「吸口(すいくち)」は、
煙管の吸口、
とか
たばこの吸口、
など、口に当たる部分を指す(広辞苑)が、ここでは、
吸物に浮かべて芳香を添えるつま、
の意(仝上)、である。
ゆず、木の芽、蕗の薹、
等々を指す(仝上・大言海)。香りを添え、味をしめるために、
季節のものをそえる、
とあり、
ショウガ、カラシ、ウメ、ミョウガ、ワサビ、ネギ、
等々(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%B8%E3%81%84%E7%89%A9)、
香りのあるもの、
である。
(吸口として木の芽が浮かべられた吸物 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%B8%E5%8F%A3より)
香りと風味を与え生臭い匂いを消す作用、
や、
見た目を美しくすることによって食欲をそそる働き、
だけではなく、
木の芽のような葉物を浮かべることで、熱い汁物を一気に飲むことで火傷をしないようにする効用もある、
とする(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%B8%E5%8F%A3)。『大草家料理書』(16世紀中期)には、
生鶴料理の事。先作候て酒塩を懸て置。汁は古味噌をこくして。……すひくちは柚を入て吉也、
と載る(精選版日本国語大辞典)。
供し方は、
吸物(酒を飲むとき出すつゆもの)をつくるときは、お椀に具を入れ吸地(すいじ 汁)を張って、吸口を入れて蓋をする、
とある(たべもの語源辞典)。略して、
口、
とも、
香頭(こうとう)、
鴨頭(こうとう)、
ともいった(仝上)。香頭とは香料のことであり、香に鴨を当てたのは、江戸時代後期の『貞丈雑記』は、
青柚(あおゆ)の皮が汁に浮いているさまが、水中の鴨(かも)の頭のように見える、
ためだと記しているが、付会のようだ。
「鴨頭」は「鴨(アフ)」を「カフ」と誤読した当て字、
としている(デジタル大辞泉)し、鎌倉時代に、酒の盃に青い柚のヘギ切をちょっと浮かべて飲む酒、
柚子酒、
が流行っていた。李白の酒を讃えた、
遥かに漢水の鴨頭の緑を看れば、
という詩句(襄陽歌)から、
鴨頭、
と当てたのではないか、と推測している(たべもの語源辞典)。また、
鶴頭、
とも当てる(広辞苑)。
ちなみに、「ヘギ切」とは、
へぎ独活、
へぎ柚子、
といったように、「へぎ」は、
剥ぎ、
と当て、薄く表面を剥ぎ取る意味になる(https://temaeitamae.jp/top/t2/kj/9991_K/01.html)。
「香頭」を使い出したのは室町時代で、『四条流庖丁書』(1489)に、
ヘギ生姜をカウトウに置くべし、
とある(仝上)。
「吸物」というのは、今日、
つゆ、
とか、
すまし汁、
を指すが、
すすり吸うように仕立てたもの、煮立てただし汁を塩・醤油・味噌などで味付けし、魚肉や野菜を実とする、
とある(広辞苑)。
羹(あつもの)、
とも呼び、
酒の肴、
となる(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%B8%E3%81%84%E7%89%A9)。因みに、
しる(汁)、
は、食事の時ご飯と共に出る、
つゆもの、
を指すが、
吸物、
は、
酒と共に出るもの、
を指した(たべもの語源辞典)。
「吸口」は、
つま、
の一種とされることもある(広辞苑)。
「つま」は、
刺身や汁などのあしらいとして添える野菜・海藻など、
の意(広辞苑)だが、「さしみのつま」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/480958538.html?1618167957)で触れたように、
妻、
とも、
具、
とも当て、
刺身や汁などのあしらいとして添える野菜・海藻、
の意だが、「つま」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/443211797.html?1615959193)で触れたように、「つま」は、
妻、
夫、
端、
褄、
爪、
と当てて、それぞれ意味が違うが、つながっている。いずれも、
端(ツマ)、ツマ(妻・夫)と同じ(岩波古語辞典)、
と
物二つ相並ぶに云ふ(大言海)、
と、
はし(端)説、
と
あいだ説、
がある。「つま」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/443211797.html?1477684696)でも書いたことだが、上代対等であった、
夫
と
妻
の関係が、時代とともに、「妻」を「端」とするようになった結果、
対の関係、
が、
つま(端)
になったように思われる。たべもの語源辞典は、「つま」の、
ツは連(ツラ)・番(ツガフ)のツ、
マは身(ミ)の転、
とし、「連身」説を採っている。「つま」は、あるいは、
対(つい)、
と通じるのかもしれない。「対」は、唐音由来で、
二つそろって一組をなすもの、
である。「つゐ(対)」は、
むかひてそろふこと、
でもある(大言海)。
江戸時代の料理書には、「つま」に、
交、
具、
妻、
等々を当て、「具(つま)」には、
大具(おおつま)、
小具(こつま)、
があり、「交(つま)」は、
取り合わせ、
あしらい物、
の意であり、
配色(つま)、
とも書く(たべもの語源辞典)。こうみると、
主役と脇役、
は、対である。
「吸口」は、
つま、
ともされるが、
汁物料理に用いられるつけあわせ、薬味のこと、
と、
薬味、
ともされる(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%B8%E5%8F%A3)。「薬味」は、
食物に添えてその風味を増し、食欲をそそるための野菜や香辛料、
で、広く、
加薬、
と呼ばれる、
わさび、生姜、ねぎ、あさつき、大根、山椒、紫蘇、芹、三つ葉、茗荷、独活、春菊、蓼、大根おろし、七味唐辛子、胡麻、芥子、海苔、削り節、
等々を指す(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%96%AC%E5%91%B3・広辞苑・世界大百科事典他)。
「吸口」は、
つまの一種、
薬味の一種、
とされるが、あくまで、
吸い物に浮かべて芳香を添えるもの、
である。
参考文献;
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95