2021年04月25日

雑炊


「雑炊」は、

雑吸、
増炊、

等々と当てる(たべもの語源辞典・語源由来辞典)が、

大根・ねぎなどの具を刻みこみ味付けをして炊いた粥(広辞苑)、
醤油や味噌などの調味料で味を付け、肉類、魚介類、キノコ類や野菜などとともに飯を煮たり、粥のように米から柔らかく炊き上げた料理https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%91%E7%82%8A

等々とある。

雑炊、

は当て字で、古くは、

増水、

と当てられた(たべもの語源辞典)。「増水」というのは、

粥にして水を増す、

という意である(仝上)。「雑炊」は、

ただしくは増水、

とあり(江戸語大辞典)、「増水」は、

米の粉に水を加えてかき混ぜて煮立てた羹(あつもの 熱い吸物)、

であり、これを、

こながき、

ともいった(たべもの語源辞典)。「こながき」は、

こなかき、

ともいい、

糝、
餗、

等々と当てるが、平安中期の『和名抄』に、

餗、古奈加木、

米の粉をかきまぜて煮立てた羹(あつもの)、

とあり(たべもの語源辞典)、平安後期の『字鏡』に、

以糝煮肉也、古奈加支、

室町時代の『下学集』には、

増水羹也、

とある。「こながき(こなかき)」は、

熟攪(コナシガキ)の義、かきこなしの意。名義抄「擾、かきこなし」、熟田(こなた)、錬金(こながね)も、こなしだ、コナシガネなり(大言海)、
コナカキ(粉掻)の義(言元梯)、
米粉を菜羹(さいこう)に和える意で、コナカキ(粉菜掻・米菜掻)の義(日本釈名・和訓栞)、

等々、

米粉をかきまぜる、

という意に由来しているが、古くは、

穀類の粉末を熱湯でかいて補食または薬食としたもの、

であり(たべもの語源辞典)、厳密には、今日の「雑炊」とは異なる。

「雑炊」は、

びょうたれ(河内・播州)、
みそづ(加賀・越中・但馬)、
にまぜ(越前)、
いれめし(伊勢)、

等々と呼ばれ、東国では、

ぞうすい(ざふすい)、
いれめし、

といい、女房詞で、

おじや、

という(仝上)。「おじや」は、

じやじやは、煮ゆる音、じわじわ、じくじく(大言海)、

あるいは、

ジャジャと時間を長くかけて煮るさま(上方語源辞典=前田勇)、

由来と思われるが、安永四年(1775)の『物類称呼』に、

東国にて、ざふすい又いれめしといふ、婦人の詞に、おじやといふ、

とあり、幕末の『守貞謾稿』には、

江戸にて男女専らおじやと云……是も実は女詞なるべし、

とある(江戸語大辞典)。「雑炊」の呼び名に、

みそづ、

というのがあるが、江戸語大辞典は「雑炊」を、

味噌汁に飯・野菜を入れて炊いた粥、

としているように、

味噌水、

と当て、

みそうづ、

ともいい、

粥を味噌で煮たもの、

の意である。そういう食べ方が多かったのかもしれない。鎌倉時代中期『沙石集』(しゃせきしゅう / させきしゅう)には、

糝、ミソウヅ、増水也、

とある。しかし、「みそうづ」に、

醤水、
未曾水、
味噌水、

等々(世界大百科事典)と当て、女房詞で、

おみそう、

と呼ぶとあり、足利将軍家では七草粥にせず七種の雑炊を用いて、

御みそうづ、

と呼んだ(たべもの語源辞典)、とある。侍中群要(1071頃)には、

不入給日〈略〉如餹飯餠・味噌水・芋之類、

とある(精選版日本国語大辞典)。

江戸時代の『物類称呼』になると、

京都で正月七日の朝、若菜の塩こながきを祝って食べるが、これをふくわかしという。大坂・堺辺では、神棚に供えた雑煮、あるいは飯のはつほなどを集めておき、糝(こながき)に加えて食べるが、これを福わかしという。土佐では正月七日雜水に餅を入れたのを福わかしという。江戸で、正月三日上野谷中口の護国院に福わかしがあるが、これを大黒の湯という。男女が群集する、

とある(仝上)。どうやら、当初、

米の粉に水を加えてかき混ぜて煮立てた羹、

で、文字通り、

増水、

であったものが、今日の、

飯・野菜を入れて炊いた粥(江戸語大辞典)、

である、

雑炊、

に近くなっている。「雑炊」を、

雑菜粥、

とも呼ぶ(大言海)のは、この意味であろうか。

元来は白粥には味付けしなかったので、野菜や魚貝類を入れ、醤油や味噌で味付け、

するようになって、

雑炊、

と当てたものとみられる。

きのこ雑炊.jpg


「増水」と「白粥」の違いは、

増水は塩味を加えたが、白粥は塩味を加えなかった、

のである(たべもの語源辞典)。

こう見てくると、今日、「雑炊」と「おじや」の区別を、たとえば、

調理にあたり、米飯をいったん水で洗い、表面の粘りをとってから用いることで、さらっと仕上げたものが雑炊。そうでないのがおじや、
汁とともに温めるだけ、または水分が飛ぶほどには煮込まず、米飯の粒の形を残すものが雑炊。煮込んで水分を飛ばし、米飯の粒の形をさほど残さないのがおじや、
味噌や醤油で味付けをしたものをおじやと呼び、塩味または煮汁が白いものは雑炊と認識している地域がある。その一方で塩味に限らず醤油味のものも雑炊と呼ぶ地域もある、

等々とする(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%91%E7%82%8A・語源由来辞典)のは、たとえば、

増水→こながき→みそうづ→おじや、

といったように、次第に「増水」から具を入れ、味付けするようになった歴史的経緯の、どの段階にあるかの差でしかないことがわかる。なお、沖縄料理のジューシー(本来の方言名はジューシーメー)は、

雑炊(雑炊飯)の転訛、

であるとされる(仝上)。

「雜」 戦国時代.png

(「雜」(簡牘文字・戦国時代) https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%9B%9C

因みに、「雜(雑)」(慣用ゾウ・ザツ、漢音ソウ、呉音ゾウ)は、

会意兼形声。木印の上は衣の変形。雜は、襍とも書き、「衣+音符集」で、ぼろ布を寄せ集めた衣のこと、

とある(漢字源)。別に、

会意兼形声文字です(衣+集)。「衣服のえりもと」の象形(「衣服」の意味)と「鳥が木に集まる」象形(「あつまる」の意味)から、衣服の色彩などの多種のあつまりを意味し、そこから、「まじり」を意味する「雑」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji875.html。いろいろなものが混じる、意である。「増水」の字では表しきれず、「雜」+「炊」とするには意味があった、と思える。

「雜」 成り立ち.gif

(「雜」成り立ち https://okjiten.jp/kanji875.htmlより)

参考文献;
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:02| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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