2021年04月30日

吸口


「吸口(すいくち)」は、

煙管の吸口、
とか
たばこの吸口、

など、口に当たる部分を指す(広辞苑)が、ここでは、

吸物に浮かべて芳香を添えるつま、

の意(仝上)、である。

ゆず、木の芽、蕗の薹、

等々を指す(仝上・大言海)。香りを添え、味をしめるために、

季節のものをそえる、

とあり、

ショウガ、カラシ、ウメ、ミョウガ、ワサビ、ネギ、

等々https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%B8%E3%81%84%E7%89%A9

香りのあるもの、

である。

吸口として木の芽が浮かべられた吸い物.jpg

(吸口として木の芽が浮かべられた吸物 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%B8%E5%8F%A3より)

香りと風味を与え生臭い匂いを消す作用、
や、
見た目を美しくすることによって食欲をそそる働き、

だけではなく、

木の芽のような葉物を浮かべることで、熱い汁物を一気に飲むことで火傷をしないようにする効用もある、

とするhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%B8%E5%8F%A3。『大草家料理書』(16世紀中期)には、

生鶴料理の事。先作候て酒塩を懸て置。汁は古味噌をこくして。……すひくちは柚を入て吉也、

と載る(精選版日本国語大辞典)。

供し方は、

吸物(酒を飲むとき出すつゆもの)をつくるときは、お椀に具を入れ吸地(すいじ 汁)を張って、吸口を入れて蓋をする、

とある(たべもの語源辞典)。略して、

口、

とも、

香頭(こうとう)、
鴨頭(こうとう)、

ともいった(仝上)。香頭とは香料のことであり、香に鴨を当てたのは、江戸時代後期の『貞丈雑記』は、

青柚(あおゆ)の皮が汁に浮いているさまが、水中の鴨(かも)の頭のように見える、

ためだと記しているが、付会のようだ。

「鴨頭」は「鴨(アフ)」を「カフ」と誤読した当て字、

としている(デジタル大辞泉)し、鎌倉時代に、酒の盃に青い柚のヘギ切をちょっと浮かべて飲む酒、

柚子酒、

が流行っていた。李白の酒を讃えた、

遥かに漢水の鴨頭の緑を看れば、

という詩句(襄陽歌)から、

鴨頭、

と当てたのではないか、と推測している(たべもの語源辞典)。また、

鶴頭、

とも当てる(広辞苑)。

ちなみに、「ヘギ切」とは、

へぎ独活、
へぎ柚子、

といったように、「へぎ」は、

剥ぎ、

と当て、薄く表面を剥ぎ取る意味になるhttps://temaeitamae.jp/top/t2/kj/9991_K/01.html

「香頭」を使い出したのは室町時代で、『四条流庖丁書』(1489)に、

ヘギ生姜をカウトウに置くべし、

とある(仝上)。

「吸物」というのは、今日、

つゆ、
とか、
すまし汁、

を指すが、

すすり吸うように仕立てたもの、煮立てただし汁を塩・醤油・味噌などで味付けし、魚肉や野菜を実とする、

とある(広辞苑)。

羹(あつもの)、

とも呼び、

酒の肴、

となるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%B8%E3%81%84%E7%89%A9。因みに、

しる(汁)、

は、食事の時ご飯と共に出る、

つゆもの、

を指すが、

吸物、

は、

酒と共に出るもの、

を指した(たべもの語源辞典)。

「吸口」は、

つま、

の一種とされることもある(広辞苑)。

「つま」は、

刺身や汁などのあしらいとして添える野菜・海藻など、

の意(広辞苑)だが、「さしみのつま」http://ppnetwork.seesaa.net/article/480958538.html?1618167957で触れたように、

妻、
とも、
具、

とも当て、

刺身や汁などのあしらいとして添える野菜・海藻、

の意だが、「つま」http://ppnetwork.seesaa.net/article/443211797.html?1615959193で触れたように、「つま」は、

妻、
夫、
端、
褄、
爪、

と当てて、それぞれ意味が違うが、つながっている。いずれも、

端(ツマ)、ツマ(妻・夫)と同じ(岩波古語辞典)、

物二つ相並ぶに云ふ(大言海)、

と、

はし(端)説、

あいだ説、

がある。「つま」http://ppnetwork.seesaa.net/article/443211797.html?1477684696でも書いたことだが、上代対等であった、





の関係が、時代とともに、「妻」を「端」とするようになった結果、

対の関係、

が、

つま(端)

になったように思われる。たべもの語源辞典は、「つま」の、

ツは連(ツラ)・番(ツガフ)のツ、
マは身(ミ)の転、

とし、「連身」説を採っている。「つま」は、あるいは、

対(つい)、

と通じるのかもしれない。「対」は、唐音由来で、

二つそろって一組をなすもの、

である。「つゐ(対)」は、

むかひてそろふこと、

でもある(大言海)。

江戸時代の料理書には、「つま」に、

交、
具、
妻、

等々を当て、「具(つま)」には、

大具(おおつま)、
小具(こつま)、

があり、「交(つま)」は、

取り合わせ、
あしらい物、

の意であり、

配色(つま)、

とも書く(たべもの語源辞典)。こうみると、

主役と脇役、

は、対である。

「吸口」は、

つま、

ともされるが、

汁物料理に用いられるつけあわせ、薬味のこと、

と、

薬味、

ともされるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%B8%E5%8F%A3。「薬味」は、

食物に添えてその風味を増し、食欲をそそるための野菜や香辛料、

で、広く、

加薬、

と呼ばれる、

わさび、生姜、ねぎ、あさつき、大根、山椒、紫蘇、芹、三つ葉、茗荷、独活、春菊、蓼、大根おろし、七味唐辛子、胡麻、芥子、海苔、削り節、

等々を指す(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%96%AC%E5%91%B3・広辞苑・世界大百科事典他)。

「吸口」は、

つまの一種、
薬味の一種、

とされるが、あくまで、

吸い物に浮かべて芳香を添えるもの、

である。

参考文献;
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル:吸口 薬味 つま
posted by Toshi at 03:56| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください