2021年04月26日

雑煮


「雑煮」は、

雑煮餅の略、

とある(大言海)。

餅を主に仕立てた汁もの、新年の祝賀などに食する、

ものである(広辞苑)。室町時代の『鈴鹿家記』に、

初めて「雑煮」という言葉が登場する、

とあるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%91%E7%85%AE。古くは、

烹雜(ほうぞう)、

といった(たべもの語源辞典)とあるが、ただ、

以前の名称ないし形態については諸説あり、うち1つの名前は、烹雑(ほうぞう)といわれる、

とあるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%91%E7%85%AE

雑煮と御節料理.jpg

(雑煮と御節料理 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%91%E7%85%AEより)

「煮切り」http://ppnetwork.seesaa.net/article/480550074.htmlで触れたが、「にる」の意の漢字には、

煮、
烹、
煎、

等々などがあり、三者は、

「煎」は、火去汁也と註し、汁の乾くまで煮つめる、
「煮」は、煮粥、煮茶などに用ふ。調味せず、ただ煮沸かすなり、
「烹」は、調味してにるなり。烹人は料理人をいふ。左傳「以烹魚肉」、

と、本来は使い分けられている(字源)。漢字からいえば、「にる」は、

狡兎死して走狗烹らる、

の成句があるように、「煮る」は「烹る」でなくてはならない。その意味で、

烹雜、

から、

雑煮、

に転じた背景には、「烹る」ではなく、「煮る」が慣用化されて以降、ということになるが、「にる」は、

に(煮 上一段)、

で、万葉集に、

食薦(すごも)敷き青菜煮持ち来(こ)梁(うつはり)に行騰(むかばき)掛けて休むこの君、

とあり、あるいは、

にる(煮 上一段)、

でも(「煮ゆ」の他動詞形)、万葉集に、

春日野(かすがの)に煙(けぶり)立つ見ゆ娘子(をとめ)らし春野のうはぎ採みて煮らしも、

と、共に、「煮」を当てている。当初から、「煮る」を用いていた可能性はある(広辞苑・大言海・岩波古語辞典)。

ただ、梁高僧伝に、

密以半合米、雑煮也

とある(大言海)。『梁高僧伝』は、

高僧伝、
梁伝、

とも言われ、

梁・天監一八年(五一九)述。中国への仏教伝来年とされる後漢・永平一〇年(67)から天監一八年(519)に至る二五七人の高僧の列伝を集めたもの<

であるhttp://jodoshuzensho.jp/daijiten/index.php/%E6%A2%81%E9%AB%98%E5%83%A7%E4%BC%9D。そこで「雑煮」という言葉が使われている。あるいは、漢語なのかもしれない。

「雑煮」は、

羹餅(かんのもち)、一名雑煮(和漢三才図絵)、

とあるように、

羹餅(かんのもち)、

とも呼ばれ、略して、

かん、

ともいい、

元日に、かんを祝ふところへ、數ならぬ者、禮に来る(元和三年(1617)「醒睡笑」)<

とあり(大言海)、「カン」は、

羹(カウ)の唐音、羹(スヒモノ)の餅の意、

である(仝上)。「かん」は、

吉原詞、

とあり(江戸語大辞典)、

おかん、

ともいう、とある(仝上)。物類称呼(1775)には、

畿内にて雑煮と云、又カンとも云、江戸にては、新吉原にてカンと云、オカンを祝ふ、又をかん箸など云ふ、案に新吉原市中をはなれて一ト廓を構へ住居す、ゆへに古く遺りたる事多し、

とある(江戸語大辞典)。「かん」という古い言い方が、吉原に残ったものらしい。「おかん」は、

御羹、

と当て、これも、遊女の隠語で、

正月中の節(せち)の食べものなり(文政八年(1825)「兎園小説」)、

とある(仝上)。

専ら正月の元日より三日の間、畿内にては羹(カン)の餅、又、おかんというが、「雑煮をたべる」ことを「食ふ」とは言わず、

羹(カン)を祝う、
雑煮を祝う、

という(大言海)、とある。

なお、「羊羹」http://ppnetwork.seesaa.net/article/472187601.htmlで触れたように、「羹(あつもの)」(漢音コウ、呉音キョウ、唐音カン)は、

会意。「羔(丸煮した子羊)+美」

で、

肉と野菜を入れて煮た吸い物、

である(漢字源)。

わが国で、「餅」http://ppnetwork.seesaa.net/article/474462660.htmlを祝賀に用いる風習は古く、

元日の鏡餅http://ppnetwork.seesaa.net/article/473055872.html
上巳の草餅http://ppnetwork.seesaa.net/article/477094915.html
雛祭りの菱餅http://ppnetwork.seesaa.net/article/479150270.html
端午の粽http://ppnetwork.seesaa.net/article/474481098.html
十月の亥の子餅、

等々年中行事となっているが、

三月三日の草餅、
五月五日の粽、柏餅、

は中世になってからであり、

雑煮、

は江戸時代になってからである。この時代になって、

正月の鏡餅、雑煮餅、
三月上巳の草餅、菱餅、
五月五日の粽、
十月亥の日の亥の子餅、

と年中行事に欠かせないものになっていった。

参考文献;
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル:雑煮 雑煮餅 烹雜
posted by Toshi at 03:54| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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