(字源)、「戸大」とは「酒豪」の意とある。「戸」は、

とぐち、とびら、

の意だが、

飲酒の量、

の意があり、

大戸、
小戸、

と使い、白居易の詩に、

戸大嫌甜酒、才高笑小詩、

とある(仝上)。

戸大は上戸、

とある(仝上)「甜酒(てんしゅ)」は、もち米を蒸し、発酵させた甘い酒である。辛党が好むはずはない。

「戸」は酒量の意で、酒飲みの意の「上頓(じょうとん)」「戸大(こだい)」の語の1字ずつをとって上戸とし、その逆を下戸とした(日本大百科全書)、

ともある。

上頓の訛りという。また飲酒を戸というのは三国からの語であるから、上頓と戸大をあわせて上戸といった(俚言集覧)、

とするのは、上述の「経史摘語」を指している。

この「上戸」の由来については、

秦の阿房宮は高くて寒いため、殿上の戸の内に宿直する者は多量の酒を飲んで上がったから(志不可起・一時随筆・卯花園漫録)、
秦の時代、万里の長城で門番をしている兵士がいました。万里の長城には「上戸」と呼ばれる寒さの厳しい山上の門と、「下戸」と呼ばれる往来の激しい平地の門があります。労をねぎらうために、上戸の兵士には体を温めるお酒を、下戸の兵士には疲れを癒やす甘いものを配ったそうです。それが転じて、現在の「上戸」「下戸」の意味になったとされていますhttps://jp.sake-times.com/knowledge/culture/sake_jogo

等々とするが、そんな付会をする必要はなく、「上戸」は、漢語、

大戸、
小戸、

あるいは、

戸大、

からきた、漢語由来と考えていいのではないか。

「戸」 漢字.gif

(「戸」 https://kakijun.jp/page/0452200.htmlより)

「下戸」も、

酒を飲み得ざる人、

とある(字源)。

「戸」(漢音ト、呉音ゴ・グ)は、

象形。門は二枚扉を描いた象形文字。戸はその左半分をとり、一枚扉の入口を描いたもの、

とある(漢字源)

「戸」 成り立ち.gif

(「戸」成り立ち https://okjiten.jp/kanji267.htmlより)

因みに、「上戸」と同じ意味の、「左党」は、

江戸時代、大工や鉱夫が右手に槌、左手にノミを持つことから右手のことを「槌手」、左手のことを「ノミ手」と言いました。この「ノミ手」が「飲み手」と同じ発音だったため、ダジャレのような感覚で、お酒飲みのことを「左利き」と呼ぶようになりました。「左党」もその派生語とされています、

との説がある(https://jp.sake-times.com/knowledge/word/sake_word-geko・笑える国語辞典)。

また、同義の「辛党」は、近代以降で、

酒が好きな人、
辛いものが好きな人
塩からいものが好きな人、

の用例は古くても1920年代ごろ、酒好きの意味にシフトしたのは、1930年頃、

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%BE%9B%E5%85%9A、最近の言葉のようである。

参考文献;
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
簡野道明『字源』(角川書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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